上 下
29 / 63

28

しおりを挟む
 翌日にはラリーは王宮からの呼び出しを受けて出掛けたので、魔物退治にでも行けると思うほど体調も全快したリサは、鍛錬場でラリーの屋敷に駐在している騎士達と軽い模擬戦をして鈍った身体をほぐしていた。

 魔力切れなどほとんど起こしたこともなかったからこそ、どれほど体力的に変わっているかを確かめておきたかったのだが、まあこれなら許容範囲だろうと把握できた。
 思い切り動きたい衝動にも駆られるが、リサの相手をまともにできるのは黎明の羅針盤のメンバーを除けば数名くらいだろう。そう思うと、この辺りで終了しようと剣をしまった。

 そのまま庭園を見ながら歩いていると、屋敷の侍女が四阿にお茶を準備したので一息ついてくださいと声をかけてきた。
「ありがとう」と返事をして、その侍女と共に四阿へと向かった。そこはすぐそばに水盤があり、水の音が心地よい空間だった。


「今日ラリーは…ローレンス様はお帰りは遅いのかしら?」

「出掛けられる際は、用件が済み次第戻るとおっしゃっていらっしゃいました」

「そう。ありがとう」


 リサはそのまま水盤に流れる水を見ながら、そっと紅茶が注がれたカップを口に運んだ。

 この日、夕食の時間にローレンスは戻らず、リサは先に食事を済ませて部屋へ戻ることになった。
 流石に料理人の腕は言わずもがなで、何を食べてもとても美味しく、食べ終わってから厨房へと顔を出して料理人と色々とコツを教えてもらった。
 今度作る時に真似をしてみようと思うようなスパイスや隠し味を教えてもらえて、得した気分で部屋へと戻った。

 今から入浴を終わらせると時間は夜半を過ぎるだろう。そう考えてお湯を頂くことにした。
 侍女には下がっていいと告げ、一人でのんびりとお湯に浸かった。
 時間があればこれからのことをしっかりと話し合おうと考えていたのに、この時間まで戻ってこないのならまた明日以降に話し合うことになるだろう。そんなことを思いながらリサは目を閉じた。


 湯から上がりローブを来て部屋へ戻ると、長椅子の前のテーブルの上には侍女が用意したらしいブランデーが置かれていた。少しだけ飲んで寝ようかとグラスに少し注いでみると、モントーネで飲んだものよりも良い香りがし、口に含むと柔らかい口当たりでとても飲みやすかった。


「これ、美味しいわ。でも、飲みすぎはダメよね」


 そう思いながら、長椅子に腰掛けグラスを傾けた。一緒に置かれている本を手に取ると、それは挿絵が綺麗な詩集だった。
 お酒を飲みながらペラペラとページをめくっていると、詩に合わせた挿絵が妙に合っており、飽きることなく次々と読み進めてしまう。しかし同時にグラスの中身も減っていき、また注ぐ、そんな繰り返しになりそうで、本を閉じた。

 長椅子の背もたれに身体を預け、少し目を閉じた。


 ―――あぁ、美味しい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

処理中です...