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冒険者ギルド世界を変える

148 所有物以外の関係

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「それで、最近はどうだ。問題は起きていないか」

「そうだね。王家の方からも反抗的な貴族には圧力をかけているし、最近は大人しいものだよ。目端の利く貴族はこちらへすり寄ってきているしね。もうこのまま権力拡大しちゃっても良いよね」

「うむ、俺の目的のためにも協力者の権力が強いに越したことはないからな。冒険者ギルドの支部が各地に建つようになれば、冒険者ギルドを受け入れない領地からは冒険者が流出するだろう。こちらに従うなら良し、そうでなければ首が入れ替わることになるだろうな。人間が領地を失うのは俺も望まない」

「さすがトシゾウ、腹黒だね」

 笑うサティア。腹黒と言うならお前も負けていないと思うぞ。

「ほっほっほ、自分たちの将来が雑談で片付けられていると知ったら貴族は泣くでしょうね」

 先ほどと同じく他人事のようなラザロだが、今回は特に嬉しそうであった。

「私は多くの血を流させてきましたゆえ、他人事ではありません。私が殺さないでも王権が盤石で民が富み、敵対者が衰弱して消えていくのは喜ばしいことなのですよ。それなりに細々とした苦労をしてきたつもりですので、トシゾウ様の豪快なやりようが見ていて痛快なのです」

 そう言って飄々と笑うラザロの顔には、その苦労相応の皴が刻まれていた。

 そういえば初めてラザロのレベルとスキルを確認した時は、その意外な強さに少々驚いたものだ。たしかボロ雑巾がやんちゃしていた時だったな。
 シオンとコレットを除けば、ラザロは迷宮から出て初めてまともに会話した人間だ。
 そんなラザロとこのような話をする日が来るとは、人間の縁とは面白いものだ。

「ところでサティア、ラザロ、俺の所有物になる気はないか」

 口から自然と言葉が漏れた。
 俺の言葉に目をぱちくりとさせるサティアと、笑みを崩さないラザロ。

「うーん、恋人としてなら考えるけど、部下としてならお断りかなぁ。トシゾウとは友達以上恋人未満みたいな関係が楽しそうだしね」

「私も遠慮しておきましょう。トシゾウ殿の配下として暴れまわるのは魅力的ですが、もう隠居の身ですし、私は人族への奉仕者ですから」

 すげなく却下された。

 サティアとラザロは価値ある人間だ。
 俺は二人を所有物になれと誘ったことはなかった。

 話の流れからふと思い立って口にしたのだが、口に出した俺自身、否定されたことに納得している。

 二人はすでに守るべきものを持ち、曲げられない主義を掲げている。
 仮に無理やり所有物としてしまえば、二人の価値は失われるだろう。
 今の緩やかな協力関係が最も価値があるのだと俺自身がどこかで気付いているのだ。

 近くにあるが自分のものではない宝もまた面白いものだと思った。


「そういえばサティア、荒野の件はどうなったのですかな?」

 一通りの情報交換を終えたところでおもむろに話題を変えるラザロ。

「あ、そうそう。まだ問題かどうかはわからないんだけど、なんだか荒野の方で騒ぎが起きてるらしいんだ。エルフの里と人族の辺境領地の間だね。今は次の連絡待ちだけど、兵士は各地の魔物の間引きで手一杯だから、ひょっとすると依頼を出すかもしれないかな」

「そうか、依頼は歓迎だ。荒野はまだ行ったことがないな。興味深い」

「そっか。もしトシゾウが受けてくれるなら安心して任せられるし、その時は頼むよ」

「うむ」

 そう言えばレインベルへ訪れたエルフの代表が何やら問題を抱えているような気配を匂わせていたな。
 ひょっとしたら今回の件と関係があるのかもしれない。

 俺の勘はそれなりに当たる。

 それから半年後、その話を忘れかけたころにギルド宛に王族を含む複数の方面から緊急の依頼が舞い込むことになる。
 半年前の何気ない会話の内容が現実になったのだ。

 内容は荒野に出現した化け物の討伐依頼。
 推定される難易度はB以上。実質測定不能らしい。
 少なくともレベル30以上が推奨される難易度だ。

 その一件の依頼は、複数方面から寄せられた依頼と共にやがて世界を巻き込んだ騒動に発展することになると、その時はまだ知る由もなかった。
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