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人間を手に入れ迷宮を出る

00 宝箱は勇者を襲う

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「僕の、クシャナギを、返せええええ!」

 怒りに満ちた男の声が迷宮に響く。

「却下だ。もう俺のものだ」

 返事をしたのは箱型の魔物だ。

「あの剣を作るのにどれだけ苦労したと思ってるんだああああ!」

「うむ、良い剣だな。いちいち叫ばなくてもわかる。素材、焼き入れ、冷却、全てが完璧だ。さぞよく研究したのだろう。多大な汗と素材の上に成り立っていることがわかる。だから…」

「俺が大切に扱ってやろう」

「うわぁぁぁ、ふざ、ふざけるなあぁ!」

 紅蓮の甲冑に身を包んだ男は、手にした剣を振り回す。
 特徴的なソリ、そしてハモンの入ったその武器は、知識ある者ならその価値に気付くだろう。

 迷宮深層の素材を惜しみなくつぎ込んだ、最高の品。
 そして剣を振るう男の技量もまた、超一流と言えるもの。

 一見がむしゃらに剣を振り回しているように見えて、その一撃一撃には確かな狙いが存在する。
 涙でぐしょぬれの顔を晒しながらも、男の技はますます冴え渡っていく。

「これでもくらえええ!」

 男の繰り出した渾身の一撃。

 剣閃は紅蓮の尾を引き、相対する魔物へと吸い込まれる。

 回避は不可能だ。

 刃が魔物に触れる。男はそのまま魔物を真っ二つにしようとするが、

 ガキッ

 刀は魔物に阻まれ動きを止めた。

 動物が口を開けるように、箱型魔物のフタが開いている。
 箱の中から鋭利な牙が覗く。

「この宝も良いものだ。運んでくれて感謝する。お前は良い冒険者だな」

 魔物は刀を加えたまま器用にしゃべる。

「ぼ、僕は勇者だ!」

「そうか、勇者か。それより、その赤い鎧も良い宝だな。よこせ」

「や、やめてくれええ!僕のムラオサが、アカゾナエがああ!」

 勇者の怒りの叫びは、いつの間にか悲哀に満ちた懇願に変わっていった。

 この数時間後、迷宮の入り口に裸で泣きわめく男が出現することになる。

「うむ、今日も良い蒐集日和だった」

 これが箱型の魔物、トシゾウの日々であった。
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