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宝箱は冒険者ギルドを立ち上げる
40 宝箱は土地を確保する
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「相変わらずすごい活気だな」
俺達がいるのは迷宮都市ラ・メイズにある冒険者区画だ。
冒険者区画の中心には迷宮への大穴、メインゲートが口を広げている。
メインゲートからは今も多くの冒険者が行き来している。
メインゲートからは、内壁に向かって蜘蛛の巣状の道が続いている。
道の両脇に立ち並ぶ屋台には色とりどりの商品が陳列され、持ち込まれた迷宮産の素材を売買する賑やかな声が聞こえてくる。
しかし、俺たちが初めて訪れた時と明らかに違う点があった。
「この辺りはすでに避難を始めているようですね」
メインゲート前の大通りに、櫛の歯が欠けるようにスペースが開いている。
スタンピードが近いため、テントが撤去され始めているのだろう。
残ったテントの主も、少しずつ撤去の準備を進めているようだ。
「スタンピードが近づくと、メインゲート側から徐々に避難が始まります。メインゲート前に屋台を構えている人はたいていが大商会の関係者で、扱う商品が多くテントも巨大です。その撤去には時間がかかるので、余裕をもって店を畳むんです。メインゲートから遠い個人のテントはすぐに撤去ができるので、ギリギリまで商売を続けます」
シオンが辺りを見回しながら説明してくれる。
「なるほど、魔物の溢れるメインゲート近くから順々に避難が進んでいくわけか。大商人は一等地で太く短く稼いで、零細は内壁付近でギリギリまで商売をするわけだ」
「そういうことだと思います」
大商人が撤退すればその間は稼ぎが増えるだろうし、スタンピードの直前まで粘ってギリギリで避難するのだろう。
素晴らしい、実に素晴らしい。
商売で金を稼ぐこと、それはカネを集めるという点で、宝の蒐集に通じるところがある。
俺は人族の扱う貨幣にはあまり興味がないが、カネを集めるための仕組みや工夫は非常に興味深く、とてもおもしろいと思う。
蒐集のために全力を尽くすのは当然のことだ。常識だ。大前提なのだ。
「ご主人様、この辺りは特に広いスペースが開いているようです」
シオンに言われて周囲を見渡す。
メインゲートのある広場からすぐ近くで、内壁の城門と直線状に並んだ一等地だ。
数日前には巨大なテントが立ち並んでいたが、今は完全に撤去され、広い空き地となっている。
「良い場所だ、ここにしよう。場所取りは四辺に屋号と代表者の名前を書いた看板を立てれば良いのだったな?」
「はい、みなスタンピードが終わると看板とハンマーを持って場所取りに走ります。スタンピード前に看板を立てている人は見たことがないですが…」
「何にでも一人目は存在するものだ。何も問題はない」
「さすがご主人様です」
シオンは頷く。シオンにとって、ご主人様が問題ないと言えば、何も問題ないのである。
俺は懐から前もって用意してきた木製の看板を空き地に突き立てていく。
看板には大きな文字で“冒険者ギルド トシゾウ”と書かれている。
通りを歩く者たちは、トシゾウ達が看板を突き立てるのを何事かと見ていたが、場所取りをしているのだと気付き様々な表情を浮かべる。
「クスクス、あいつらよそ者か?今から看板を立てるって、馬鹿じゃねーの。しかも一等地だ」
「田舎から出てきたのかもな。それか一時でも大商人の気分を味わいたい貧乏人か」
「まぁスタンピード前には兵士が巡回に来るから、逃げるだけなら大丈夫さ」
「そもそもあんなに場所取って何を売る気なんだよ。税金も払えないだろ。男は安っぽい服だ。女は獣人のくせにご立派な銀色の装備してやがるが、どうせハリボテだろ」
「おい、あの獣人めちゃくちゃかわいくないか?」
「奴隷か、娼婦か?あの男にでも買えるなら、俺が代わりに買ってやろうか」
ほとんどの者がバカを見る目、可哀そうな者を見る目で一瞥し、鼻で笑いながら通り過ぎていく。
まぁ普通に考えれば奇行そのものだからな。無理もないだろう。
一部こちらの心配をしている者もいるようだ。良いことだ。その気持ちが迷宮での相互扶助につながり、生存率と宝の質の向上につながる。
シオンの可愛さに目を奪われている者もいる。シオンは俺の所有物だ。俺が磨いた。
自分の所有物が羨望の目で見られることは悪くない気分だが、もし奪おうとするならボロ雑巾にする必要がある。
よし、これで土地の確保は完了だな。看板を設置し終え、満足げに頷く。
「それではシオン、手はず通りに手分けして仕事を始めるぞ。俺は奴隷を買いに行く。お前は拾い屋をできるだけ多く引っ張ってこい。やる気があるのなら、どのような者でも構わない。何か要求してくるようなら、お前の判断である程度の報酬を約束しても良い」
「わかりましたご主人様。みんなを勧誘してきます。きっとたくさん連れてこれると思います」
シオンは自信があるようだ。元拾い屋の仲間だからだろうか。
シオンはメインゲート広場にいる拾い屋の方へ向かっていった。
拾い屋は、迷宮で冒険者の後を追い、アイテムを拾ったり、サポートをすることで生活している者たちだ。
獣人がメインで、白狼種の獣人であるシオンも元拾い屋である。
顔なじみでもあるシオンなら、彼らを勧誘することができるかもしれない。荒唐無稽な話だが、少なくとも話を聞いてもらうことはできるだろう。
俺はシオンと別れ、“いくつかの”目的を果たすためにスラムへ向かった。
俺達がいるのは迷宮都市ラ・メイズにある冒険者区画だ。
冒険者区画の中心には迷宮への大穴、メインゲートが口を広げている。
メインゲートからは今も多くの冒険者が行き来している。
メインゲートからは、内壁に向かって蜘蛛の巣状の道が続いている。
道の両脇に立ち並ぶ屋台には色とりどりの商品が陳列され、持ち込まれた迷宮産の素材を売買する賑やかな声が聞こえてくる。
しかし、俺たちが初めて訪れた時と明らかに違う点があった。
「この辺りはすでに避難を始めているようですね」
メインゲート前の大通りに、櫛の歯が欠けるようにスペースが開いている。
スタンピードが近いため、テントが撤去され始めているのだろう。
残ったテントの主も、少しずつ撤去の準備を進めているようだ。
「スタンピードが近づくと、メインゲート側から徐々に避難が始まります。メインゲート前に屋台を構えている人はたいていが大商会の関係者で、扱う商品が多くテントも巨大です。その撤去には時間がかかるので、余裕をもって店を畳むんです。メインゲートから遠い個人のテントはすぐに撤去ができるので、ギリギリまで商売を続けます」
シオンが辺りを見回しながら説明してくれる。
「なるほど、魔物の溢れるメインゲート近くから順々に避難が進んでいくわけか。大商人は一等地で太く短く稼いで、零細は内壁付近でギリギリまで商売をするわけだ」
「そういうことだと思います」
大商人が撤退すればその間は稼ぎが増えるだろうし、スタンピードの直前まで粘ってギリギリで避難するのだろう。
素晴らしい、実に素晴らしい。
商売で金を稼ぐこと、それはカネを集めるという点で、宝の蒐集に通じるところがある。
俺は人族の扱う貨幣にはあまり興味がないが、カネを集めるための仕組みや工夫は非常に興味深く、とてもおもしろいと思う。
蒐集のために全力を尽くすのは当然のことだ。常識だ。大前提なのだ。
「ご主人様、この辺りは特に広いスペースが開いているようです」
シオンに言われて周囲を見渡す。
メインゲートのある広場からすぐ近くで、内壁の城門と直線状に並んだ一等地だ。
数日前には巨大なテントが立ち並んでいたが、今は完全に撤去され、広い空き地となっている。
「良い場所だ、ここにしよう。場所取りは四辺に屋号と代表者の名前を書いた看板を立てれば良いのだったな?」
「はい、みなスタンピードが終わると看板とハンマーを持って場所取りに走ります。スタンピード前に看板を立てている人は見たことがないですが…」
「何にでも一人目は存在するものだ。何も問題はない」
「さすがご主人様です」
シオンは頷く。シオンにとって、ご主人様が問題ないと言えば、何も問題ないのである。
俺は懐から前もって用意してきた木製の看板を空き地に突き立てていく。
看板には大きな文字で“冒険者ギルド トシゾウ”と書かれている。
通りを歩く者たちは、トシゾウ達が看板を突き立てるのを何事かと見ていたが、場所取りをしているのだと気付き様々な表情を浮かべる。
「クスクス、あいつらよそ者か?今から看板を立てるって、馬鹿じゃねーの。しかも一等地だ」
「田舎から出てきたのかもな。それか一時でも大商人の気分を味わいたい貧乏人か」
「まぁスタンピード前には兵士が巡回に来るから、逃げるだけなら大丈夫さ」
「そもそもあんなに場所取って何を売る気なんだよ。税金も払えないだろ。男は安っぽい服だ。女は獣人のくせにご立派な銀色の装備してやがるが、どうせハリボテだろ」
「おい、あの獣人めちゃくちゃかわいくないか?」
「奴隷か、娼婦か?あの男にでも買えるなら、俺が代わりに買ってやろうか」
ほとんどの者がバカを見る目、可哀そうな者を見る目で一瞥し、鼻で笑いながら通り過ぎていく。
まぁ普通に考えれば奇行そのものだからな。無理もないだろう。
一部こちらの心配をしている者もいるようだ。良いことだ。その気持ちが迷宮での相互扶助につながり、生存率と宝の質の向上につながる。
シオンの可愛さに目を奪われている者もいる。シオンは俺の所有物だ。俺が磨いた。
自分の所有物が羨望の目で見られることは悪くない気分だが、もし奪おうとするならボロ雑巾にする必要がある。
よし、これで土地の確保は完了だな。看板を設置し終え、満足げに頷く。
「それではシオン、手はず通りに手分けして仕事を始めるぞ。俺は奴隷を買いに行く。お前は拾い屋をできるだけ多く引っ張ってこい。やる気があるのなら、どのような者でも構わない。何か要求してくるようなら、お前の判断である程度の報酬を約束しても良い」
「わかりましたご主人様。みんなを勧誘してきます。きっとたくさん連れてこれると思います」
シオンは自信があるようだ。元拾い屋の仲間だからだろうか。
シオンはメインゲート広場にいる拾い屋の方へ向かっていった。
拾い屋は、迷宮で冒険者の後を追い、アイテムを拾ったり、サポートをすることで生活している者たちだ。
獣人がメインで、白狼種の獣人であるシオンも元拾い屋である。
顔なじみでもあるシオンなら、彼らを勧誘することができるかもしれない。荒唐無稽な話だが、少なくとも話を聞いてもらうことはできるだろう。
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