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迷宮都市ラ・メイズ
19 ラザロ・ラ・メイズ
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「少々よろしいでしょうか、トシゾウ様」
食事を終え、部屋に戻ろうとしたところで受付の紳士に声をかけられた。
「あぁすまない、宿への詫びも兼ねてこれで足りるか?」
俺は紳士に大金貨を3枚手渡す。30万コル、3000万円相当だ。
「十分すぎるほどでございます。それにお詫びなど必要ありません。私共が真っ先にアズレイ王子を止めに入るべきでした。お客様の手を煩わせてしまい誠に申し訳ありません」
「いや、それはかまわない。それよりも王子はこの宿へ悪い印象を持っただろう。大丈夫なのか?」
「問題ございません。宿は私が趣味で経営しております。アズレイ王子は頻繁に当宿をご利用してくださっているのですが、今回のようなトラブルが絶えなかったのです。むしろ、良い機会だったのかもしれません」
常連のトラブルメーカーとは。なんと迷惑な。
「当宿を利用して頂けるのならば、それは等しくお客様です。質を追求するあまりどうしても利用料が高額となり、結果として裕福な方向けの宿となっておりますが、本来格式にこだわるつもりは一切ございません」
つまりアズレイ王子が言っていた、格式が~王族も利用する~、などは単にあいつの独りよがりで勝手に決めつけたものだったわけか。
「…道化ですね」
とシオン。割と本気で怒っていたのだろう。辛らつだ。
「道化だな」
まぁその通りなので肯定しておく。
「それで、用事はそれだけか?」
「いえ、こちらが本題です」
そういって手渡されたのは、複雑な文様が刻まれたメダルだった。
蜘蛛と鎌が重なったような意匠だが、はっきりとはわからない。
「これは?」
「もし今後アズレイ王子の件でお困りになるようでしたら、これを相手にお見せください。ラ・メイズにおいてそれなりの立場にある者には、これで話が通じるようになると思います」
「そうか。必要ないとは思うが、一応もらっておこう」
ふと、なぜ一介の宿屋の受付、いや宿主か。宿主がこんなものを持っているのだろうかと思い、【蒐集ノ神】を発動させる。
ラザロ・ラ・メイズ
年 齢:58
種 族:人
レベル:23
身 分:人族の王弟
装 備:黒王狼の燕尾服
スキル:【暗殺ノ鬼】
…。
なるほど。これならたとえ王子が暴れたところで問題あるまい。
食堂の喧騒を知りつつ動じた様子がなかったのも納得だ。
ラザロは俺を見てニヤリと笑う。
なかなか良い表情だ。さぞ女にモテることだろう。
ひょっとして俺の鑑定に気づいたか?
【暗殺ノ鬼】によるものか。
「ところで…」
「なんだラザロ?」
あえて名前を呼んでみるがラザロは特に反応を見せなかった。
「明日アズレイ王子の元へ取りたてに向かわれるということですが」
「そのつもりだ」
「それではおそらく王城に向かわれることになると思いますが、できれば殺人や王室の財産を奪うのは控えて頂ければと思います」
「あぁ、元よりそのつもりだ」
「ありがとうございます」
「止めないんだな?普通ならば今のうちに俺を兵士にでも突き出すべきだと思うのだが」
「はい、殺人だけ控えて頂ければ。城の者は最近たるんでおりますのでな。良い薬になるでしょう。私はこれでも若いころはやんちゃをしておりました。それゆえ、あなたがどのような存在なのかなんとなく理解できるのです」
今軍が壊滅しては次のスタンピードでラ・メイズが滅びますからねとラザロは笑った。
トシゾウはスタンピードの意味がわからなかったが、それは後でシオンに聞くことにして、ラザロに話を合わせておいた。
なんとなく知ったかぶりがしたい気分になったのである。
ラザロには、かつて迷宮の深層で対峙した者たちと通じる雰囲気があり、無意識のうちに好感を覚えていたのかもしれない。
「あぁそういえば」
話を終えて今度こそ部屋に戻ろうとするトシゾウにラザロが声をかける。
「先ほどS室に空きができたのですが、ご利用になられますかな?」
悪くない。とトシゾウは笑った。
S室はA室よりもさらに素晴らしいものだったとだけ言っておこう。
食事を終え、部屋に戻ろうとしたところで受付の紳士に声をかけられた。
「あぁすまない、宿への詫びも兼ねてこれで足りるか?」
俺は紳士に大金貨を3枚手渡す。30万コル、3000万円相当だ。
「十分すぎるほどでございます。それにお詫びなど必要ありません。私共が真っ先にアズレイ王子を止めに入るべきでした。お客様の手を煩わせてしまい誠に申し訳ありません」
「いや、それはかまわない。それよりも王子はこの宿へ悪い印象を持っただろう。大丈夫なのか?」
「問題ございません。宿は私が趣味で経営しております。アズレイ王子は頻繁に当宿をご利用してくださっているのですが、今回のようなトラブルが絶えなかったのです。むしろ、良い機会だったのかもしれません」
常連のトラブルメーカーとは。なんと迷惑な。
「当宿を利用して頂けるのならば、それは等しくお客様です。質を追求するあまりどうしても利用料が高額となり、結果として裕福な方向けの宿となっておりますが、本来格式にこだわるつもりは一切ございません」
つまりアズレイ王子が言っていた、格式が~王族も利用する~、などは単にあいつの独りよがりで勝手に決めつけたものだったわけか。
「…道化ですね」
とシオン。割と本気で怒っていたのだろう。辛らつだ。
「道化だな」
まぁその通りなので肯定しておく。
「それで、用事はそれだけか?」
「いえ、こちらが本題です」
そういって手渡されたのは、複雑な文様が刻まれたメダルだった。
蜘蛛と鎌が重なったような意匠だが、はっきりとはわからない。
「これは?」
「もし今後アズレイ王子の件でお困りになるようでしたら、これを相手にお見せください。ラ・メイズにおいてそれなりの立場にある者には、これで話が通じるようになると思います」
「そうか。必要ないとは思うが、一応もらっておこう」
ふと、なぜ一介の宿屋の受付、いや宿主か。宿主がこんなものを持っているのだろうかと思い、【蒐集ノ神】を発動させる。
ラザロ・ラ・メイズ
年 齢:58
種 族:人
レベル:23
身 分:人族の王弟
装 備:黒王狼の燕尾服
スキル:【暗殺ノ鬼】
…。
なるほど。これならたとえ王子が暴れたところで問題あるまい。
食堂の喧騒を知りつつ動じた様子がなかったのも納得だ。
ラザロは俺を見てニヤリと笑う。
なかなか良い表情だ。さぞ女にモテることだろう。
ひょっとして俺の鑑定に気づいたか?
【暗殺ノ鬼】によるものか。
「ところで…」
「なんだラザロ?」
あえて名前を呼んでみるがラザロは特に反応を見せなかった。
「明日アズレイ王子の元へ取りたてに向かわれるということですが」
「そのつもりだ」
「それではおそらく王城に向かわれることになると思いますが、できれば殺人や王室の財産を奪うのは控えて頂ければと思います」
「あぁ、元よりそのつもりだ」
「ありがとうございます」
「止めないんだな?普通ならば今のうちに俺を兵士にでも突き出すべきだと思うのだが」
「はい、殺人だけ控えて頂ければ。城の者は最近たるんでおりますのでな。良い薬になるでしょう。私はこれでも若いころはやんちゃをしておりました。それゆえ、あなたがどのような存在なのかなんとなく理解できるのです」
今軍が壊滅しては次のスタンピードでラ・メイズが滅びますからねとラザロは笑った。
トシゾウはスタンピードの意味がわからなかったが、それは後でシオンに聞くことにして、ラザロに話を合わせておいた。
なんとなく知ったかぶりがしたい気分になったのである。
ラザロには、かつて迷宮の深層で対峙した者たちと通じる雰囲気があり、無意識のうちに好感を覚えていたのかもしれない。
「あぁそういえば」
話を終えて今度こそ部屋に戻ろうとするトシゾウにラザロが声をかける。
「先ほどS室に空きができたのですが、ご利用になられますかな?」
悪くない。とトシゾウは笑った。
S室はA室よりもさらに素晴らしいものだったとだけ言っておこう。
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