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 ラリーは王都にある自身の屋敷へと戻り、リサと共に医師の診察を受けた。

 ラリーの傷はすっかりと治っており、魔力もある程度まで戻っていたが、リサは完全に魔力切れを起こしており、このまましばらく眠り魔力が戻れば目覚めるだろうと告げられた。
 魔力を譲渡することも考えたが、彼女の魔力は自分の物とは質が違い、どうやっても彼女に魔力の譲渡は出来なかった。


 リサの身の回りの事はラリーが自分で見はじめた。
 信頼できる侍女を一人だけつけたものの、エリザベスの姿を人に見せることに抵抗があったこともある。
 なにより自分の為に魔力切れを起こしたのだから、世話を見るのは当然の事だと考えていた。それより自身の妻にと望んだ女性なのだから、片時もそばから離れたくはなかった。


 リサと一緒に屋敷に戻った二日後にはグレンから連絡が行ったのか、黎明の羅針盤の一人でもあるレイモンド・サリヴァンが屋敷を訪れた。
 伸ばした銀髪をウルフヘアにカットし、アメジストの瞳はまるで宝石のように輝いている青年だ。


「君がレイモンド・サリヴァンか」

「リサは何処にいる。早く案内してくれ」


 大体の経緯をグレンから聞いているようで、ラリーに対しては質問のようなものはなかった。
 その代わり、冷たい視線を向けられていることをヒシヒシと感じた。
 リサが眠る部屋に付き、彼女の眠るベッドへ歩み寄って座り込んだ。元の姿をしているリサの姿を見て、納得したような表情を浮かべて彼女に声をかける。


「リサ……」


 そう声をかけて、レイモンドは羽織っていた服のポケットから虹色の石が嵌っている指輪を彼女の指にはめた。なにかしらの魔道具だろうか。


「それは…なんだ?」

「これにはリサの魔力が込められている。リサの魔力は特殊だから、こういう物が必要なんだ」


 そうしてしばらくすると、指輪の石が光りはじめた。どうやら、石に込められていた魔力が彼女の体の中に移動し始めたようだ。


「数日で目が覚めるはずだ」

「感謝する。さすがは伝説のパーティだな。それだけ絆が深いのか」

「俺達を他のくだらない奴らと一緒にするな。今回はリサの判断でこうなったかもしれないが、俺は納得しているわけじゃない。彼女に何かあったら、お前が何者であろうと容赦しない。覚えておけよ」


 そう言い残し、レイモンドはその場からかき消すように姿を消した。さすがは黎明の羅針盤メンバーだと言わざるを得ない。
 しかし、ラリーはレイモンドがリサを見つめる瞳と、それとは全く違う自分を見る棘のある視線が気になって仕方ない。もしかしたら彼はリサのことが……一瞬そんな思いが頭をよぎったが、頭を振ってその考えを追い出す。

 今は何より、リサが目覚めるのが先だ。

 そしてレイモンドが魔道具をリサの手に渡した日の夜には、リサの外見がエリザベスからリサへと変わった。彼女はどんな時でも認識阻害の魔法を常時発動できるようにしていたのだと気が付いた。
 確かに、今までの旅の中でもどんな時でも彼女の姿はリサのままだった。それほどエリザベスの姿を隠していたかったのだろうかと思いながら、彼女のことを何も知らない自分に苛立っていた。


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