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33.また出たわ!
しおりを挟む私が陛下の望む答えを口にしないから、部屋は気不味い沈黙が流れてる。
先日の第二王子の話が本当であれば、“愛し子”は美しい心の持ち主で、無条件にこの世界を愛しているのよね。
だから、もし私が“愛し子”だったなら、迷いなく世界を救うと言うって思っていたのでしょう。
グリフ様はともかく、陛下はかなりがっくりきてるみたいね。
「マチルダ嬢、君には誰か守りたいとか、生きていて欲しいとか……そういう人は……」
長い沈黙の後、陛下は悲壮な顔のままゆっくりと口を開いて、そのまま途切れた。
多分、いないのか、と続いたと思うけど、私がその前に首を横に振ったから。
普通だったら自分の住む世界が危機に瀕してて、自分にそれを救う力があるなら、世界を救おうって思うのが正しい答えなんでしょうけど……
私は、この世界をそれほど愛してないもの。
「マチルダ嬢……」
陛下がまた何か言いかけたところで、ふわりと風が吹き込んできた。
窓、開いていたかしらと思ってそちらを見れば、空中にやけに白い人がいる。
白い髪に灰色の瞳で、ドレープたっぷりの白い服を着てる。
あら、嫌だ。目があっちゃったわ。
『変わった気配がすると思えば、君が来ていたのか』
知り合いみたいにおっしゃるけど、私、貴方の事など知りませんわよ。
グリフ様と陛下のどちらかとお知り合いかと思って二人を見れば、何故か見つめ合ったまま動かなくなっていた。
―――――これ、何?
もう一度白い人を見れば、何故か面白そうに私を見ているし。
……そう言えば宰相宅って風の精霊王がいるんだったかしら。
これって、またヤバイやつかしら?
『……もう大分、加護があるんだね』
好きで集めたわけじゃありませんわよ! 勝手に押しつけてくるんですわ!
『ふうん。そうなんだ』
ふわんと風に草がなびくように、白い人が私に近付いてきたわ。
『じゃあ、僕も、仲間に入れてもらおうかな』
ちょっと、勝手にやめてちょうだいっ!!!!
私はめいいっぱい叫びましたわ。
ちゃんと聞こえている筈ですのにっ!!!!
それは私に断りも無く、にこやかに額にキスをして、
『森と火と水の精霊王と共に我が加護を授けよう』
そんなことを言って、現れた時と同じようにふわりと消えてしまったの。
もう叫ぶことも出来ずに茫然としたままそれを見送った私に、追い打ちをかけたのは陛下よ。
私が精霊王の身勝手な行動を止めることが、またも、またも、またも、またも出来なくてへこんでいるというのに、陛下はこう言ったわ。
「あれ? 何で加護が増えてるの!?」
風の精霊王に全く気がつかなかったくせに、何言っているのかしら。
その上、その口調、どういう事よ!
『陛下は見える人なんですかぁ?』
て、軽く聞けたらどんなに良かったかしら。
でもそんなこと聞いたら、私加護を持ってますって言ってるようなものじゃない。
回避のために、ひたすら首をかしげてたわよ。
そうしてるうちに陛下の滞在時間が終わったのね。宰相やらがぞろぞろやって来て、まだ何か言いたげな陛下を連れて行った。
すれ違いざまに私を凄い目で見てたけど……。
皆が皆そんな風だから陛下ががっかりする事になるのよっ。
もし私が愛し子だったとしても、世界を救わな半分はあんたたちのせいだからね!
て言ってやりたかった。
もちろん、言わないけど!!
あー、イライラするっ!!
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