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15.学園に近いと言うことは。

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 グリフ様の家は王宮と学園の近くにあるの。
 そして、グリフ様の家には攻略対象者が住む事になるわ。


――――――すっかり忘れていたけど…………


 ゲームでは、攻略対象者の家やゆかりの地にアレがいる。
 ヒロインが攻略を進めて好感度が上がると、攻略対象者のお家に招待されてイベントが起こり、それによってアレに気に入られる……

 グリフ様のお家の精霊王は、赤い髪に赤い瞳を持つ火の精霊王。

 グリフ様は攻略対象者2の魔法使いと従兄同士。魔法の研究は学園ではできないからって、ここに下宿するの。
 魔法について語り合ううち仲良くなったヒロインは、一緒に魔法の研究をしようとここに招待されて、炎関係のイベントで加護を得るの。

 で、ね。

 何で今そんなことを言っているかと言うと、いるのよ。
 今、目の前に、アレ、が。


 アレ――――――そう、精霊王。


 私は気がつかない振りをして、遠くに焦点をあわせているのだけど、……目の前の方も、赤い髪に赤い瞳、ですわね。
 私の前にフワフワ浮いて、私の額に額をくっつけるようにして私を見ているのよ。

 凄く邪魔。


 す・ご・く、邪魔!



 間違って視線があっても、見えてない振りをするのって大変よ。
 家であの子たちで練習していたから、意外と上手く出来ていると思うけど。

「おい、見えているよな?」

――――いいえ、見えていませんわ。

「見えてるじゃないか」

――――見えていません。

「……答えないと」

 二コリ、と精霊王がほほ笑む。

「燃やすぞ?」

 それは駄目ですわ―――――っ!

 って、見えてるのがばれるのも駄目ですわ。

「本当にいいのか? この家燃やすぞ?」

 まさかの実体化!
 私、無視して進もうとしたら、ぶつかったわ。
 二歩ほど下がって、精霊王を見上げる。
 私が悪くなくとも、人にぶつかったなら謝るべきよね。

「申し訳、ございません」

 顔を思い切りしかめて、私はそう申し上げました。

「全然悪いって思ってないだろう。すごい顔してるぞ」

 えぇ、思っていません。マジでムカついているわよ。
 どうして、ほおっておいてくれないのかしら。
 私はあなたたちに全く興味がありませんのよ。
 あなたたちが構うべきは私ではなく、妹の方?

 分かる?

 『愛し子』の妹の方。

 でも、今ここでそんなことを言ってはいけないわ。

 触らぬなんとかになんとかよ。

「急に人が現れたので、びっくりいたしました。仏頂面なのはご容赦いただきたいですわ」
「まぁいい。それより、なんで森の加護を持っているんだ?」
「加護、でございますか?」

 しらばっくれましょう。
 私は首を傾げました。
 精霊王の目が細くなります。

「森の加護を感じる」
「そう、でございましょうか?」
「気付いていないのか?」


――――いや、そんな筈はない。だが、決定的な加護ではないが……


 聞こえるか聞こえないかの声に、私は心を無にしました。
 精霊王は一人でブツブツ言った後、決心したように頷きます。

「分かった」



 あ、コレ、やばい奴や……



 精霊王は私に断りも無く、私の額にそっとキスをした!

「森の精霊王と共に我が加護を!」

 それは駄目ですわ―――――っ!




 私の心の悲鳴は、精霊王とやらの身勝手な行動を止めることが、またも出来ませんでした……。














 そうそう、忘れていたと言えば、私、自己紹介を忘れていたと思うの。
 皆さま、私の名前をご存じ?


 知らないでしょう?


 えぇ、えぇ、分かりますわ。普通は最初に自分語りをする筈ですものね。
 こんなに長く私の事を話すことになるとは思いませんでしたのよ。

 オーホホホホホ……ゲホッ、ゲホッ……失礼。


 て、冗談はこのくらいにして、私の名前は、マチルダよ。
 マチルダ・ラウティーナ。

 ラウティーナ侯爵家の長女で……ってここら辺はもう知ってらっしゃるわね。
 妹はルフィナ。兄はマルクス。

 今更だけど、覚えていてくれると嬉しいわ。




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