17 / 63
17.王太子とお兄様……貴方達、大丈夫?
しおりを挟む「お前が、マルクスの妹か」
部屋に入った私を見るなり、ソファーに腰掛けた男がそう言った。
これがきっと王太子ね。装飾品が馬鹿みたいについた洋服を着てるもの。
確かお茶会で見たはずだけど……精霊王の方が印象深くて、よく思い出せないわ。
それにしても、出会い頭に
―――― お前、ですって。
本当に、素敵なご挨拶ね。
これから何を言われるのか考えると、ドキドキしちゃう。
名前は、確か……
「ヘンドリック様、レディに向かってその言い方。また教育係に叱られますよ」
「そうか? だが、その女は私の友人たちを困らせる悪女だろう?」
――――今度は悪女。……ますます楽しみな展開ね。
なんて思っていたら、グリフ様が目を細めたわ。
ちょっと室温が下がったわよ。
怒った……のかしら。
「陛下からの下命でしたから貴方を迎え入れたのですよ。私の大切な生徒を侮辱するなら、今後二度とこの家の門はくぐらせませんよ」
「それは困る!」
「では……正しい態度で挨拶を」
「わ、分かった」
王太子が慌てて立ち上がったわ。
きちんと背筋が伸びるのを待ってグリフ様は私の手を取り王太子の前に進み出た。
「私の直弟子、マチルダです、マチルダ、ご挨拶を」
「……マチルダと申します」
促されて、ワンピースをつまんで頭を下げる。
基本の動作よ。なんて言ったかしら、カテーシー? カーテシー?
どっちだったか忘れたわ。こっちでもそう言うのかも知らないけど。
まぁいいわ。
「ヘンドリックだ」
王太子はふんと鼻を鳴らす。本当に下品な男ね。
ほら、またグリフ様の周りの温度が下がっちゃったじゃない。冷えるからやめてほしいのに。
「マルクスから話を聞いて、一度顔を見ておきたかった」
あら、お言葉だけどちゃんとお茶会でお会いしたわよ?
認識疎外を使っていたとはいえ、お兄様と一緒にご挨拶したんだから、顔は無理でも挨拶をうけたこと位は覚えてて欲しかったわ。
それに、その前にも一度会っている……あれは子供心に結構印象的だと思うけど、忘れちゃったのかしら?
ここはきっちり教えてあげるべきかしら?
「どんな話をされているのでしょう?」
冷たい声に、ちらりと横に立つグリフ様を見上げれば、笑顔なのに目が笑っていないわね……怖い、怖い。
「グリフも知っているだろう。マルクスは私の側近候補の筆頭で、その妹は愛し子だ。だというのにその姉が、家族からの虐待で家を出たなどと言う噂がたっている。私が知るマルクスは妹思いのよい兄だ。決して姉妹を差別するような人間ではない」
王太子が自信たっぷりに断言したけど、その隣のお兄様は居心地が悪そうよ。
そうよね。居心地、悪いわよね。分かるわ。
だって、差別する人間なんですもの。
「そうですか、他にどんな噂があるか伺っても?」
王太子のせいでグリフ様の笑顔がますます深くなっていると言うのに、本人は話すのに夢中なのね。この冷たい空気を感じないみたい。
私、本当に怖いわ。
「あぁ、何でも部屋は日当たりの一番悪い場所、部屋にはベッドと物入れと机しかなく、服は一着のみで、お茶会のドレスも用意せずに母親のお下がりを着せられ、食事も入浴も従業員と同じ場所を使い、侍女もいなかった。そして勉強は家庭教師ではなく執事が教えていた……と」
えぇ、全くその通りです。
社交界の噂は伝言ゲームの筈なのに、よくそこまで変化なくお耳に入ったものですわ! 驚嘆しましたわよ。
あら、お兄様の顔色が、青から白になってますわ。
大変、唇まで真っ白よ! それにぶるぶる子犬のように震えてる。
……大丈夫かしら。
「だが、愛し子がいる邸でそんなことがある筈がない。此処にいる悪女が自分を正当化するために流しているのだと私は思っている。そして、今日その女の顔を見て確信した。どうだこの悪女顔、意地悪そうな目つき! 何を考えているか分からないではないか。きっと私の側近となるマルクスと、愛し子として愛されるルフィナ嬢を羨んでそのような虚言を広めたのだろう」
―――――今度は目つきと虚言ですってよ! そして広めるですって!
実家でも、この邸でもほぼ引きこもっている私が、どこにどうやって広めるって言うのかしら。
勝手な妄想を堂々と真実のように語れるなんて、本当にたいしたものよ。
流石王子様ね。
10
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
更新予定:毎日二回(12:00、18:00)
※本作品は他サイトでも連載中です。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる