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冒険者ギルド世界を変える
144 穴掘りシオン
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「どうやら我々の勝利のようですな。では約束通りギルドの全権利を渡してもらいましょうか」
灰狼の長は良い笑顔だ。口調も丁寧で結構である。
なるほど、これをドヤ顔というのだろう。
幻想の勝利とはいえ、それに気づかない者にとっては普通の勝利と同じだからな。
自分の所有物が過小評価されるのはおもしろくない。
だから俺はドヤ顔で言ってやることにする。
「却下だ」
「な、なんだと!?話が違うぞ。我々が勝利すればギルドの全権利を渡すという約束だ!約束を違えれば魔法契約が…」
激昂する長。残念だが話がかみ合っていないようだ。
「勘違いするな。約束は守られるべきだ…互いにな。それで、お前たちはシオンを倒したのか?どうにもお前たちは詰めが甘いようだから、ギルドの一員となった後はよく鍛えてもらうと良い」
「何を言っている。もう勝負はついた。ベルビクス・ラーヴァの糸から自力で脱出することは勇者でも不可能だ。お前は俺たちにお前の部下を殺させるつもりなのか?…いや、まさか…」
「長!勇者がいません…っな!?」
「どうした!?」
長が慌てて振り返ったのと、獣人の一人が吹き飛んだのは同時だった。
誰がやったのかは言うまでもない。大通りに白銀の嵐が吹き荒れる。
網の確認に近づいていた5名の獣人が短剣の柄で強かに打ち据えられて昏倒した。
それは僅か一呼吸の間の出来事だ。
「まさかあの網の雨から逃れたとでも言うのか?霧を抜ければ空気の流れで絶対に気付くはずだ、ありえない」
灰狼の長は思考の海に沈みかけたが、すんでのところで我に返ったようだ。
そう、今は対処が第一だ。
長が思考を回復するまでに、さらに5名の獣人が地に倒れ伏している。
「来るぞ!四方から同時にかかれ!“次”の作戦だ!」
大声で叫ぶ灰狼の長。司令塔が残っていればまだ戦えるはずだ。
俺に近づくためにシオンと距離が離れていたことが幸いしたか。
残った獣人たちも我に返り、果敢にも四方からシオンに向けて特攻する。だが…。
トップスピードに達したシオンを阻める者はいない。
レベルの低いギャラリーの目には、獣人たちが突如昏倒し吹き飛んでいるように見えるだろう。
運が良ければ、シオンの攻撃が獣人を捉えた時に一瞬のみ静止する短剣の輝きを目にすることができるかもしれない。
その輝きの色は白銀。
白銀が輝くときは敵が倒れるときだ。
風より速く繰り出される一撃は巨大な魔物も一撃で屠る。
装備により耐久を増し、スキル【超感覚】が全てを底上げしている。
おそらくシオンは人間最高の強さに達している。
生まれたての鳥の雛に刷り込むように【白銀】の勇者シオンはその二つ名にふさわしい強さを見せつけた。
「終わりです」
この場に残る最後の標的に肉薄するシオン。
「な、舐めるなぁ!」
想定外の事態に焦りながらも拳を繰り出す灰狼の長。
シオンはその拳を楽々躱し、首元へ短剣を突き付ける。
ゴクリと喉を鳴らす灰狼の長。
「い、いったいどうやって…。あの網はいくら勇者でも正面から破れるようなものではないはずだ」
「はい。すごく丈夫な糸でびっくりしました。だから地面に穴を掘って地下から逃げました」
「…は?馬鹿な、そんな一瞬で地面を掘れるわけがない」
「がんばれば間に合います。でもギリギリでした。すごい攻撃でした」
「だ…、い、いや、それならばなぜ体に土のかけらもついていないのだ。地面を掘ったなら多少なりとも土で汚れているはずだろう」
「はい、不思議ですね。さすがご主人様から頂いた鎧です」
「……」
「……?」
返答に詰まり、口をパクパクと動かす灰狼の長。コテリと首を傾げるシオン。
土の汚れの話など、そんなことを問い詰めたところで何が変わるわけでもないのだが、錯乱しているのか。いや、あるいはまだ狙いがあるのだろうか。
麻痺の霧と土埃がなかなか晴れなかったのは、シオンがここ掘れわんわんをしていたからである。視界を遮られた獣人たちは気付かなかったようだが。
網の直撃さえ避ければ、シオンの能力なら絡まらずに逃げ切ることは充分に可能だ。
地面を掘り進めた後だというのに、その白銀はいささかも土が付いていない。
祖白竜の鎧は優れた防具だ。
その高い防御性能はもちろん、血や粉塵、果ては毒の粉であろうと、装備者に纏わりつく有害物質を拒み、守護する力を持つ。
さすがに白竜の冷凍血液レベルを防ぐには至らないが、土埃程度なら寄せ付けない。
昔にペロペロカリカリと毛づくろいの真似事をしているシロを犬のようだとからかったら、次から剥ぎ取る鱗に新たな機能が加わっていた。言ってみるものだな。
シロは綺麗好きなのだ。
「話は終わりです。降参してください」
首に短剣を当てたまま降伏を促すシオン。
首筋に当てられた短剣の感触に冷や汗を流す灰狼の長。
一見すると勝負あったように見えるが、灰狼の長にはまだ策があるようだ。
「そうだな。まいった…と言うとでも思ったか?…おい!」
「きゃぁぁ!」
固唾を飲んで戦いを見守っていたギャラリーの中で一人の女性の悲鳴が上がった。
「動くな!動けばこの女の首を飛ばす!」
長の指示を受け、俺たちの背後に忍び寄っていた獣人が金髪の女性の首元に鋭利な爪を当てて吠えていた。
灰狼の長は良い笑顔だ。口調も丁寧で結構である。
なるほど、これをドヤ顔というのだろう。
幻想の勝利とはいえ、それに気づかない者にとっては普通の勝利と同じだからな。
自分の所有物が過小評価されるのはおもしろくない。
だから俺はドヤ顔で言ってやることにする。
「却下だ」
「な、なんだと!?話が違うぞ。我々が勝利すればギルドの全権利を渡すという約束だ!約束を違えれば魔法契約が…」
激昂する長。残念だが話がかみ合っていないようだ。
「勘違いするな。約束は守られるべきだ…互いにな。それで、お前たちはシオンを倒したのか?どうにもお前たちは詰めが甘いようだから、ギルドの一員となった後はよく鍛えてもらうと良い」
「何を言っている。もう勝負はついた。ベルビクス・ラーヴァの糸から自力で脱出することは勇者でも不可能だ。お前は俺たちにお前の部下を殺させるつもりなのか?…いや、まさか…」
「長!勇者がいません…っな!?」
「どうした!?」
長が慌てて振り返ったのと、獣人の一人が吹き飛んだのは同時だった。
誰がやったのかは言うまでもない。大通りに白銀の嵐が吹き荒れる。
網の確認に近づいていた5名の獣人が短剣の柄で強かに打ち据えられて昏倒した。
それは僅か一呼吸の間の出来事だ。
「まさかあの網の雨から逃れたとでも言うのか?霧を抜ければ空気の流れで絶対に気付くはずだ、ありえない」
灰狼の長は思考の海に沈みかけたが、すんでのところで我に返ったようだ。
そう、今は対処が第一だ。
長が思考を回復するまでに、さらに5名の獣人が地に倒れ伏している。
「来るぞ!四方から同時にかかれ!“次”の作戦だ!」
大声で叫ぶ灰狼の長。司令塔が残っていればまだ戦えるはずだ。
俺に近づくためにシオンと距離が離れていたことが幸いしたか。
残った獣人たちも我に返り、果敢にも四方からシオンに向けて特攻する。だが…。
トップスピードに達したシオンを阻める者はいない。
レベルの低いギャラリーの目には、獣人たちが突如昏倒し吹き飛んでいるように見えるだろう。
運が良ければ、シオンの攻撃が獣人を捉えた時に一瞬のみ静止する短剣の輝きを目にすることができるかもしれない。
その輝きの色は白銀。
白銀が輝くときは敵が倒れるときだ。
風より速く繰り出される一撃は巨大な魔物も一撃で屠る。
装備により耐久を増し、スキル【超感覚】が全てを底上げしている。
おそらくシオンは人間最高の強さに達している。
生まれたての鳥の雛に刷り込むように【白銀】の勇者シオンはその二つ名にふさわしい強さを見せつけた。
「終わりです」
この場に残る最後の標的に肉薄するシオン。
「な、舐めるなぁ!」
想定外の事態に焦りながらも拳を繰り出す灰狼の長。
シオンはその拳を楽々躱し、首元へ短剣を突き付ける。
ゴクリと喉を鳴らす灰狼の長。
「い、いったいどうやって…。あの網はいくら勇者でも正面から破れるようなものではないはずだ」
「はい。すごく丈夫な糸でびっくりしました。だから地面に穴を掘って地下から逃げました」
「…は?馬鹿な、そんな一瞬で地面を掘れるわけがない」
「がんばれば間に合います。でもギリギリでした。すごい攻撃でした」
「だ…、い、いや、それならばなぜ体に土のかけらもついていないのだ。地面を掘ったなら多少なりとも土で汚れているはずだろう」
「はい、不思議ですね。さすがご主人様から頂いた鎧です」
「……」
「……?」
返答に詰まり、口をパクパクと動かす灰狼の長。コテリと首を傾げるシオン。
土の汚れの話など、そんなことを問い詰めたところで何が変わるわけでもないのだが、錯乱しているのか。いや、あるいはまだ狙いがあるのだろうか。
麻痺の霧と土埃がなかなか晴れなかったのは、シオンがここ掘れわんわんをしていたからである。視界を遮られた獣人たちは気付かなかったようだが。
網の直撃さえ避ければ、シオンの能力なら絡まらずに逃げ切ることは充分に可能だ。
地面を掘り進めた後だというのに、その白銀はいささかも土が付いていない。
祖白竜の鎧は優れた防具だ。
その高い防御性能はもちろん、血や粉塵、果ては毒の粉であろうと、装備者に纏わりつく有害物質を拒み、守護する力を持つ。
さすがに白竜の冷凍血液レベルを防ぐには至らないが、土埃程度なら寄せ付けない。
昔にペロペロカリカリと毛づくろいの真似事をしているシロを犬のようだとからかったら、次から剥ぎ取る鱗に新たな機能が加わっていた。言ってみるものだな。
シロは綺麗好きなのだ。
「話は終わりです。降参してください」
首に短剣を当てたまま降伏を促すシオン。
首筋に当てられた短剣の感触に冷や汗を流す灰狼の長。
一見すると勝負あったように見えるが、灰狼の長にはまだ策があるようだ。
「そうだな。まいった…と言うとでも思ったか?…おい!」
「きゃぁぁ!」
固唾を飲んで戦いを見守っていたギャラリーの中で一人の女性の悲鳴が上がった。
「動くな!動けばこの女の首を飛ばす!」
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