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規格外のスタンピード
58 スタンピード1波 人族サイド
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「ドルフ軍団長、戦闘員以外の避難が完了しましたぜ。第一陣、兵5000と冒険者15000の配置も9割がた終わってます」
「おうビクターか。ご苦労。さすがに慣れたもんだな。“蜘蛛の巣”の方はどうなってる」
「そちらも完了し、それぞれ人員を配置済みですぜ。昇給してください。…冒険者ギルド、でしたか。そっちの方は要望通り行き止まりにしてありますが、よかったんですかね?」
「あぁ、あの魔物が問題ないと言うからには問題ないんだろうさ。それに行き止まりにしておけば、どうなっても軍と冒険者に被害が及ぶことはないだろ。あと昇給はねぇ」
「ちっ。…ダストン殿の部下からの報告によると、炊き出しも問題なく始まっているそうで。兵士10000は待機中。参加する冒険者は前と同じで50000ほどになる見込みですぜ。いつも通り広場に詰めさせてます。じゃあ俺は炊き出しの飯食ってきます」
「そうか。あとは始まるのを待つだけだな。いいぞ、飯食ってこい」
「うわ、飯食ってきて良いなんて、なんか悪いことが起こるんじゃないですかね」
「馬鹿野郎、スタンピードは長丁場だ。後でこき使ってやるからさっさと休んでこい」
冒険者区画、スタンピードを一望できるように建設された物見台。
側近のビクターを追い出したドルフは、冒険者ギルドへ目を向ける。
高さは内壁に及ばないものの、頑丈そうな防壁で囲まれた建設中の建物が見える。
過去にも、防壁を築いてスタンピードを乗り切ろうと考えた者はいた。
貴族が場所取りのために腕利きの冒険者を雇って立て籠ったのだ。
スタンピードが終わった後、そこから大量の骸が見つかった。
魔物の暴走。スタンピードは複数存在する迷宮入口のほとんどで発生する。
しかしほとんどの場所は、100人も冒険者を揃えれば対処が可能だ。
だが、メインゲートを擁するラ・メイズのスタンピードは圧倒的である。
強固な内壁を構えてなお、動員する兵力は6万を超える。
もちろん6万というのは、被害を極限まで抑えるための人数だ。
腕試しに参加する新人冒険者や、怖いもの見たさの一般人も数に含まれている。
内壁、防柵、全ての工夫を利用し、余裕を持って戦える数、それが6万という数字だ。
もし犠牲を考えないならば、精兵を1万ほど用意すればスタンピードを凌げるだろう。
だがそれでも6万人が何度も魔物と戦うことになるのだ。
どれほどの魔物が溢れてくるかは想像に難くない。
「ラ・メイズで内壁に頼らずに戦うというのは無謀だと、ちょっと考えればわかりそうなんだがな。だが今回は、あの旦那がいるからなぁ」
あの常識破りの魔物にとって、スタンピードなどただの祭りのようなものなのかもしれない。
「普通に参加する分には祭りみたいで楽しいんだがなぁ」
準備するにはめんどくさい仕事だぜとドルフはぼやく。
スタンピード時は、ラ・メイズ全ての機能が対スタンピードへ集約される。
城下では炊き出しが行われ、スタンピード中は無料で簡単な飲食が可能だ。
炊き出しだけでは味気がないため、それを補うかのように屋台も並ぶ。
希望者はスタンピードへ参戦することができる。
戦えさえすれば、種族も出身も問われない。
戦闘に参加する冒険者は一定の戦力ごとに振り分けられ、王城前の広場に待機する。
前線で戦闘をする冒険者が疲労や負傷で撤退すれば、待機した冒険者がその穴を埋めるように参戦する。
メインゲート前に張り巡らされた防柵で迷路を形成、魔物を分断し、複数の狩場を作り出す。
いざという時には周辺の狩場から戦力を補いながら、魔物の動きに合わせて前進と後退を繰り返すのだ。
それを指揮するのがドルフやダストンの仕事だ。
「まぁ住民も慣れたもんだ。準備も万端。あとは始まってみないとなんとも言えんな」
繰り返されるスタンピードに備え、冒険者区画には防柵を設置するための小穴があらかじめ開けられている。
通称“蜘蛛の巣”とも呼ばれる、人族がスタンピードの脅威へ立ち向かうための知恵だ。
蜘蛛の巣によって、冒険者は比較的安全が確保された狩場で戦うことができる。
序盤は冒険者が各ポジションで遊撃し、兵士が補助に当たる。3波の前になると連携のとれた兵士が殿となって後退する。
作られた狩場で、いざという時のために用意されたポーション、医療部隊。
さらに魔物のドロップは、倒した者に権利がある。
安全に稼げる。それは大きい。
せいぜい小遣い程度にしかならないが、どうせ迷宮には潜れないのだ。
炊き出しで腹を膨らませつつ、ラ・メイズのために一肌脱いでやろう。
そう気楽に考える冒険者は多い。
スタンピードは徐々に大規模化しているが、それでも死者の数は両手で数えられるほどしか出ていない。
ラ・メイズの住人にとって、スタンピードはただの魔物の氾濫ではない。
ちょっとしたお祭りであり、腕試しの場であり、利に聡い者にとっては稼ぎ時である。
迷宮は巨大な資源だ。
冒険者のすべてが冒険するわけではない。
迷宮で薬草を採取するのは野菜を収穫するようなもの。
魚を釣るように、慣れた場所で安全に魔物を倒す者も多い。
「普通ならパニックになるようなことまで祭りにしちまうんだから、まったく人間ってやつはたくましいぜ」
メインゲート付近から威勢の良い叫び声が聞こえてくる。
どうやら魔物が出現し始めたらしい。
「祭りが祭りで終わるようにするのは俺たちの仕事だ。明日の旨い酒のために頑張りますかね」
物見台の下、賑やかに行き来する人々を見下ろしながら、ドルフはニヤリと笑うのだった。
「おうビクターか。ご苦労。さすがに慣れたもんだな。“蜘蛛の巣”の方はどうなってる」
「そちらも完了し、それぞれ人員を配置済みですぜ。昇給してください。…冒険者ギルド、でしたか。そっちの方は要望通り行き止まりにしてありますが、よかったんですかね?」
「あぁ、あの魔物が問題ないと言うからには問題ないんだろうさ。それに行き止まりにしておけば、どうなっても軍と冒険者に被害が及ぶことはないだろ。あと昇給はねぇ」
「ちっ。…ダストン殿の部下からの報告によると、炊き出しも問題なく始まっているそうで。兵士10000は待機中。参加する冒険者は前と同じで50000ほどになる見込みですぜ。いつも通り広場に詰めさせてます。じゃあ俺は炊き出しの飯食ってきます」
「そうか。あとは始まるのを待つだけだな。いいぞ、飯食ってこい」
「うわ、飯食ってきて良いなんて、なんか悪いことが起こるんじゃないですかね」
「馬鹿野郎、スタンピードは長丁場だ。後でこき使ってやるからさっさと休んでこい」
冒険者区画、スタンピードを一望できるように建設された物見台。
側近のビクターを追い出したドルフは、冒険者ギルドへ目を向ける。
高さは内壁に及ばないものの、頑丈そうな防壁で囲まれた建設中の建物が見える。
過去にも、防壁を築いてスタンピードを乗り切ろうと考えた者はいた。
貴族が場所取りのために腕利きの冒険者を雇って立て籠ったのだ。
スタンピードが終わった後、そこから大量の骸が見つかった。
魔物の暴走。スタンピードは複数存在する迷宮入口のほとんどで発生する。
しかしほとんどの場所は、100人も冒険者を揃えれば対処が可能だ。
だが、メインゲートを擁するラ・メイズのスタンピードは圧倒的である。
強固な内壁を構えてなお、動員する兵力は6万を超える。
もちろん6万というのは、被害を極限まで抑えるための人数だ。
腕試しに参加する新人冒険者や、怖いもの見たさの一般人も数に含まれている。
内壁、防柵、全ての工夫を利用し、余裕を持って戦える数、それが6万という数字だ。
もし犠牲を考えないならば、精兵を1万ほど用意すればスタンピードを凌げるだろう。
だがそれでも6万人が何度も魔物と戦うことになるのだ。
どれほどの魔物が溢れてくるかは想像に難くない。
「ラ・メイズで内壁に頼らずに戦うというのは無謀だと、ちょっと考えればわかりそうなんだがな。だが今回は、あの旦那がいるからなぁ」
あの常識破りの魔物にとって、スタンピードなどただの祭りのようなものなのかもしれない。
「普通に参加する分には祭りみたいで楽しいんだがなぁ」
準備するにはめんどくさい仕事だぜとドルフはぼやく。
スタンピード時は、ラ・メイズ全ての機能が対スタンピードへ集約される。
城下では炊き出しが行われ、スタンピード中は無料で簡単な飲食が可能だ。
炊き出しだけでは味気がないため、それを補うかのように屋台も並ぶ。
希望者はスタンピードへ参戦することができる。
戦えさえすれば、種族も出身も問われない。
戦闘に参加する冒険者は一定の戦力ごとに振り分けられ、王城前の広場に待機する。
前線で戦闘をする冒険者が疲労や負傷で撤退すれば、待機した冒険者がその穴を埋めるように参戦する。
メインゲート前に張り巡らされた防柵で迷路を形成、魔物を分断し、複数の狩場を作り出す。
いざという時には周辺の狩場から戦力を補いながら、魔物の動きに合わせて前進と後退を繰り返すのだ。
それを指揮するのがドルフやダストンの仕事だ。
「まぁ住民も慣れたもんだ。準備も万端。あとは始まってみないとなんとも言えんな」
繰り返されるスタンピードに備え、冒険者区画には防柵を設置するための小穴があらかじめ開けられている。
通称“蜘蛛の巣”とも呼ばれる、人族がスタンピードの脅威へ立ち向かうための知恵だ。
蜘蛛の巣によって、冒険者は比較的安全が確保された狩場で戦うことができる。
序盤は冒険者が各ポジションで遊撃し、兵士が補助に当たる。3波の前になると連携のとれた兵士が殿となって後退する。
作られた狩場で、いざという時のために用意されたポーション、医療部隊。
さらに魔物のドロップは、倒した者に権利がある。
安全に稼げる。それは大きい。
せいぜい小遣い程度にしかならないが、どうせ迷宮には潜れないのだ。
炊き出しで腹を膨らませつつ、ラ・メイズのために一肌脱いでやろう。
そう気楽に考える冒険者は多い。
スタンピードは徐々に大規模化しているが、それでも死者の数は両手で数えられるほどしか出ていない。
ラ・メイズの住人にとって、スタンピードはただの魔物の氾濫ではない。
ちょっとしたお祭りであり、腕試しの場であり、利に聡い者にとっては稼ぎ時である。
迷宮は巨大な資源だ。
冒険者のすべてが冒険するわけではない。
迷宮で薬草を採取するのは野菜を収穫するようなもの。
魚を釣るように、慣れた場所で安全に魔物を倒す者も多い。
「普通ならパニックになるようなことまで祭りにしちまうんだから、まったく人間ってやつはたくましいぜ」
メインゲート付近から威勢の良い叫び声が聞こえてくる。
どうやら魔物が出現し始めたらしい。
「祭りが祭りで終わるようにするのは俺たちの仕事だ。明日の旨い酒のために頑張りますかね」
物見台の下、賑やかに行き来する人々を見下ろしながら、ドルフはニヤリと笑うのだった。
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