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迷宮都市ラ・メイズ

25 規格外が二人

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「シオン、他に使える武器はあるか?」

「短剣以外だと、短弓とレイピアを使ったことがあります。あとは石を投げたり、でしょうか」

 短弓や投石は拾い屋として付いて行く冒険者を補助するために覚えた技能だろう。

「シオン、これからは一人でも戦えるように強くなってもらう。よって武器は短剣を磨け」

「わかりました」

 レイピアも強力な武器だが、よほど究めないと複数を相手にするには弱い。
 下手に刺せば抜けなくなり、刃先が欠ければ刺さらない。
 低品質の武器では継戦能力に難がある。

 防御にも使えて、突くだけでなく、斬ることのできる短剣の方が安定するだろう。

「シオンの実力はわかった。これなら一気にレベルを上げても問題ないだろう。階層を変えるぞ」

「はい!がんばります。単体の魔物なら、4階層の魔物まではなんとか狩れます。5階層は連戦を考えなければ一匹だけなら狩れると思います」

「うむ、レベル1でそれはたいしたものだ。だが今回はあまり時間がない。今回は養殖で一気にレベルを上げるぞ」

「わ、わかりました。それですと10階層くらいが…」

「45階層に行くぞ」

「はい!…はい?」

「聞こえなかったのか?45階層だ」

 シオンが聞き逃すなんて珍しいな。

「あの、今の勇者様の到達階層が30層で、その…。む、無理です。いくらご主人様でも死んでしまいます。40階層以上は、かつての全盛期に英雄のみが挑戦できたという階層で…」

 俺はシオンを無視して【迷宮主の紫水晶】を起動する。
 45階層に棲む属性竜たちはかなりの瘴気量を誇る。一気にレベルを引き上げることができるだろう。

「ゆ、許してくださいご主人様ぁあぁぁあ…」

 シオンの絶叫が迷宮一層から吸い込まれるように消えていった。



「シオン、ドロップを拾え。お前が倒したものだ」

「…」

 シオンは無言でドロップを集める。

 ドロップの山はシオンの身体よりも大きい。拾うことができない。
 シオンはドロップに触れて無理やり無限工房に収納していく。

「シオン、今拾った素材を冒険者区画で売った場合、いくらになる?」

 トシゾウはまるでゴブリンを倒した時と同じ言い草でシオンに尋ねる。

「…」

「シオン?」

「…たぶん、かちがたかすぎてすぐにはねだんがつかないとおもいます。いくらになるかそうぞうもできません。うるならおーくしょんにだして、それで…」

 シオン は 混乱 している 。

「どうした?レベルが上がったうえにスキルまで発現したのに浮かない顔だな。エリクサーを飲むか?」

 貴重な秘薬を屋台で買った果実水のような気軽さでシオンに手渡すトシゾウ。

 ドラゴン達と戯れることで、シオンは新たにスキルを習得した。重畳だ。

 シオンが新たに習得したスキル【竜ノ心臓】は、防御系の複合スキルだ。
 恐怖や毒物を含むあらゆる状態異常に対する耐性を上昇させ、魔法を含むあらゆる攻撃に対して防御力を向上させる効果を持つ。
 それでも混乱する時は混乱するのだが。

 かつて最深層に至った冒険者も、二つはスキルを持っていた。

 二つ目のスキルを習得したシオンには、最深層に至るほどの才能があるということだろう。


 もっとも今回のスキルの習得は、トシゾウによる強制レベリングが前提にある。
 シオンの理解を超えた荒業が大きく影響を与えたことは言うまでもないが。

 シオンはなかなか素晴らしい。

 自分の所有物の価値が高くなり満足げに頷くトシゾウ。


 シオンは今回ばかりは返事をすることもできず、死んだ魚のような瞳で自分の主人を見上げる。

 エリクサーを飲んだことで、停止していた頭が活動を始める。

「ド、ドラゴンが…。ドラゴンが…、ぐしゃって…」

 知恵を持つ魔物である主人。
 規格外だとは思っていたが、それでもまさかこれほどの存在だったとは。

 力のない人間には、雲の上のことは想像できない。
 すごい、ということがわかっても、それがどれだけすごいのかを理解するには相応の実力が必要なのだ。

 それでも、目の前でドラゴンがダース単位でズタボロにされていく様を見れば、そのすごさの片鱗を嫌でも理解できる。

「ご主人様、規格外すぎです…」

 シオンはトシゾウの力を肌で理解したのだった。

 かくいうシオンも、トシゾウの強制レベリングによっておよそ人外とも呼べる力を手にしたのだが…。本人にその自覚はないのだった。
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