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第八章
158 目を覚まさないクラウディア
しおりを挟む「リオネルはどうだった?」
クラウディアが眠っている部屋へ戻ってきたニコラスの顔を見て、テオドールが向こうで何があったのかを探っているのがわかった。
「ディーのおかげでリオネルは毒の影響はなくなった。もう大丈夫だそうだ」
流石に治ったとは言えないので、そこは言葉を濁した。
あの場にいた者全員に緘口令を敷いたので、その事実が外に漏れることもないだろう。もし漏れたとすると、この先に何が起こるか想像もつかないくらいの出来事だ。
ニコラスはリオネルの為に苦痛に耐えているクラウディアを見て、更にいたたまれない気持ちになった。代わってやりたいと心から思うのに、何もできない自分が歯がゆくて仕方ないのだ。
クラウディアの横に座り額の汗を拭うテオドールを見て、さらに何もできない自分を責めた。
「なあ、ニック。さっき言っていたリオネルはディアのこと…」
テオドールの思いつめる表情に思うところがあり、ここは正直に話した方がいいとニコラスは判断した。そもそも隠しておいてもいずれわかることだし、知ったからと言って今、何かできるわけでもない。
「去年の火の祭典で初めて会ったようだが、相当惚れ込んでいる」
あの時に一応はけん制したつもりだったニコラスだが、その行動がリオネルの気持ちに余計に火をつけたようだと、自分の存在がリオネルの中の気持ちを膨らませて行くきっかけだったのだろう。
「そうか…」
美しいクラウディアを見れば、好きにならないものはいないだろうとテオドールはクラウディアの顔を見ながら考えた。自分のその一人なのだろうかと考えながら、自分は違うと否定している心もあった。
夜になり、カトゥリエの森への調査に向かうために準備をしていたニコラスだったが、頭の中に浮かぶのはクラウディアの苦しげな表情だけだった。
リオネルの容態に心配がなくなった今、思うことは彼女のことだけだ。そう考えると、足は自然にクラウディアがいる部屋へと向かう。
部屋にはノーマがクラウディアに付き添うようについている。
この時間はテオドールもカトゥリエの森へ行く準備をするために戻っていることと、明日の朝からウィルバートからの侍女やメイドが来ることになっているからノーマだけなのだ。
「ノーマ…どうだ?」
「ニコラス様。あまりお変わりはありません。激しく痛むようでうなされる時間が多いのです」
「私が付いているから、お前も少し休んでくるといい。明日からまた頼まなければならないからな」
「ニコラス様も明日の朝からお出かけになられるのでしょう?お休みになられないと…」
「私は大丈夫だ。少しでも側に居たいのだ……。二人にしてくれ」
慈しむような瞳を浮かべながら、クラウディアを見つめるニコラスをノーマは苦しい思いをしながら見ていた。
「わかりました。では、何かありましたら、すぐに声をおかけくださいませ」
ノーマが部屋を出て行く音を聞き、部屋に静けさがもどる。クラウディアの顔を見ながら、その手にすら触れられないことに寂しく感じ、その髪をすくい、口付けを落とした。
「リオネルを助けてくれたのだな……ありがとう。だが、お前が死んだらどうする……。俺を一人にしないでくれ…」
そのまま東の空が白むまで彼女の側に寄り添った。ただ横に座って祈ることしかできない。苦しむ姿を見ている事しかできない自分に苛立ち、太陽の光が窓から差し込んだ頃、ノーマに後を頼んでカトゥリエの森へと向かった。
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