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「継承権はなくとも、王族の血筋には間違いがない。それに親も後見人も黎明の羅針盤だ。そう易々と冷遇できる存在ではない。そもそもアルが本気になれば中級騎士など相手にもならん。上級も怪しいくらいだ」
「ははっそう言うな。王宮の騎士が自信をなくすぞ」
実際にその通りなのだから、ランドルフもそれ以上は言わなかった。
リサとローレンスから受け継いだ膨大な魔力に加え、リサのセンス、ローレンスの剛胆さ、そして幼い頃からここで自分達が一から鍛えてきたその自負があるのだから、そう簡単に負けられては困るのだ。
「ジークの側近が唆したんだろう。あの二人を王子と王女の側に置いておく方がいいとな。そうなると体のいい護衛騎士だ。アルもなにかしら気がついたんだろう。宰相に対して「自分のいるべき場所はここではない」と俺が言ったのと同じ台詞を言ったらしい。そして継承権放棄の発表と引き換えに、必要なときは顔をだします。と堂々と言って帰ってきたんだ。だから今頃、その側近も焦ってるかもな」
「アルらしいな。余計なところまで親に似ている」
「可愛いだろう?」
それから二人は度々王宮へは出向いているが、あくまでも子供たちに会いに行くだけで、その他の大人とは一切関わることなく、ただ純粋に王子と王女と遊んでいるらしい。
そもそも認識阻害もできるし気配を消すこともあの二人なら可能だ。その二人を飼い殺しにしようと考えた奴は許すことはできない。もちろん、裏から手を回してはあるが、国王の側近だと早々に手を出すのも憚られるから、どう処理をしようか今から楽しみだったりする。
そんなことを考えてるとは知らない子供たちは、今日はセオのところへ遊びに行っている。おそらくそのまま魔導具の実験でもしているのだろう。
「アルはいつか一人立ちをする日が来るんだろうな」
「俺のように、こうして信頼できる仲間と出会ってほしいよ。ランディ…、あの日、リサの居場所を教えてくれて本当に感謝している。あれがなければ、俺は今、どこで何をしていたか…」
「おいおい、今更か?まあいい。だが、俺が教えなくとも、いずれ辿り着いたと思うぞ。数年はかかったかもしれないがな」
「それは困る。ただでさえ、アルの誕生に立ち会えなかったことが未だに心残りなんだからな」
ランドルフもわかっていながらもローレンスをからかうのが楽しくて仕方がない様子だった。それほど今では志を共にする仲間なのだ。
そしてそれから10年後。
伝説のパーティと呼ばれた黎明の羅針盤はメンバーを入れ換えて活動を再開した。
パーティのリーダーはアレックス・ブレイク。副リーダーがレリアナ・ブレイクの兄妹で、二人とも20代になるかならないかの年齢で早くも冒険者レベルはS級になっており、アレックスにいたってはもうSS間近だという噂だった。
他のメンバーには、黎明の羅針盤の噂を聞き付けて参加を熱望し続けた、隣国の第三王子でもあるバルテスト・レイザール・ハルライトとその従者でもあるレオ・カイザーが名を連ねた。そのレベルはレリアナより落ちるもののランドルフ達の試験を合格し参加が認められていた。
そもそも、身分を隠しているようだが、セオドアにすぐに見破られていた。もちろん、それも日々開発を続けている彼の魔導具のおかげなのだが。
そして黎明の羅針盤もメンバーを入れ換えたとは言え、度々、誰かが一緒に行動していた。自分達の子供が心配なこともあるが、変わったことがないかを状況視察も兼ねてだ。
王子と王女もすくすくと元気に、そして聡明に育っているおかげで、アルもアナもこうして好きな生活を送ることができている。
あの日から何度も王宮へと出向き、文句をつける騎士は実力で捩じ伏せることも多々あったが、二人にとっては王宮もまた自分達の家であり、父親の実家だという意識を持っていた。
そのこともあり、この国をしっかりと守るために、冒険者として支えていこうと話し合ったのだ。
「アル、今日はもうこれで終わりよね?」
「そうだな、呆気なかったな」
「ちょっと待て!お前達、S級だから簡単だろうが、俺たちは今ので精一杯だぞ!少しは労れ!」
バルテストが息も絶え絶えにそう言ってアルに噛みついてきたので、それが気に入らないアナはきっぱりと言った。
「あら?バルは弱いのに口だけは一人前よね?お父様に言っちゃおうかなぁ」
「え…いや、そ、それは…」
バルテストは今まで自分よりも強い人間に会ったことがなかった。
だから、黎明の羅針盤に参加しようと決めて接触を果たしたものの、そこには自分よりも若い二人が自分よりもレベルも高く、その他のメンバーも軒並みS以上という現実に打ちのめされていた。
そして何かあれば、そのメンバーから特訓だと鍛え上げられるという日々を過ごしていたのだ。
バルテストにしてもレオにしても、ここに来てからは格段に強くなったと自覚しているが、まだ二人には敵わない。こう実戦になるとそれがよくわかるのだ。
―――この二人はそもそもの次元が違う
そう納得はしていたものの、毎回毎回、こうも見せつけられるとクルものがある。
二人の姿を見ながら、絶対に認めさせてやると誓ったバルテストだった。
「アル、早く家に帰ろう」
「そうだな。みんなが待つ家に帰ろうか」
「ははっそう言うな。王宮の騎士が自信をなくすぞ」
実際にその通りなのだから、ランドルフもそれ以上は言わなかった。
リサとローレンスから受け継いだ膨大な魔力に加え、リサのセンス、ローレンスの剛胆さ、そして幼い頃からここで自分達が一から鍛えてきたその自負があるのだから、そう簡単に負けられては困るのだ。
「ジークの側近が唆したんだろう。あの二人を王子と王女の側に置いておく方がいいとな。そうなると体のいい護衛騎士だ。アルもなにかしら気がついたんだろう。宰相に対して「自分のいるべき場所はここではない」と俺が言ったのと同じ台詞を言ったらしい。そして継承権放棄の発表と引き換えに、必要なときは顔をだします。と堂々と言って帰ってきたんだ。だから今頃、その側近も焦ってるかもな」
「アルらしいな。余計なところまで親に似ている」
「可愛いだろう?」
それから二人は度々王宮へは出向いているが、あくまでも子供たちに会いに行くだけで、その他の大人とは一切関わることなく、ただ純粋に王子と王女と遊んでいるらしい。
そもそも認識阻害もできるし気配を消すこともあの二人なら可能だ。その二人を飼い殺しにしようと考えた奴は許すことはできない。もちろん、裏から手を回してはあるが、国王の側近だと早々に手を出すのも憚られるから、どう処理をしようか今から楽しみだったりする。
そんなことを考えてるとは知らない子供たちは、今日はセオのところへ遊びに行っている。おそらくそのまま魔導具の実験でもしているのだろう。
「アルはいつか一人立ちをする日が来るんだろうな」
「俺のように、こうして信頼できる仲間と出会ってほしいよ。ランディ…、あの日、リサの居場所を教えてくれて本当に感謝している。あれがなければ、俺は今、どこで何をしていたか…」
「おいおい、今更か?まあいい。だが、俺が教えなくとも、いずれ辿り着いたと思うぞ。数年はかかったかもしれないがな」
「それは困る。ただでさえ、アルの誕生に立ち会えなかったことが未だに心残りなんだからな」
ランドルフもわかっていながらもローレンスをからかうのが楽しくて仕方がない様子だった。それほど今では志を共にする仲間なのだ。
そしてそれから10年後。
伝説のパーティと呼ばれた黎明の羅針盤はメンバーを入れ換えて活動を再開した。
パーティのリーダーはアレックス・ブレイク。副リーダーがレリアナ・ブレイクの兄妹で、二人とも20代になるかならないかの年齢で早くも冒険者レベルはS級になっており、アレックスにいたってはもうSS間近だという噂だった。
他のメンバーには、黎明の羅針盤の噂を聞き付けて参加を熱望し続けた、隣国の第三王子でもあるバルテスト・レイザール・ハルライトとその従者でもあるレオ・カイザーが名を連ねた。そのレベルはレリアナより落ちるもののランドルフ達の試験を合格し参加が認められていた。
そもそも、身分を隠しているようだが、セオドアにすぐに見破られていた。もちろん、それも日々開発を続けている彼の魔導具のおかげなのだが。
そして黎明の羅針盤もメンバーを入れ換えたとは言え、度々、誰かが一緒に行動していた。自分達の子供が心配なこともあるが、変わったことがないかを状況視察も兼ねてだ。
王子と王女もすくすくと元気に、そして聡明に育っているおかげで、アルもアナもこうして好きな生活を送ることができている。
あの日から何度も王宮へと出向き、文句をつける騎士は実力で捩じ伏せることも多々あったが、二人にとっては王宮もまた自分達の家であり、父親の実家だという意識を持っていた。
そのこともあり、この国をしっかりと守るために、冒険者として支えていこうと話し合ったのだ。
「アル、今日はもうこれで終わりよね?」
「そうだな、呆気なかったな」
「ちょっと待て!お前達、S級だから簡単だろうが、俺たちは今ので精一杯だぞ!少しは労れ!」
バルテストが息も絶え絶えにそう言ってアルに噛みついてきたので、それが気に入らないアナはきっぱりと言った。
「あら?バルは弱いのに口だけは一人前よね?お父様に言っちゃおうかなぁ」
「え…いや、そ、それは…」
バルテストは今まで自分よりも強い人間に会ったことがなかった。
だから、黎明の羅針盤に参加しようと決めて接触を果たしたものの、そこには自分よりも若い二人が自分よりもレベルも高く、その他のメンバーも軒並みS以上という現実に打ちのめされていた。
そして何かあれば、そのメンバーから特訓だと鍛え上げられるという日々を過ごしていたのだ。
バルテストにしてもレオにしても、ここに来てからは格段に強くなったと自覚しているが、まだ二人には敵わない。こう実戦になるとそれがよくわかるのだ。
―――この二人はそもそもの次元が違う
そう納得はしていたものの、毎回毎回、こうも見せつけられるとクルものがある。
二人の姿を見ながら、絶対に認めさせてやると誓ったバルテストだった。
「アル、早く家に帰ろう」
「そうだな。みんなが待つ家に帰ろうか」
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