上 下
22 / 172
迷宮都市ラ・メイズ

20 知恵ある魔物と人族のレベル

しおりを挟む
「…ふぅ。なんとかラ・メイズは明日を迎えられそうですな」

 トシゾウたちが部屋に戻った後、ラザロは盛大に息を吐き出した。

 ラザロの仕事は王の影であること。
 ラ・メイズの、ひいては人族の敵を排除することだ。
 これまでも多くの後ろ暗い仕事をこなしてきており、そちら方面のつても多い。

 今は隠居の身とはいえ、ラザロは多くの英雄や化け物をこの目で見てきた。
 だが、あれほどの存在にはかつて一度も会ったことがない。

 人の姿をとってはいたが、あれはおそらく人間の理解の外にある存在。
 繰り返し進化を重ね知恵を得た魔物の中でも、さらに上位の存在なのだろう。

 迷宮を抱える人族の世界において、しばしば観測される知恵を得た魔物という存在。
 人族の英雄がパーティを組んでようやく戦えるような相手だ。

 だが不思議と、これまで魔物によって国が亡ぶほどの被害が出たことはない。
 観測された巨大な力を持つ魔物は、いつもいつの間にか姿を消す。
 大きな被害が出るときはいつも、人族側から戦いを仕掛けた時だ。

 この事実を知る者の間では、自我を持つ魔物に無理に手を出さないのが暗黙の了解となっている。

 触らぬ神に祟りなし。
 魔物の方も、ラザロの知る限り大々的に人族へ干渉してくることはなかった。

 だが、あのトシゾウと名乗る魔物は…。
 ラザロは不安に思う。

 トシゾウからは、積極的に人族の世界に関わろうとしているような、そんな印象を受けたのだ。

 なにか大きなことが起ころうとしているのかもしれない。
 近年人族は力を落としている。

 かつての全盛期、迷宮へ挑む冒険者のレベルは今より10は高かったという。
 火魔法しか使えない人族は積極的に他種族の力を借りて迷宮へ潜っていた。

 それがいつからか少しずつ人族だけで迷宮を独占するようになり、今では他種族が迷宮に潜るときには奴隷紋でレベル制限をかける始末。

 他種族の助力を失い、人族の領域の一部は荒野に飲まれることとなった。
 それに伴う混乱と荒野から侵入してくる魔物の対応にも追われ、さらに迷宮へ割かれる力が減るという悪循環に陥っている。

 人族にも事情があるのだが、有事の際にかつてのような戦力は望めない。

「ひょっとしたら、この老いぼれにも仕事が回ってくるかもしれませんな。…おっと、無粋なお客様がいらしたようですね。これはS室のサービスということにしておきましょうか」

 ラザロの呟きは誰にも聞こえることなくラ・メイズの夜に吸い込まれていった。



レベルについて



 レベルとは、生物を殺すことで得られる力である。
 レベルは、その生物が最初から持つ身体能力に加算される。

 その比率は大きく、レベル5の子供はレベル1の大人より強い。
 レベルが10も開いていれば、素手で片手間に殴り殺せるくらいの差となる。

 強力な装備はレベルによる防御補正を抜くこともできるので、命中すればレベル差を覆すこともできる。

 レベルを上げるためには生物に止めを刺すことが重要である。
 人間を殺しても経験値が加算されるため、しばしば高レベルな殺人鬼が生まれることもある。

 権力者などであれば、他の者に寄生し高レベルになることも可能。その行為は養殖と呼ばれる。
 修羅場をくぐっていないため、養殖でレベルを上げた者は自力でレベルを上げた者と比べて戦闘力は低い。

 現代のレベルの目安は

 レベル1~:駆け出し冒険者、一般人
 レベル5~:中級冒険者
 レベル10~:ベテラン冒険者
 レベル15~:一級冒険者
 レベル20~:英雄
 レベル25~:勇者、人外
 レベル30~:規格外

 この評価は、かつての人族全盛期に比べて10レベルほど低い。
 全盛期はレベル15で中級冒険者、一流と呼ばれるにはレベル25は必要であった。

 現在においては勇者と呼ばれるような存在が、かつての時代においては通常の一流冒険者程度の実力にしかならないほどの開きがある。

 なおスキル持ち、魔法使いはそうでないものに比べて一般にレベル+5くらいの力があるとされる。
 とはいえ一流冒険者と呼ばれるレベル15以上に至るほど多くの生物を殺せる冒険者は、あらかじめ魔法やスキルを持つことがほとんどである。

 そのため、レベル10と15には数字以上の大きな壁がある。

 迷宮に潜る場合、パーティなら潜る階層と同じ、ソロならば階層より高レベルであることが推奨されている。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲
ファンタジー
今は中東と呼ばれるティグリス川とユーフラテス川、数千年前に栄えたメソポタミア文明、その現実とは異なる神話のただなか。 その都市の一つ、ウルクで生まれ育った少年エタリッツは家族のために迷宮に挑むこととなる。 非才の身でも、神に愛されずとも、もがけ。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔獣っ娘と王様

yahimoti
ファンタジー
魔獣達がみんな可愛い魔獣っ娘に人化しちゃう。 転生したらジョブが王様ってなに? 超強力な魔獣達がジョブの力で女の子に人化。 仕方がないので安住の地を求めて国づくり。 へんてこな魔獣っ娘達とのほのぼのコメディ。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

処理中です...