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冒険者ギルド世界を変える

166 ふんどしを預ければ

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「おめでとうございます!あなたがトシゾウギャラリーへいらした千人目のお客様です!」

 くす玉に驚き、景品を手渡された冒険者が大喜びで跳びはねる。


 ガラガラガラ…ポンッ

「あー残念でしたね。入場者サービスは、残念賞の低級ポーションです」

「え、これが残念賞?けっこう価値があるんじゃ…」


「さぁさぁ、次の挑戦者は誰だ!? このヒビが入ったクリスタル、砕くことができれば中の宝はあなたのものだ!挑戦料は一回1コルですよ」

「ビンゴ!ビンゴ!ダブルリーチだ次こそは!」

「勇者来たれ!このクリスタルに埋まった剣を見事抜いた者はその剣をプレゼント!一回1コルだ」

「うぉおー!だめだ、ぬ、抜けん」

「こっちも砕けねーぞ」


 トシゾウギャラリーの前に黒山の人だかりができている。
 人々はトシゾウギャラリーの所蔵品を見に来て…いるわけではなく、入り口の遊戯スペースで遊んでいる。

 …。

 トシゾウが気付いた時には、トシゾウギャラリーは何か違うものになっていた。

 来場〇〇人目へのサプライズ、サクラしか引き抜けない聖剣、入場者全員にもらえるガラガラ券。裏で自由に数字を操れるビンゴゲームetc…

 小学生にカジノごっこをやらせるとこんな感じになるのかもしれない。
 客寄せのための試みは、気付けば手段と目的が完全に入れ替わっていた。

「…あとは100円…1コルを入れると高いゲーム機が当たると謳う遊具や、クジを引けばランダムに当たりが出るようなものがあったな」

「おぉ、それはおもしろそうや。こらまた流行るでぇ!当たりが入っとる確率はこっちで調整すればええんやな。トシゾウはんあくどいなぁ」

「ああ…あくどいのはお前だがな」

 どうしてこうなったのか。
 俺はこの世界に禁断の遊びを輸出してしまったようだ。

 その名はギャンブル。
 元々丁半博打のような賭け事はあったらしいが、遊びを前面に出したギャンブルというのはどうやら今まで存在しなかったらしい。

 最初は客寄せのために入場者にオマケを渡したり、ランダムでプレゼントを渡す程度のものだったはずだったのだが。
 ベルの質問に答える形で前世の記憶を手繰り寄せていたらそのうち特定のアレコレがベルの琴線に触れたらしい。
 気付けばトシゾウギャラリーの入り口は半分ベルに乗っ取られていたのである。

 この世界の人間は余裕がないくせにギャンブルは好きらしい。
 ベルの計算の元、見物料や挑戦料で順調に黒字を計上している。

 入場者全員に配られるガラガラチケットの残念賞でギルドが売り出し予定のサンプルをばら撒いたり、接客内容が単純なことを利用して新人職員の研修代わりにしたりと、一石で大量の鳥を撃ち落とすベルの采配はさすがであった。

 トシゾウギャラリーの見学料は1コル。
 残念賞がもらえることを考えればトシゾウギャラリーの見学料はほとんど無料だと言える。
 残念賞のついでと言わんばかりにトシゾウギャラリーを見物する者も増え、中には純粋に展示されている宝を見ることを楽しんだりため息をついて羨んだりする者も僅かながら存在した。
 冒険者以外の者がギルドを訪れるためのハードルも下がったようで、客層が多様化したと他部門からも意見が上がっている。

 一応、トシゾウの本来の目的も達成された形である。

「トシゾウ殿、ぜひ勇者様の使われていた品を展示してくだされ!」

 ダストンの鼻息荒い熱烈な要望により勇者ゆかりの品を展示すると、まるで餌に群がるネズミがごとく、勇者オタクたちがわらわらとやってきてそのまま勇者談議に明け暮れていた。

 カジノと勇者オタクの聖地と化したトシゾウギャラリーは、本人の望まぬ形ながらもラ・メイズの新たな名物として大流行し、冒険者ギルドの隆盛に一役買ったという。
 そこから派生したトランプなどの遊具の販売は冒険者ギルドの隠れた名物となり、行商人や待機中の兵士の無聊を慰めるのに一役買っているらしい。

「ベル、なんか冒険者ギルドからの納税額が先月より跳ね上がってるんだけど…」

「いやー、かくかくしかじかでな?冒険者が下手に金持ちすぎると経済が崩れるから、ちょっと掛け率をゴニョゴニョして調整をな…?兵士のお給金も増やしてやればつり合いがな?」

「す、すごい」

「ついでに富の一部が冒険者ギルドで循環するから、上手くすれば未だに気に食わんマネしてくる商業ギルドの連中の息の根が完全に止まるでぇ…」

「ベル、お主も悪よのぅ」

「いえいえ、王女殿下ほどではありまへんでぇ…」

「「ぐっふっふ」」

 ラ・メイズの闇夜に権力者たちの笑い声が響く。

 実際には冒険者の平均収入が跳ね上がったことで兵士が冒険者へ鞍替えしないためのバランス調整や、運営に王族を噛ませて国に金を回すというまともな策を兼ねていた。
 ただしそのやりとりはどう見ても越後谷と悪代官のそれであった。

「…とりあえず、熱くなった冒険者が破産しないようにちゃんと対策をしておけよ」

「ガッテンや。しかしこんな単純な賭け事がこんなに儲かるとは盲点やったなぁ…トシゾウはん、ギルド内に公営カジノを…」

「却下だ」

 ベルのテコ入れにより改造されたトシゾウキャラリーは、気付けば当初のトシゾウの理想とはかけ離れたものになったが、最終的に概ね成功を収めることとなったのであった。

 刹那に生きる冒険者は、ギャンブルとの相性が良くも悪くも抜群である。
 だが冒険者には冒険者稼業に集中してほしい。
 一攫千金は迷宮で成し遂げるべきだ。俺の目的のために。
 トシゾウはポーカーやルーレットなど、ギャンブル関連の知識を提供することは今後提供しないことを決めた。
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