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第八章
152 リオネルの命
しおりを挟む「侍医は来ているか!」
ニコラスの声が屋敷中に響いた。
ニコラスに抱えられてるのは、今にも息絶えそうなリオネルの姿だった。先に連絡が届いていたこともあって、ランベールがすぐに二人を出迎え部屋へと連れていった。
「ニコラス!これはどういうことだ!」
「カトゥリエの森に、想定外の魔獣が多数が出ました」
「あそこに出ているのはDクラス以下の小物だろう?」
「わかりません。不審な点はありますが後から話します。まずはリオネルの治療を」
部屋へ連れていき、ベッドに横になり傷の治療のために服を脱がしたのだが、そこには想像をはるかに超えた深い裂傷が何本もあった。そして、胴体の半分ほどが毒に侵され青黒く変色していた。
「これはひどい……」
毒が入ったと思われる傷を中心に青黒く変色が進んでいる。そのスピードは通常より早いが、レイナルド達のおかげか今はかろうじて胴体で止まっているようだ。
傷からは止まることなく血が流れ続け、かろうじて止血を試みたおかげでその量は少なくはなっていた。だからと言って、安心できる状況でもなく、予断を許さない状況なのは間違いがない。
◇ ◇ ◇
到着した医師の診察が終わり、その医師の表情が暗いことに気付いたのは一人だけではなかった。
「どうだ?」
そう問われた医師はうつむいたまま目を閉じた。言葉を選んでいるのか、何か考えているようなそんな目をしている。
「正直言いますと…わかりません。今のところ五分五分かと…解毒剤も投与しましたが、毒自体が変異しているのであれば、その効き目も少ないでしょう。そうなるとリオネル様の気力にかかっているところが大きくなります。申し訳ございません。私の力では…」
ランベールの脳裏にはあの当主会議での言葉が浮かび、最悪な結末が頭をよぎった。そしてすぐに杉の一手を打つべく、話をすべくあの人物を呼ばなければとニコラスに伝言を託した。
「ニコラス……悪いが、すぐにクロスローズ公爵家へ行ってくれ」
ランベールの思い詰めているような顔を見て、ニコラスはすぐに行動に移した。頭の中ではクロスローズ公爵家に行って、どう話しを切り出すかを考えたものの、細かいことに考えは及ばなかった。
「わかりました。すぐに……」
その言葉に頷くランベールを視線の端に入れ、すぐに転移陣へと戻った。
◇ ◇ ◇
「ベイリー様、デフュール公爵家のニコラス様がお見えですが…その…」
「どうした?」
廊下が騒がしくなったのを感じ、ベイリーもただならぬ出来事があったと感じ取ったが、ニコラスともあろうものが礼儀を欠くような人物ではないことも理解していた。
「ニコラス殿。いきなりどうし……」
ニコラスの騎士団の制服は大部分が血の赤い色に染められているのを見て、ベイリーも言葉に詰まりそれ以上続かなかった。彼の行動の理由がコレなのだと一瞬で理解できた瞬間だ。
「クロスローズ公爵、失礼を承知の上です。緊急事態のため容赦願いたい」
「その血はどうした!けがでもしているのか!」
ニコラスはようやく自分の服が血まみれになっていることに気付いた。
「これは……リオネルの血です。討伐の実戦講習のことはご存じですね。アルトゥールとジェラルドも参加している…そこで、想定外の魔物が出ました。詳しいことはジェラルドが目撃しておりますのでそちらから」
その言葉で自分の子供は無事なのだとわかったが、目に入る血がリオネルのものだということは最悪の事態を想像するに難くない。見るからに大量の出血を物語るその赤い騎士服を見て、以前、クラウディアの言ったことが本当に起こったという事だと気が付いた。
「それでリオネル殿は無事なのか?」
「多数の裂傷と、その際受けた毒の影響からか意識がありません。現場でアルトゥールとレイナルド殿下の力を借りたのですが、ほとんど効きませんでした。そして医師の診断では五分五分だと…リオネルの気力が強ければ助かる可能性が高くなるのではと…」
言葉を失ったベイリーに続ける。
「公爵、一緒に来ていただけますか?それと、ディアを…クラウディア嬢をリオネルに会わせてもらえませんか。酷な願いと存じています。しかし、リオネルは…」
言葉が詰まって出てこなかった。もしかしたらリオネルは助からないかもしれない。そう考えると、クラウディアにリオネルを会わせてやりたいと思ってもいいだろう。
「わかった。すぐにいこう。ラッセル、クラウディアを転移陣の部屋にすぐ連れてきてくれ」
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