上 下
70 / 172
規格外のスタンピード

68 トシゾウの性欲とシオンの献身

しおりを挟む
 シオンが俺の本当の所有物になった。

 シオンは役に立つし、かわいい。
 今日さらにかわいくなった。

 そうだ。シオンはかわいい。そして俺のものだ。シオンもそれを望んでいる。

 …。

 俺はシオンを抱き寄せる。

「ご、ご主人様?」

 シオンが慌てたような、戸惑うような声を出す。かわいい。もっと他の表情が見たい。もっと違う声で鳴かせたい。シオンの全てを蹂躙したい。そう、たとえば…。

 人族の本能は正直だ。
 いや、これは人族に擬態しているからというだけではない。
 俺自身の欲求でもあるのか。
 俺は今、猛烈にシオンを抱きたいと思っていた。

「シオン、お前は俺に抱かれたいか」

「ふぇ!?え、えぇと、その…はい…」

 素直なシオンがかわいい。目を蕩けさせるシオンがかわいい。俺にもたれかかるシオンがかわいい。恥ずかし気に耳をたたむシオンがかわいい。…だが。

 俺は必死に本能を押さえつけて、シオンを抱いていた腕を緩める。

「ご主人様?」

「…一年待て」

「一年、ですか?」

「そうだ。シオン、今日はお前が15年前に生まれた日だ。今日でシオンは15歳になる。そして一年後は16歳だ。その時にシオンの気持ちが変わっていなければ、俺はシオンを抱くと約束しよう」

 【蒐集ノ神】による鑑定に狂いはない。シオンの年齢は15歳になっている。

「…わかりました。私は15年前の今日に生まれたんですね。初めて知りました。…でも、なぜ16歳なのですか?」

「今の俺は魔物だが、昔は人間だった。こことは別の世界で生きていたんだ。信じられないかもしれないが」

「信じます。ご主人様がおっしゃることですから。それにご主人様は時々、まるで人みたいだなと思っていました」

 スキル【超感覚】があれば俺が嘘をついているかどうかは判断できるだろう。
 だがシオンは俺の言葉だから信じると言った。…悪い気はしない。

「そうか。16歳というのは、その世界で女性が結婚を認められる年齢だ。いまさら前世の決まりを守る気はないが…。俺はシオンを抱くということに、ためらいを感じている。一つの節目というか…、そのようなものだ」

 他の女を抱くことに抵抗がないのに、なぜシオン相手には躊躇してしまうのか。

 同じ所有物でも、ベルと話をした時はシオンとは違った。
 仮にベルを欲望のままに抱くことになっても、ためらいを感じなかっただろう。

 自分でもうまく言い表せない。
 言いよどむのはいつ以来だろうか。
 今の俺はどのような表情をしている?

「わかりました。一年後にご主人様に抱いてもらえるようにがんばります。でも、その、いつでも気が変わったら言ってくださいね」

 うまく言葉にすることはできなかったが、シオンは理解してくれたようだ。

「それとシオン。そのだな…。これからも俺は人族に擬態しているつもりだ。そうなると…」

「わかっていますご主人様。男の人はそういう生き物だとベルさんやアイシャさんに教えてもらいました」

「う、そ、そうか。だが…」

 シオンが俺の口に人差し指を当てる。
 ふわりと良い匂いがする。

「ご主人様、全てわかっています。私は、ご主人様の従者です。私は今、世界で一番幸せです。この幸せは、ご主人様がほかの人を抱いたくらいではまったく揺らぎません。いつものように、傍にいろと、何も問題ないと、言ってくださればよいのです」

 ご主人様は意外と真面目ですね。シオンがいたずらっぽく笑う。

 これ以上の問答は蛇足か。

「そうか。シオンは良い従者だな」

「はい!」

 この一幕を他の者が聞いていたら何と言うだろうか。
 だがこの場にはトシゾウとシオンしかいない。

 何も問題はないのである。


「シオン、これを身につけていろ」

 俺は懐から銀色の指輪を取り出し、シオンの左手薬指にはめる。
 飾り気も、傷もまったくない、どこまでもシンプルな指輪だ。

「ありがとうございます。これは…?」

「【永久の指輪】という。状態異常を退け、装備者を最良の状態に維持してくれる指輪だ。これからのシオンに必要な指輪だが、それ以外にもいくつか意味がある」

「意味ですか?」

「そうだ。左手の薬指に指輪を身に着けることで、シオンが俺の者であるという証になる。まぁ、まじないのようなものだ」

「ご主人様のもの…!わかりました。大切にしますね」

 やましさをごまかすためとか、単に贈り物をしたくなったとか。
 野暮な理由は口にする必要はないだろう。

 指輪を愛おしそうに撫でるシオンを見ながら、シオンはかわいいなとトシゾウは思った。

 シオン
 年 齢:15
 種 族:獣人(白狼種)
 レベル:30
 スキル:【超感覚】【竜ノ心臓】
 装 備:祖白竜の鎧 祖白竜の短剣 祖白竜の短剣 白王狼の靴 不死鳥の尾羽 始祖エルフのネックレス 永久の指輪

 トシゾウ
 年 齢:20()
 種 族:人(オーバード・ボックス)
 レベル:50()
 スキル:【火魔法ノ神】【武技ノ神】(【擬態ノ神】【蒐集ノ神】【無限工房ノ主】)
 装 備:オークの鎧 オークの靴 鉄の短剣 不死鳥の尾羽 主従のミサンガ


 宝から宝をもらうのは初めてだ。斬新だ。

 俺の腕には白銀のミサンガが輝いている。
 なんとなく強くなった気になる。

 なんだか最終決戦の前みたいだなーとトシゾウは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...