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23.なんだかとっても怖いわ―(棒)
しおりを挟む『ゲホッゲホッ………この態度は許しがたい。だが、この小童をここからすぐに追い出すと言うなら許そう』
良かったわ、私の気持ちは伝わったようね。
それにしても精霊王のお言葉だって言うのに、ちっとも締まらないわね。
「仰せの通りに」
グリフ様がまた頭を下げてそう答えると、お尻の炎がフッと消えた。
ラルフはその場にへたり込んだわ。
何度も言うけど、そこ私のベッドの上だから!
「ラルフ、早く精霊王さまに謝罪しろ!」
「あ、ぼ、僕」
『ふん、謝罪などいらぬ。この小童からは火の魔法を返してもらおう。そうすればもうここにいる必要もないだろうからな!』
えっ、ちょっと、それは駄目よ。
ラルフから火属性がなくなったら、もう何も無いのよ?
そんなことしたら、ヒロインとのフラグが折れちゃうじゃないの!
「ラルフ! 早く謝罪を!」
『よいと言っている。とっとと小童を追いだすがいい!』
ラルフに叫ぶグリフ様に、火の精霊王はそう言うと姿を消してしまった。
「僕、僕は……」
ラルフは茫然としているわ。
まぁ、あたりまえね。急に自分の中の魔力も、火の魔法も無くなってしまったんだもの。
え、何故分かるのかって?
分かるわよ。
だって、ラルフの瞳の色が変わったもの。
ラルフの瞳って赤いのよね。
それは火の精霊が火の魔法を使うことを許した証なの。この場合は精霊王じゃなく精霊ね。
赤ん坊のころから魔力が多い子は、体力がないから魔力に振り回されて、時にそれは命にかかわる。だから魔力が多いことが分かるとすぐに精霊と契約させるんですって。
余分な魔力が精霊に流れて暴走を抑え込めるし、精霊の加護もえらえる。それに契約した精霊の属性魔法は最上級まで使えるようになるのよ。
だけどね、その代わりそれ以外の属性は全滅するし、もし精霊を怒らせたり嫌われると魔力が奪われ、魔法も使えなくなってしまう。
今回、契約の精霊は大丈夫だったけど、その上司でもある精霊王によって契約をはがされてしまったから……今のラルフの瞳の色は茶色。多分元の色になるのね。
それは、もう魔法は使えないって事よ。
―――――まったく、なんてことしてくれるのかしら。
心の底から、ため息をつきたくなったわ。
と思ったらグリフ様が、額に手を当ててため息をついていたわね。
かなり機嫌も悪そうよ。
「ラルフ、本当に何をしたんだ? 何をすれば精霊王様をあんなにも怒らせることが出来るんだ?」
「ぼ、ぼ、ぼ」
「ぼ?」
「僕は何もしていない!」
ラルフは涙目でそう訴えるけど、貴方がいるのはまだ私のベッドの上なのよ!
何もしていないなんて言い訳が通るわけないでしょう!
ピキリとグリフ様の周りの空気が凍ったわ。
――――少し離れておきましょう。
「ラルフ、聞き方を変えよう。マチルダの部屋で、何をしようとしていたんだ?」
グリフ様の声が地を這う蛇のように感じるわ。
ラルフもすくみあがっているわよ。
――――もう少し、距離を置きましょうね。
「言えないことか?」
グリフ様の目が細くなったわ。
獲物を狙う猛禽類みたいでカッコいいけど、ラルフがつばを飲むのが聞こえるくらいの静寂と、緊張感。
怖いわ―(棒)
「ぼ、ぼ、僕はただ……その女を懲らしめたかったんだ!」
「懲らしめる?」
「殿下が言っていた。その女のせいでマルクス兄様が悪く言われるんだって。嘘まみれの噂を流し、グリフ兄様まで魅了したって」
ラルフがまたも私を指差したわ。
馬鹿ね。何で逆なでするのかしら。
お兄様をマルクス兄様ってのも気になるけれど……それよりも。
――――今度は魅了ですって!
凄いわね。
だけど、そんなことはヒロインの妹にお任せするわ。
乙女ゲームで魅了なんて、ヒロインの専売特許でしょ。
まぁ、私は職業が聖女でもヒロインでも無く、貴方達の言うように悪役令嬢。
魅了もできないこともないけど、やらないわよ?
私はひっそりが希望だもの。
「このままじゃ、グリフ兄様、マルクス兄様だけじゃなく、ルフィナにも悪影響が出る……ルフィナは愛し子だから、もし彼女に何かあったら精霊王様たちが怒る……だから……」
「だから、なんだ」
「だから僕はその女の悪事を暴いて、グリフ兄様のためにもこの家から追い出してやろうと……」
あら、ラルフはもう妹とも会っているのね。
ゲームでは、まだ出会わない筈だけど……なんだかもう攻略されてるみたいな言い方ね。
どう言うことかしら。
「お前もか」
グリフ様が冷気を溢れさせながら舌打ちして、ラルフをようやくベッドから引きずりおろしたわ。
床に押し付けられたラルフが目を瞠ってグリフ様を見上げているけど……
「……グリフ兄様?」
怖い、怖いわ。
これから一体どうなるのかしら?
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