169 / 172
新章
168 半年の月日が流れて
しおりを挟む
冒険者ギルドのオープンから半年が経過した。
この半年は、人間の世界において稀に見る発展の時期であったと言えるだろう。
その速度は機械の発達によって生産力が劇的に向上した産業革命に勝るとも劣らない。
冒険者が迷宮から持ち帰る素材の質と量の激増が人間の社会に変化をもたらすのは必然であった。
冒険者ギルドのオープンと同時に発生した一大迷宮探索ブームとでも言うべき流れは、当初こそ無謀な勇み足をとってしまった死者が多めに出たものの、冒険者ギルドの提供するノウハウや安価なポーション、国と連動した救民策のおかげで全体としての死者を減少させ、ただその成果を山積みにした。
邪神の瘴気に押されて縮小を続けていた人間の版図は、高いところから落としたボールが強く跳ね上がるように反発した。
その先駆けとなったのは人族だ。
人族はとにかく物事への適応力が高く創意工夫に富んでいる。
迷宮の豊富な資源と冒険者ギルドの無尽蔵とも言える財力を存分に活用し、その発展の立役者である冒険者たち向けのサービスを活発化させた。
他の種族に比べて過去の技術をしっかりと遺し引き継いでいるのも人族の強みだ。
トシゾウやベルベットのテコ入れもあり、高レベルの冒険者向けの強力な装備が冒険者の迷宮探索を一層有利に運ばせ、新たに生まれた多くの娯楽が彼らの明日への活力を担っている。
チャンスを掴み波に乗った商人は僅かな期間で莫大な富を築き、逆に時代の変化に対応できず冒険者ギルドに敵対した商人はその規模を大きく削がれた。
さすがにかつての大商人は未だそれなりの力を保持しているが、以前のように冒険者ギルドに喧嘩を吹っかける力は残っていないだろう。
人間の底力はトシゾウが大いに認めるところでもある。
短期間で力を付けた人間が、次に求めるのは名誉だ。
人間たちはその勢いに任せるまま、実際にはそれなりの被害や事件を引き起こしつつも、新たに5つの特殊区画を開放した。これは驚異的なことだ。
特殊区画の開放と連動して広がる人間の領域、新たなフロンティア。
元は荒野であった時の面影もなく、まるで地殻変動と同時に数百万年の時が流れたかのように一瞬にしてある程度の生態系が構築され、すぐに入植が可能となるらしい。摩訶不思議な現象であった。
多くの場合、その特殊区画を開放した遠征軍の代表が貴族家としてその地を治めることとなる。
解放された5つの特殊区画は、うち2か所は人族、他3か所は人族以外が中心となって開放した。
他種族が開放した領地については人族が領地開発のノウハウを提供するとともに、緩やかな共同統治の体勢を築いた。
形式としても、一応は人族の王がその地の貴族を任命するという従来の形式を守っている。
これは無駄に新たな火種が生まれることを避ける措置であり、人族が他種族の開放した領地を支援するための条件でもあった。
他種族は条件付きながらもそれを受け入れ、すべての領地には冒険者ギルドの支部が設置され、ベルベットの腹心が冒険者ギルド支部の代表としてバランスを取っている。
生まれる莫大な利権を求めてひと騒動があったのだが、そのあたりは例によってトシゾウによって鎮圧されていた。
各所で発生するトラブルの量は膨大であり、トシゾウはビッチ、もとい艶淵狐クラリッサの手を借りた。
「と、トシゾウに頼られる日が来るとはの!わ、妾に任せるのじゃぁあ!そして今度こそトシゾウの寵愛を…い、痛いのじゃ!」
その手の陰謀への対処において、クラリッサは飛び抜けて優秀であった。
クラリッサは幻覚、催眠の能力に特化した魔物だ。
知恵ある魔物の中では戦闘能力はさして高くはないが、それでもその辺りの人間に後れをとることはまずない。
怪しい動きを見せる者はクラリッサの目に見透かされ、持っている情報を徹底的に吐かされることになった。
クラリッサによってお縄になった者の中には、宗教家や大商人などかなりの規模で犯行を企てていたケースもあった。
それらの計画が、くだらない悪事をたくらむ脳みそごと真っ白になったことはトシゾウの目的に大いに貢献した。
もちろん、トシゾウが倫理的にどうなのかという批判を受け付けることはない。
そもそもが大量に人間を殺すことを前提にした計画ばかりであり、どの口がほざくのかと笑った。
邪魔な勢力の粛清は激動期の風物詩である。
トシゾウの目的通りに人間が力を付けることは多くの人間の幸福に寄与する。
まぁそれは建前であり、当人は宝にしか目がなかったが…、トシゾウの基準の中に人間がその宝として紛れ込むことに成功したのは人類の最大の幸福であると言えるだろう。
トシゾウはスキル【擬態ノ神】でクラリッサと同じ能力を獲得することが可能だが、クラリッサと同じことができるかと言われれば否である。
持つべきものは優秀な隣人だとトシゾウは満足げに頷いた。
なお、クラリッサの求める夜の給料が手に入ったかは不明である。
この半年は、人間の世界において稀に見る発展の時期であったと言えるだろう。
その速度は機械の発達によって生産力が劇的に向上した産業革命に勝るとも劣らない。
冒険者が迷宮から持ち帰る素材の質と量の激増が人間の社会に変化をもたらすのは必然であった。
冒険者ギルドのオープンと同時に発生した一大迷宮探索ブームとでも言うべき流れは、当初こそ無謀な勇み足をとってしまった死者が多めに出たものの、冒険者ギルドの提供するノウハウや安価なポーション、国と連動した救民策のおかげで全体としての死者を減少させ、ただその成果を山積みにした。
邪神の瘴気に押されて縮小を続けていた人間の版図は、高いところから落としたボールが強く跳ね上がるように反発した。
その先駆けとなったのは人族だ。
人族はとにかく物事への適応力が高く創意工夫に富んでいる。
迷宮の豊富な資源と冒険者ギルドの無尽蔵とも言える財力を存分に活用し、その発展の立役者である冒険者たち向けのサービスを活発化させた。
他の種族に比べて過去の技術をしっかりと遺し引き継いでいるのも人族の強みだ。
トシゾウやベルベットのテコ入れもあり、高レベルの冒険者向けの強力な装備が冒険者の迷宮探索を一層有利に運ばせ、新たに生まれた多くの娯楽が彼らの明日への活力を担っている。
チャンスを掴み波に乗った商人は僅かな期間で莫大な富を築き、逆に時代の変化に対応できず冒険者ギルドに敵対した商人はその規模を大きく削がれた。
さすがにかつての大商人は未だそれなりの力を保持しているが、以前のように冒険者ギルドに喧嘩を吹っかける力は残っていないだろう。
人間の底力はトシゾウが大いに認めるところでもある。
短期間で力を付けた人間が、次に求めるのは名誉だ。
人間たちはその勢いに任せるまま、実際にはそれなりの被害や事件を引き起こしつつも、新たに5つの特殊区画を開放した。これは驚異的なことだ。
特殊区画の開放と連動して広がる人間の領域、新たなフロンティア。
元は荒野であった時の面影もなく、まるで地殻変動と同時に数百万年の時が流れたかのように一瞬にしてある程度の生態系が構築され、すぐに入植が可能となるらしい。摩訶不思議な現象であった。
多くの場合、その特殊区画を開放した遠征軍の代表が貴族家としてその地を治めることとなる。
解放された5つの特殊区画は、うち2か所は人族、他3か所は人族以外が中心となって開放した。
他種族が開放した領地については人族が領地開発のノウハウを提供するとともに、緩やかな共同統治の体勢を築いた。
形式としても、一応は人族の王がその地の貴族を任命するという従来の形式を守っている。
これは無駄に新たな火種が生まれることを避ける措置であり、人族が他種族の開放した領地を支援するための条件でもあった。
他種族は条件付きながらもそれを受け入れ、すべての領地には冒険者ギルドの支部が設置され、ベルベットの腹心が冒険者ギルド支部の代表としてバランスを取っている。
生まれる莫大な利権を求めてひと騒動があったのだが、そのあたりは例によってトシゾウによって鎮圧されていた。
各所で発生するトラブルの量は膨大であり、トシゾウはビッチ、もとい艶淵狐クラリッサの手を借りた。
「と、トシゾウに頼られる日が来るとはの!わ、妾に任せるのじゃぁあ!そして今度こそトシゾウの寵愛を…い、痛いのじゃ!」
その手の陰謀への対処において、クラリッサは飛び抜けて優秀であった。
クラリッサは幻覚、催眠の能力に特化した魔物だ。
知恵ある魔物の中では戦闘能力はさして高くはないが、それでもその辺りの人間に後れをとることはまずない。
怪しい動きを見せる者はクラリッサの目に見透かされ、持っている情報を徹底的に吐かされることになった。
クラリッサによってお縄になった者の中には、宗教家や大商人などかなりの規模で犯行を企てていたケースもあった。
それらの計画が、くだらない悪事をたくらむ脳みそごと真っ白になったことはトシゾウの目的に大いに貢献した。
もちろん、トシゾウが倫理的にどうなのかという批判を受け付けることはない。
そもそもが大量に人間を殺すことを前提にした計画ばかりであり、どの口がほざくのかと笑った。
邪魔な勢力の粛清は激動期の風物詩である。
トシゾウの目的通りに人間が力を付けることは多くの人間の幸福に寄与する。
まぁそれは建前であり、当人は宝にしか目がなかったが…、トシゾウの基準の中に人間がその宝として紛れ込むことに成功したのは人類の最大の幸福であると言えるだろう。
トシゾウはスキル【擬態ノ神】でクラリッサと同じ能力を獲得することが可能だが、クラリッサと同じことができるかと言われれば否である。
持つべきものは優秀な隣人だとトシゾウは満足げに頷いた。
なお、クラリッサの求める夜の給料が手に入ったかは不明である。
0
お気に入りに追加
508
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる