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店へ着いてマルグリットさんに声をかけた。
彼女は新進気鋭のデザイナーでもあり、貴族街の衣料品店【アントレーヌ】の店主をしているのだが、ここエデン区画に庶民向けの店と工房をいくつも持っている。まだ30代半ばの年齢なのだがやり手の女性店主だ。
私はいつも納期の事で交渉をしても、いつも言い任されているような丸め込まれているような、そんな気がする。
「こんにちは、マルグリットさん」
「エレミア、早かったわね。早速で悪いのだけれど、アニバーサリーカードの依頼があってね。それに刺繍をお願いしたいの」
「アニバーサリーカード…ですか?」
「ええ、実はね……」
マルグリットさんが私に話してくれたのはこの地方の慣わしで、結婚式の参加者や披露宴、記念晩餐会や大きな宴があった際に、主催者側が記念としてアニバーサリーカードを配る習慣があるとのことだった。それは手書きのものや押し花をあしらったものなど色々と凝った趣向のものもあるらしい。
そして今回の依頼人は刺繍にすることにしたそうだ。
しかし、今の時期にその大量の発注ともなると、思い当たる依頼主は一人しかいない。
「領主様の奥様が貴方の刺繍を目にしたのですって。それで話しが回ってきたのよ」
そう言って『案を出してね』と言われたがアニバーサリーカードなど見たこともないと話すと、マルグリットさんが今までに貰ったカードを見せてくれた。
花言葉を参考にすることも多いようで、今回は結婚なのだからイチゴではどうかと領主夫人から話があったらしい。
そして作る枚数の最終確認と材料を後日家まで届けるということで、あっという間に話がまとまった。引き受けるとは言っていない気がするんだけど、いつの間にか引き受けたことになっている。
「300枚は軽くあるからね」と簡単に言われたが、締め切りまでは余裕があるようだし何より報酬が通常の仕事よりも破格に良かったのだ。
こんなに頂けるのなら、いつも以上に頑張ってみようと気合いが入る。それに王女様の目にも留まるものだし最高傑作に仕上げたい。
そう考えると家までの道も楽しくて仕方なかった。
彼女は新進気鋭のデザイナーでもあり、貴族街の衣料品店【アントレーヌ】の店主をしているのだが、ここエデン区画に庶民向けの店と工房をいくつも持っている。まだ30代半ばの年齢なのだがやり手の女性店主だ。
私はいつも納期の事で交渉をしても、いつも言い任されているような丸め込まれているような、そんな気がする。
「こんにちは、マルグリットさん」
「エレミア、早かったわね。早速で悪いのだけれど、アニバーサリーカードの依頼があってね。それに刺繍をお願いしたいの」
「アニバーサリーカード…ですか?」
「ええ、実はね……」
マルグリットさんが私に話してくれたのはこの地方の慣わしで、結婚式の参加者や披露宴、記念晩餐会や大きな宴があった際に、主催者側が記念としてアニバーサリーカードを配る習慣があるとのことだった。それは手書きのものや押し花をあしらったものなど色々と凝った趣向のものもあるらしい。
そして今回の依頼人は刺繍にすることにしたそうだ。
しかし、今の時期にその大量の発注ともなると、思い当たる依頼主は一人しかいない。
「領主様の奥様が貴方の刺繍を目にしたのですって。それで話しが回ってきたのよ」
そう言って『案を出してね』と言われたがアニバーサリーカードなど見たこともないと話すと、マルグリットさんが今までに貰ったカードを見せてくれた。
花言葉を参考にすることも多いようで、今回は結婚なのだからイチゴではどうかと領主夫人から話があったらしい。
そして作る枚数の最終確認と材料を後日家まで届けるということで、あっという間に話がまとまった。引き受けるとは言っていない気がするんだけど、いつの間にか引き受けたことになっている。
「300枚は軽くあるからね」と簡単に言われたが、締め切りまでは余裕があるようだし何より報酬が通常の仕事よりも破格に良かったのだ。
こんなに頂けるのなら、いつも以上に頑張ってみようと気合いが入る。それに王女様の目にも留まるものだし最高傑作に仕上げたい。
そう考えると家までの道も楽しくて仕方なかった。
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