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冒険者ギルド世界を変える

162 迷宮時代のトシゾウ

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「…それにしても、やっぱりトシゾウかー」

 ふとしみじみと呟いたサティアに、その場にいる全員が同意とばかりに首を縦に振る。
 “やっぱりトシゾウ”の言葉だけで、サティアの言いたいことは余すことなく伝わるのである。

「あやつはイレギュラー中のイレギュラーじゃからのう」

「クラリッサさん、ご主人様は迷宮の中でどのような立場だったんですか?」

「あ、それウチも気になるなぁ」

「そうですわね、そういえば私はトシゾウ様の過去をあまり知りませんわ。トシゾウ様は別の世界からいらっしゃったそうですが、その話を聞かされた時はその…、疲れていて話半分でしたし…」

「別の世界…ですか?そういえばトシゾウ様がユーカクを初めてご覧になった時も、何やらそのようなことをおっしゃっていた気がします」

 いわゆる友達の友達状態であった関係も打ち解けてきた参加者たちだが、やはり話題はトシゾウのことが中心であった。

 トシゾウの前世が地球の日本という場所であったことを知る者はこの中でも数人だが、トシゾウは別にそのことを隠しているわけではない。
 クラリッサはトシゾウと同じ知恵ある魔物だ。
 皆がこの機会にトシゾウの過去を知りたいと思うのは自然なことだった。

「そうじゃな、まず別の世界の話をするかの。と言っても妾も詳しくは知らぬが…。生物の中には、極稀にそういった別の世界の知識の欠片を持つ者がおるのじゃ。ほとんどは無自覚で、役に立たず自覚することもない程度の知識の残滓じゃ。妾が娼館にユーカクと名を付けたのもトシゾウによるとその一つらしいの。あとはほら、お主らの方が詳しいじゃろう、昔の勇者の武器と防具もその知識から生まれていたものがいくつかあるはずじゃ」

「あぁ、爺が前に言ってたよ。歴史の中で前提もなく唐突で不自然な発明がされることがあるって。勇者サイトゥーンの武装もその一つと言われているらしいね」

「それなら銭勘定の世界にも出所がわからんのに優れた発明がいくつかあるで。代表的なのはソロバーンやな。なるほど、トシゾウはんが妙に人間っぽかったりすごいアイディアが次々湧いてくるのはそういう理由もあったんやな」

 高等な教育を受けて育ったサティアと、独自に調べることを怠らないベルベットには心当たりがあるようだ。
 他の者もいくつか思いつくものがあるのか、納得したように頷いている。

「うむ、まぁ今は別の世界の記憶がどうして存在するのかは置いておくのじゃ。大切なのはその知恵がこの世界に与える影響じゃな。卵が先か鶏が先かは知らぬが、そういった知識を持つ者は優れた結果を残すことが多いのじゃ」


「それがトシゾウ様と関係があるのですか?」

「うむ、なにせトシゾウは前世の記憶の大半を知識として引き継いでおるらしいからの。それ抜きではトシゾウの力に説明がつかぬ。意外かもしれんが、トシゾウは最初メイズ・デミボックスという下等な魔物だったのじゃ」

「メイズ・デミボックス…」

 メイズ・デミボックスと聞いてコレットが思い出すのは、彼女がトシゾウと初めて出会った時のことだ。

 コレットが迷宮で捕らえられていた時、ある迷賊が一つの宝箱をアジトへ運び込んだ。
 その時迷賊が両手で抱えていた時の宝箱が、メイズ・デミボックスと同じ形である。

 アーチ型の上蓋、木と鉄を繋ぎ合わせた実にシンプルな形状をした、何の変哲もない宝箱。
 実際は、その正体はメイズ・デミボックスどころか迷宮最強の魔物だったわけだが、それはさておき。

 つまるところメイズ・デミボックスは、迷宮で見つかる宝箱と同じ姿をした魔物である。
 しかし宝箱と同じ姿をしているとはいえ、それを武器に本物の宝箱を装うことはない。

 冒険者を見ればすぐさま襲い掛かる知恵のない低級の魔物だ。
 深層にはメイズ・デミボックスの上位にあたるミミックバイトなど、宝箱に扮して待ち構える魔物も存在するためメイズ・デミボックスはしばしば無能な魔物として物笑いの種となることもある。

 そしてメイズ・デミボックスは弱い。
 初心者冒険者でも倒せる魔物だ。
 レベル1でゴブリンを屠って見せたシオンなら、メイズ・デミボックスも同じように狩れるだろう。

 奇跡が起きて一度くらい勝利することはあるかもしれない。
 だがそれは本来続かないものだ。

 しかしトシゾウは最初の戦いを生き延びた。
 それどころか、次々と迫る数多の魔物や冒険者を返り討ちにし、宝と力を蓄え、迷宮最強の魔物としてのし上がっていく。

 それは通常のメイズ・デミボックスには到底不可能なことであり、その躍進の裏には別の世界の知恵が働いているのは間違いないと考えるのは自然なことだ。

 もっとも、いくら別の世界の記憶があったとしてもそれは簡単なことではない。
 数々の奇跡を繰り返し、運にも恵まれなければならない。
 だがトシゾウは成し遂げた。

 蒐集欲に突き動かされるまま戦い続け、数多の死線を潜り抜けた。

 強い魔物や冒険者の後をつけ、弱ったところを襲うのは当たり前。
 時にはスキルで生み出した土で密室を作り上げて麻痺毒を流し込み。
 時には何重にも罠を仕掛けて冒険者をはめ殺した。

 さすがに迷宮主と同じ世界の…、とそこまで考えたクラリッサだが、それは今話すべきことではない。

「途中からはなにやら長い筒を持ち出しての、轟音とともに金属を発射し始めたのじゃ。そして妾がトシゾウと初めて会うた頃には、すでに祖白竜ミストルとやり合えるくらいの力を身につけておっての。妾は普通にトシゾウと話すようになったのじゃが、知恵ある魔物の中にはトシゾウのことが気に食わないと戦いを挑む者も多かったのじゃ。何から何まで特殊な奴じゃったからの」

「そ、それでどうなったの?」


「どうもなにも、全員返り討ちじゃな。まぁ迷宮主の眷属となった知恵ある魔物は時間を置けば復活できるのじゃが、自然復活にはそれなりの時と力が必要。ほとんどの知恵ある魔物はまだ死んだままなのじゃ。そんなことは知らんとばかりに淡々と敵対する相手を屠っては素材を奪い取るトシゾウはかっこよすぎで妾も惚れてしまったのでありんす」

 ポッと頬を染めるロリビッチ狐。
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