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第八章

129 ニコラスside 火の祭典

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 フェストもの祭事も終わり、教会へ寄ってから屋敷へと戻ってきた。
 教会で時間を取られたこともあって、屋敷に戻ってきたのはフェストも終わりを告げる頃だった。


 屋敷に戻ると、いつもはいるはずのルーベルム騎士団の騎士の姿が少ない事に気が付き、何かあったのかと通りがかった騎士を捕まえて話を聞いた。
 

「何かあったのか?」

「ニコラス様。実は……」

 
 耳にしたことはデフュールの一族でもあるロウファッジ伯爵が人身売買に手を染めていたとのことだった。そして、それを発見したのがリオネルだと。
 着替えてから父上の所へ行こうと自室へと戻ると、そこにシャンスがやってきた。そして、先ほどの話の詳細と、クラウディアが屋敷に来ていること、そして彼女がロウファッジの事件に巻き込まれたことを告げた。
 

「シャンス!それは本当なのか?それで彼女は…ディアはどうした!」

「ニック、落ち着け!今、ご当主様の執務室にリオネルと一緒にいる」

 
 シャンスからそう聞いてすぐに父上の部屋へと向かった。無事だと言ってはいたが、顔を見るまでは安心できない。
 しかし、なぜ彼女がここにいるんだ?来るなら来ると言ってくれればそばを離れなかったのに。
 

「父上!クラウディアが来ているのですか?」


 父上の執務室のドアを開けて、そう言うとすぐに自分を呼ぶ彼女の声が聞こえた。


「ニコラス様!」

「ディア!よかった…無事で。危険な目に遭ったって聞いたが怪我はないか?」
 

 すぐに彼女の側へ行き手を取ると、その手首には縛られたであろう痛々しい痕が残っていた。血は出ていないが、痣になっているのか彼女の細い手首では相当痛かっただろうとそっと撫でた。
 

「君ほどの腕なら大丈夫だろうが…心配させるな」


 愛おしい視線をクラウディアに向け、少し抵抗するそぶりを見せた彼女を抱きしめて頭に口付けをした。無事だったことが嬉しくて、思わずそんな態度を取ってしまう。
 離れようとする彼女を抱きとめた腕の力を少しは緩めたが、離すつもりはない。
 

「来るのなら、先に言ってほしい」

「来る予定はなかったのよ。おじさまに誘われたの」


 俺は父上をじっと見て、ディアが来ていると言わなかったことに抗議をする視線を向けたが、父は居心地が悪いと感じたのか、少し視線をそらした。その態度に少しイラっとした。
 

「ところで、この一件、どうするおつもりですか?」

「ニコラス…まあ、ベイリーに丸く収まるよう話はしてくるつもりだが、なにせ相手が相手だ…」

「お願いしますよ。確かにこちらに非はあるが、それでディアが外に出られなくなると、私も困るのでね」


 抱き寄せたままの彼女の手を取り、口付けをした。
 父上も俺と彼女は知り合いだと知ってはいるが、俺がここまでする彼女への気持ちまでは知らなかっただろう。
 

「そんなこと言って、ニコラス様もお忙しいんでしょう?テオドール様も…あなたに会いたいみたいだわ」


 彼女がテオの事を言ったが、そもそもあいつが俺に会いたい理由なんてわかっている。彼女のことで張り合いたいし聞き出したいだけだ。
 俺は彼女を正面から見つめそっと頬に手を添え、その指先で彼女の身に付けているあのピアスに触れる。

 無事でよかった。会えてよかった。そう思いながら愛しい彼女の顔を見た。
 

 それを見ていたリオネルは、俺と知り合いなのかと彼女に聞いてきた。
 

「お前に言ってなかったな。もうニ年になるか?」


 そうリオネルに言って彼女の腰に回した手を引き、抱き寄せて彼女の頭に再度、口付けを落とした。
 リオネルの彼女を見つめる目は危険だ。これ以上、彼女に心を寄せる人間など必要はない。それが自分の弟などけん制するしかないだろう。


 彼女が困るのをわかっていながら「いつものように呼んでくれ」「いつだって側にいたいと思うのだから、仕方ないだろう?」とその腕に力を入れる。

 
 だが、ジェラルドが迎えに来ているのだから、今日はこの辺りが限界だろう。
 するとリオネルが少しイラついたように俺から彼女の手を奪うようにジェラルドのいるところへ案内すると連れていく。俺のディアに対する態度にも、ディアが俺を愛称で呼んだことへの焦りか…
 
 俺はその後ろ姿を見ながら、笑みを浮かべていた。
 
 
 リオネルとクラウディアが執務室を出た時、その部屋の外にシャンスが控えていた。そして、転移陣の部屋へと向かう二人を見送った。


「ニック……、彼女、美人だな」


 シャンスのその言葉に、思わず睨み返してしまう。彼女に視線が集まるのは気に入らない。


「ひでえな、その視線はいくらなんでもアウトだろう?ただ褒めただけじゃないか」


 まだムッとした顔をしたままシャンスを見たが、気に入らないといった気持ちを隠せない。


「お前は見なくていい」

「無茶言うなよ」


 もう呆れてものが言えないといった顔のシャンスだが、それほど俺の態度は酷いものだったろう。


「ああ、もう何も言わねえ。だがな、これは言っとくぞ。リオネルは彼女に惚れてるぞ。この先、どうなっても知らないからな」


 そのシャンスの言葉に、一瞬、少し表情が固まる。自分もあの場での話で気が付いたが、彼もまたリオネルの顔を見て気付いたのだろう。


「お前さぁ、もう少し自信持てよ。お前ほどのいい男なんていないぞ。俺が保証する」

「本気でそう思っているのか?」


 疑うような眼でシャンスを見ると、あいつは何度も頷いた。確かに、こいつは俺に対して嘘を吐くような人間ではない。だが、素直に受け取ることのできない俺もそこにいた。
 

「だから、自信持てよ」


 俺の肩をポンと叩いて「もう帰るわ」と部屋を出る。シャンスは仕事以外でこんなにも悩む羽目になるとは思いもしなかっただろう。





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