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そのまま話しをしながら数時間にわたり飲み、話し、笑い、楽しい時間を過ごした。
周りから見ると、昔からの友人に見えるほどだったろうと思う。だって、私が酔いつぶれ寸前で、カイもまた私の一歩手前位だったもの。
「そろそろ帰ろうかなぁ」と立ち上がった時に、少し残っていたグラスを倒しカイの服にお酒がかかってしまって慌ててハンカチで拭いた。
「いいよ。帰れば着替えるから」
「良くないわ」
と言い合いの末、そのハンカチを押し付けた。
よく見ると、そのハンカチは結婚が決まったときに浮かれて作ったイチゴの刺繍と生地と同じ色で二人の名前の入れたもので幸せな家庭を築くのだと考えたことを思い出し、せっかくいい気持で飲んでいたのが一瞬で素に戻るような気がした。
どうしてあるんだろう。捨てたような気がしたけど、内側に折ってたから気が付かなかったのかな。
最悪だ。
「ミア?」
カイが声をかけてくれたことで意識が過去から今へ戻ってきた。はぁ、もう嫌だわ。
「どうしたんだ?」
「そのハンカチね……私が刺繍したの。結婚が決まって、浮かれまくってた頃の黒歴史ね」
そう話すと、カイは「じゃあ、俺がもらっておくよ」とポケットに入れた。
「いや…捨てていいわよ。花言葉を信じた私も私だったし」
「花言葉…?イチゴのか?」
「そうよ。【幸せな結婚】とか【貴方は私を喜ばせる】とか……」
「ふーん。なら、尚更もらっておこうかな。じゃあ……宿まで送るよ」
結局、独りで帰るのは危険だからとカイが宿まで送ってくれることになり、なんとか食堂を出て宿までの道を支えられながら歩き始めた。
「住む場所は決めたのか?」
「うん…候補はいくつかあるから、出発する時の気分で決めるつもり。とりあえず行ってみてからかなって。最初のインスピレーションが肝心じゃない?」
「それもわかるが、大丈夫か?」
「大丈夫。その為にも調べることは調べておいたし、どの町でも気に入ると思う」
「まだ行かないんだろう?出発する前にまた会わないか?」
「そうね…出発予定もそろそろだからね……」
本当は明日の朝出発する予定だけど、あえて言葉を濁してしまった。せっかくの出会いを暗い別れにしたくないし、それくらいの嘘は許されるだろう。
宿についた後も、親切にも部屋まで送ってくれた。
私の足元が相当おぼつかなくて階段を上る姿が危なっかしいと支えてくれたのだが、その手から優しさが伝わってくる。あたたかくて気持ちがいい。
部屋の前でお礼を言うために振り返って気持ちを伝えた。これが最後だろうから、笑顔で。
「カイありがとう。貴方と知り合えて良かったわ」
酔っぱらっているからか、振り返ってそう言ったはずが彼の胸に飛び込むように倒れこんでしまい、申し訳なく思う。こんなにお酒が弱いのかしらと考えたが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「ミア……」
カイが私を呼ぶ声が、今までとは違い甘く耳に響き、熱い熱の孕んだ瞳が私を見つめている。
「カイ?」
呼びかけるとほぼ同時に私は彼の腕の中にがっしりと抱きしめられ、口付けをされていた。
そしてカイは私を抱きしめたまま部屋の扉を開け中に入ってきた。
「…ん……カイ…」
「ミア…」
そして私たちはそのまま抱き合い、狭いベッドで何度も身体を繋げた。
周りから見ると、昔からの友人に見えるほどだったろうと思う。だって、私が酔いつぶれ寸前で、カイもまた私の一歩手前位だったもの。
「そろそろ帰ろうかなぁ」と立ち上がった時に、少し残っていたグラスを倒しカイの服にお酒がかかってしまって慌ててハンカチで拭いた。
「いいよ。帰れば着替えるから」
「良くないわ」
と言い合いの末、そのハンカチを押し付けた。
よく見ると、そのハンカチは結婚が決まったときに浮かれて作ったイチゴの刺繍と生地と同じ色で二人の名前の入れたもので幸せな家庭を築くのだと考えたことを思い出し、せっかくいい気持で飲んでいたのが一瞬で素に戻るような気がした。
どうしてあるんだろう。捨てたような気がしたけど、内側に折ってたから気が付かなかったのかな。
最悪だ。
「ミア?」
カイが声をかけてくれたことで意識が過去から今へ戻ってきた。はぁ、もう嫌だわ。
「どうしたんだ?」
「そのハンカチね……私が刺繍したの。結婚が決まって、浮かれまくってた頃の黒歴史ね」
そう話すと、カイは「じゃあ、俺がもらっておくよ」とポケットに入れた。
「いや…捨てていいわよ。花言葉を信じた私も私だったし」
「花言葉…?イチゴのか?」
「そうよ。【幸せな結婚】とか【貴方は私を喜ばせる】とか……」
「ふーん。なら、尚更もらっておこうかな。じゃあ……宿まで送るよ」
結局、独りで帰るのは危険だからとカイが宿まで送ってくれることになり、なんとか食堂を出て宿までの道を支えられながら歩き始めた。
「住む場所は決めたのか?」
「うん…候補はいくつかあるから、出発する時の気分で決めるつもり。とりあえず行ってみてからかなって。最初のインスピレーションが肝心じゃない?」
「それもわかるが、大丈夫か?」
「大丈夫。その為にも調べることは調べておいたし、どの町でも気に入ると思う」
「まだ行かないんだろう?出発する前にまた会わないか?」
「そうね…出発予定もそろそろだからね……」
本当は明日の朝出発する予定だけど、あえて言葉を濁してしまった。せっかくの出会いを暗い別れにしたくないし、それくらいの嘘は許されるだろう。
宿についた後も、親切にも部屋まで送ってくれた。
私の足元が相当おぼつかなくて階段を上る姿が危なっかしいと支えてくれたのだが、その手から優しさが伝わってくる。あたたかくて気持ちがいい。
部屋の前でお礼を言うために振り返って気持ちを伝えた。これが最後だろうから、笑顔で。
「カイありがとう。貴方と知り合えて良かったわ」
酔っぱらっているからか、振り返ってそう言ったはずが彼の胸に飛び込むように倒れこんでしまい、申し訳なく思う。こんなにお酒が弱いのかしらと考えたが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「ミア……」
カイが私を呼ぶ声が、今までとは違い甘く耳に響き、熱い熱の孕んだ瞳が私を見つめている。
「カイ?」
呼びかけるとほぼ同時に私は彼の腕の中にがっしりと抱きしめられ、口付けをされていた。
そしてカイは私を抱きしめたまま部屋の扉を開け中に入ってきた。
「…ん……カイ…」
「ミア…」
そして私たちはそのまま抱き合い、狭いベッドで何度も身体を繋げた。
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