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第九章
184 ジュネス学園 2
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学園長と思われる人物が教室に入って来て教卓に立ち教室中を見回した。そしてある一人の生徒に目を留めたように見えたが、次の瞬間には正面を見ていたので、気のせいのようだ。
背はあまり高くなく、身体も鍛えてはいない様で学園長という地位からしても文系なのだろう。そのチャコールグレーの髪は後ろで束ねられ、ミントグリーンの瞳はどこか冷たく光っている。
「みなさん。入学おめでとう。私は学園長のホールデン・フォン・アーテルです。今日は学園での生活について説明します」
挨拶を簡単に済ませて学園生活での注意事項を話し始めた。
隣接する王立図書館は利用届を出せば利用できること。
校外学習は一年の女子は不参加、二年からは全員参加だということ。
成績は随時更新されるので、その都度確認し成績向上に努めることなどを話し、校内の案内を他の人物がすることを告げ出て行った。そして入れ替わるように校内を案内するための男性が入ってきた。
学園の教務の人の様で、お揃いのローブを着ていた。
そして教室の前に図面を表示し、大まかに説明したあと各自で見回るようにと言い残し、部屋を出て行った。こんなに簡単でいいのだろうかと思っている生徒もいるようだが、今日のところはこれで解散らしく、教室から続々と人が出て行った。
学園は元の王宮だった建物の一部に学年棟などを増築し、施設内には庭園や鍛錬場もあり、学園と呼ぶにはとても広大で壮大な空間が広がっている。
中央棟には講堂をはじめ、学園生が使用する食堂やカフェ、生徒会室、倶楽部室、教師が詰める教務室、来訪者用の応接室、学園長室などがあり、その中央棟から各学年棟へと繋がっている。
各棟は教室に加え、専門教室、教材室、自習室、学年専用カフェがあり、それぞれのイメージカラーでまとめられていた。
敷地内の一番奥に位置している元王宮の建物は、今の王宮を建て直す際に使用していた頃もので、重厚な雰囲気を纏い、大人数での舞踏会や会食など行えるため、学年末の舞踏会の開催や、ダンスやマナーの授業に使用されている。
そして元王宮ということもあり、隠し通路や隠し部屋があるらしいのだが、その詳細は今では失われ、人々の記憶からも消えつつあった。しかし、よくある学園の七不思議の様な話でひそかに語り継がれていたりする。
クラウディア、アデライト、フィオナ、ライナーは自分たちが過ごす学年棟とそれに繋がる中央棟を見て、そろそろ帰ろうとホールを歩いていた。その時、後方が騒がしくなったので振り返ってみてみると、そこには女生徒にまとわりつかれるリオネルの姿が見えた。
「クラウディア」
リオネルはクラウディアの側まで来ると、貴族らしい振る舞いで礼をした。
「アデライト嬢、フィオナ嬢、この度は入学おめでとうございます。ライナーも一年だったな。ようこそ学園へ」
そう言って対外的な笑顔を向けるのだが、ライナーに対する視線は少し冷たい。
「まあリオネル様。ありがとうございます。でも、早くクラウと二人になりたいと顔に書いてありますわ。では私達はお先に。クラウをよろしくお願いしますね」
「もちろんです」
三人の顔を見て、リオネルが満面の笑みでクラウディアの手を取った。遠くから女性との悲鳴なようなものが聞こえてくるが、リオネルは一切気にしていない様子でクラウディアに話しかける。
「じゃあ、クラウディア、行こう」そう言って庭園への方向へ進んでいった。
今日は、上級生が休みなこともあり、庭園への人の出入りはいつもよりも少ない。そしてリオネルはおすすめの場所があると言って、庭園の奥へと足を向けた。
庭園は学園の隣に沿うように整備され、その広さはお茶会も開催できる芝生が綺麗な広場から、水の演出が素晴らしい、涼しい空気が漂う空間、そして色とりどりの花が咲き乱れる空間、緑が目に鮮やかな新緑の空間、そしてその色々な場所を楽しめるようにとそこここに四阿が設置され、多岐にわたり細かいところまで配慮されて整備されている。
所々にベンチが置かれているので、休憩したり、愛を囁き合う恋人同士の憩いの場にもなっている。
庭園の奥深くまで進むと、そこは自然の森に繋がっている。
小川が流れ込む少し大きい池があり、そのそばには学園のシンボルツリーともいえる大きなカエデの樹がその存在感を示し生徒を見守っていた。
秋が深まる頃には水面に色付いた葉が映り、その美しさに息を呑むものも多い。そしてその数日後にはその赤く色付いた落ち葉で幻想的な赤い絨毯が広がり、小川に流される赤い葉はとても素敵で、秋は人気の場所だった。
そのほかの季節は他の庭園に人気を取られてしまい、閑散としているので穴場と言える休憩場所でもあった。
「クラウディア、ここだよ。今の時期に咲くのだけど、可愛いと思わないか?」
リオネルが連れてきたのは人があまり来ないような庭園の隅だが、そこに咲いているのはとても可愛い小さな白い花…スズランだった。
「まあ、可愛らしいお花」
クラウディアは薬草を見る傍ら色々な花を見てきたが、スズランはこの世界で初めて見るものだった。
「君が好きだろうなって思っていたんだ。これはそんなに長い間咲いていないから、見せられてよかった」
リオネルの優しく笑う姿を見て、この人は心から優しい人なんだなと思ったのだ。さすがにここで「これ、毒があるんですよ」などと言えるわけもなく、その近くのベンチに座り、スズランを見ながら他の話を始めた。
背はあまり高くなく、身体も鍛えてはいない様で学園長という地位からしても文系なのだろう。そのチャコールグレーの髪は後ろで束ねられ、ミントグリーンの瞳はどこか冷たく光っている。
「みなさん。入学おめでとう。私は学園長のホールデン・フォン・アーテルです。今日は学園での生活について説明します」
挨拶を簡単に済ませて学園生活での注意事項を話し始めた。
隣接する王立図書館は利用届を出せば利用できること。
校外学習は一年の女子は不参加、二年からは全員参加だということ。
成績は随時更新されるので、その都度確認し成績向上に努めることなどを話し、校内の案内を他の人物がすることを告げ出て行った。そして入れ替わるように校内を案内するための男性が入ってきた。
学園の教務の人の様で、お揃いのローブを着ていた。
そして教室の前に図面を表示し、大まかに説明したあと各自で見回るようにと言い残し、部屋を出て行った。こんなに簡単でいいのだろうかと思っている生徒もいるようだが、今日のところはこれで解散らしく、教室から続々と人が出て行った。
学園は元の王宮だった建物の一部に学年棟などを増築し、施設内には庭園や鍛錬場もあり、学園と呼ぶにはとても広大で壮大な空間が広がっている。
中央棟には講堂をはじめ、学園生が使用する食堂やカフェ、生徒会室、倶楽部室、教師が詰める教務室、来訪者用の応接室、学園長室などがあり、その中央棟から各学年棟へと繋がっている。
各棟は教室に加え、専門教室、教材室、自習室、学年専用カフェがあり、それぞれのイメージカラーでまとめられていた。
敷地内の一番奥に位置している元王宮の建物は、今の王宮を建て直す際に使用していた頃もので、重厚な雰囲気を纏い、大人数での舞踏会や会食など行えるため、学年末の舞踏会の開催や、ダンスやマナーの授業に使用されている。
そして元王宮ということもあり、隠し通路や隠し部屋があるらしいのだが、その詳細は今では失われ、人々の記憶からも消えつつあった。しかし、よくある学園の七不思議の様な話でひそかに語り継がれていたりする。
クラウディア、アデライト、フィオナ、ライナーは自分たちが過ごす学年棟とそれに繋がる中央棟を見て、そろそろ帰ろうとホールを歩いていた。その時、後方が騒がしくなったので振り返ってみてみると、そこには女生徒にまとわりつかれるリオネルの姿が見えた。
「クラウディア」
リオネルはクラウディアの側まで来ると、貴族らしい振る舞いで礼をした。
「アデライト嬢、フィオナ嬢、この度は入学おめでとうございます。ライナーも一年だったな。ようこそ学園へ」
そう言って対外的な笑顔を向けるのだが、ライナーに対する視線は少し冷たい。
「まあリオネル様。ありがとうございます。でも、早くクラウと二人になりたいと顔に書いてありますわ。では私達はお先に。クラウをよろしくお願いしますね」
「もちろんです」
三人の顔を見て、リオネルが満面の笑みでクラウディアの手を取った。遠くから女性との悲鳴なようなものが聞こえてくるが、リオネルは一切気にしていない様子でクラウディアに話しかける。
「じゃあ、クラウディア、行こう」そう言って庭園への方向へ進んでいった。
今日は、上級生が休みなこともあり、庭園への人の出入りはいつもよりも少ない。そしてリオネルはおすすめの場所があると言って、庭園の奥へと足を向けた。
庭園は学園の隣に沿うように整備され、その広さはお茶会も開催できる芝生が綺麗な広場から、水の演出が素晴らしい、涼しい空気が漂う空間、そして色とりどりの花が咲き乱れる空間、緑が目に鮮やかな新緑の空間、そしてその色々な場所を楽しめるようにとそこここに四阿が設置され、多岐にわたり細かいところまで配慮されて整備されている。
所々にベンチが置かれているので、休憩したり、愛を囁き合う恋人同士の憩いの場にもなっている。
庭園の奥深くまで進むと、そこは自然の森に繋がっている。
小川が流れ込む少し大きい池があり、そのそばには学園のシンボルツリーともいえる大きなカエデの樹がその存在感を示し生徒を見守っていた。
秋が深まる頃には水面に色付いた葉が映り、その美しさに息を呑むものも多い。そしてその数日後にはその赤く色付いた落ち葉で幻想的な赤い絨毯が広がり、小川に流される赤い葉はとても素敵で、秋は人気の場所だった。
そのほかの季節は他の庭園に人気を取られてしまい、閑散としているので穴場と言える休憩場所でもあった。
「クラウディア、ここだよ。今の時期に咲くのだけど、可愛いと思わないか?」
リオネルが連れてきたのは人があまり来ないような庭園の隅だが、そこに咲いているのはとても可愛い小さな白い花…スズランだった。
「まあ、可愛らしいお花」
クラウディアは薬草を見る傍ら色々な花を見てきたが、スズランはこの世界で初めて見るものだった。
「君が好きだろうなって思っていたんだ。これはそんなに長い間咲いていないから、見せられてよかった」
リオネルの優しく笑う姿を見て、この人は心から優しい人なんだなと思ったのだ。さすがにここで「これ、毒があるんですよ」などと言えるわけもなく、その近くのベンチに座り、スズランを見ながら他の話を始めた。
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