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そして次の日の朝。
ローレンスとリサは子供を連れて国王の元へと向かった。
荷物は先に家へと送っておいたので、後は身一つだけだ。そして最後に挨拶をする為に…それとあの報告の為に、謁見の場で会うことにしていた。
その国王はすっかりと元の体調を取り戻し、今はその時以上に元気になっているといってもいいほど仕事を精力的にこなしているので、顔色も以前よりもいいほどだ。
「兄上、二三、報告があります」
「報告とは?」
「はい。今日で私たちは自分たちの家に帰ります」
「帰る…か。そうか…やはり、残る判断はしないか」
「私がいるべき場所は、ここではありませんから」
残念そうな顔をしている国王にきっぱりとそう言ったローレンスは、付け足すように一言添えた。「ただ、私が戻ってきたことはもう広がっている様ですから、重要な案件の際には戻ってくることはまんざらではないですが…」と少し照れながら言うと、国王も嬉しそうに口元を上げ「そうか…では、その時は連絡しよう」と笑顔になった。
自身の息子のジークフリートがしでかしたことで一度は失いかけた唯一の弟が、こうして目の前にいる。そして王宮を出るといっても、これからも顔を見せると言っているのだから、こんなにも嬉しいことはないのだろう。
「あと、兄上に土産を置いていきます」
「土産?」
「はい。…セオ」
ローレンスが声をかけると、ローレンスの後方に転移の魔法陣が浮かび上がり紫紺のローブを纏ったセオドアが現れた。そして『呼ぶのが遅い』と文句を言いながらも、手にした一枚の紙を国王に手渡した。
「お久しぶりです。お元気になられたようで何よりです」
「セオドア・グラントか。他の者達も一緒か?」
「はい。今、その紙に書かれている人物を連れてきます」
セオドアがそう言ったとほぼ同時に、大きい転移の魔法陣が浮かび上がり、そこにランドルフとレイモンドが数人の男と共に現れた。
「陛下」
二人は連れてきた男たち――捕縛された貴族の男や騎士の男、使用人などを目の前に突き出し、礼をした。
「ランドルフ・ギャレット、レイモンド・サリバン。お前たちも変わらないな」
「陛下もお元気になられたようで。これでこの国も安泰ですね」
「お前たちがいるからこそだ。ラリーは…あいつは足手まといになってはおらぬか?」
ローレンスがラリー・ブライクとしてパーティの一員になっていることを当の昔に掴んでいるその発言に驚きながらも、ローレンスは王宮を飛び出した自分を心配してくれていた兄に対して胸が熱くなるのを感じていた。
「私共にはまだまだ及びませんが、彼は私どもの大切な仲間ですから」
「そうか……仲間か…」
国王はローレンスに視線を向けて、良い仲間に囲まれて幸せな生活を送っていることを感じた。
やはり、彼の居場所はここではなく向こうなのだと。
「それで、彼らは?…幾人かは見知った顔もおるが…」
「先達ての国王陛下暗殺計画に関する首謀者とその仲間です」
国王の前に引っ立てられたのは、黒幕とされたライト公爵とエレオード伯爵、そして騎士3名に使用人2名だった。
ライト公爵は外務副大臣を務め、エレニード伯爵は外務大臣付きの秘書官だ。そして騎士に至っては王宮の近衛だ。
使用人は以前、国王付きだった者達で、一様に青い顔をしてその身体は見てわかるほど震えている。
「実行犯はもう死んでおりましたが、首謀者はこの通り捕まえましたので後は国王の判断を仰ぎたく。よければ、どこぞの森にでも置いてきますが」
ランドルフはその罪人を一瞥し、国王に向き直った。
ローレンスとリサは子供を連れて国王の元へと向かった。
荷物は先に家へと送っておいたので、後は身一つだけだ。そして最後に挨拶をする為に…それとあの報告の為に、謁見の場で会うことにしていた。
その国王はすっかりと元の体調を取り戻し、今はその時以上に元気になっているといってもいいほど仕事を精力的にこなしているので、顔色も以前よりもいいほどだ。
「兄上、二三、報告があります」
「報告とは?」
「はい。今日で私たちは自分たちの家に帰ります」
「帰る…か。そうか…やはり、残る判断はしないか」
「私がいるべき場所は、ここではありませんから」
残念そうな顔をしている国王にきっぱりとそう言ったローレンスは、付け足すように一言添えた。「ただ、私が戻ってきたことはもう広がっている様ですから、重要な案件の際には戻ってくることはまんざらではないですが…」と少し照れながら言うと、国王も嬉しそうに口元を上げ「そうか…では、その時は連絡しよう」と笑顔になった。
自身の息子のジークフリートがしでかしたことで一度は失いかけた唯一の弟が、こうして目の前にいる。そして王宮を出るといっても、これからも顔を見せると言っているのだから、こんなにも嬉しいことはないのだろう。
「あと、兄上に土産を置いていきます」
「土産?」
「はい。…セオ」
ローレンスが声をかけると、ローレンスの後方に転移の魔法陣が浮かび上がり紫紺のローブを纏ったセオドアが現れた。そして『呼ぶのが遅い』と文句を言いながらも、手にした一枚の紙を国王に手渡した。
「お久しぶりです。お元気になられたようで何よりです」
「セオドア・グラントか。他の者達も一緒か?」
「はい。今、その紙に書かれている人物を連れてきます」
セオドアがそう言ったとほぼ同時に、大きい転移の魔法陣が浮かび上がり、そこにランドルフとレイモンドが数人の男と共に現れた。
「陛下」
二人は連れてきた男たち――捕縛された貴族の男や騎士の男、使用人などを目の前に突き出し、礼をした。
「ランドルフ・ギャレット、レイモンド・サリバン。お前たちも変わらないな」
「陛下もお元気になられたようで。これでこの国も安泰ですね」
「お前たちがいるからこそだ。ラリーは…あいつは足手まといになってはおらぬか?」
ローレンスがラリー・ブライクとしてパーティの一員になっていることを当の昔に掴んでいるその発言に驚きながらも、ローレンスは王宮を飛び出した自分を心配してくれていた兄に対して胸が熱くなるのを感じていた。
「私共にはまだまだ及びませんが、彼は私どもの大切な仲間ですから」
「そうか……仲間か…」
国王はローレンスに視線を向けて、良い仲間に囲まれて幸せな生活を送っていることを感じた。
やはり、彼の居場所はここではなく向こうなのだと。
「それで、彼らは?…幾人かは見知った顔もおるが…」
「先達ての国王陛下暗殺計画に関する首謀者とその仲間です」
国王の前に引っ立てられたのは、黒幕とされたライト公爵とエレオード伯爵、そして騎士3名に使用人2名だった。
ライト公爵は外務副大臣を務め、エレニード伯爵は外務大臣付きの秘書官だ。そして騎士に至っては王宮の近衛だ。
使用人は以前、国王付きだった者達で、一様に青い顔をしてその身体は見てわかるほど震えている。
「実行犯はもう死んでおりましたが、首謀者はこの通り捕まえましたので後は国王の判断を仰ぎたく。よければ、どこぞの森にでも置いてきますが」
ランドルフはその罪人を一瞥し、国王に向き直った。
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