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第八章
99 通信鏡の完成
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コルビーはクラウディアとヒューの“通信鏡”の魔道具を作るという話を聞いて、彼の『君が形にしてみるかい?』という言葉に乗っかり、この半年ずっと頭の中には訳の分からない魔術陣で埋め尽くされ、夢にまで出てくるほどだった。
しかし、こんなに充実した半年もいままでになく、ブレイズとヒューからの指導もあって、メキメキと実力が上がってきている自覚はあった。だが、クラウディアにはまだ敵わないということも痛感していた。
回路が無事に動くかを何度も挑戦しているものの、1つが動けば1つは動かず、2つ動いても連携させると止まる…といった感じで、なかなか進まず日だけが過ぎていった。
「あぁ…本当にクラウディアの頭ン中はどうなっているんだ」
そう叫んで、研究所の机に突っ伏していると、ブレイズが呆れたようにその姿を見ている。
『前からわかっていたことじゃないか』と、自分も同じことを思っているというような感じで言うので、『やっぱり規格外な奴だ』と思った。
「それで、どこで詰まってるんだ?」
「1つ1つは出来てるんだ。多分ね。ただ、その連携がうまくいかないのと、映像を送る時に切れる…。回路がどこか間違っていると思って何通りも試してみたんだけど、上手くいかないんだ」
手元にある今まで試してきた魔術陣とその回路図をブレイズも一通り見て確認をしてみる。
この魔道具は、ヒューがコルビーに話を振ったものだから、最初は様子を見ているだけにしようと考えていた。だが考えていた以上にコルビーが頑張って結果を出していることが嬉しかったので、少しは助け舟をだそうかと思った。もちろん、ブレイズも興味のほうが大きいのだが。
「ここまで考えたのなら、もう少しだな」
そう言いながら何枚にも書き溜めた用紙を隅々まで目を通し、その中の回路図の線を数本引き直し、間に小さな魔術陣を重ねるように配置した。
「これで、動くかやってみるといい」
コルビーはパッと体を起こし、ブレイズが書き足した紙を穴が開くかと思うほど何度も見て、その瞳を輝かせながら新しい素材を取り出して回路図を作り始めた。
「で…できた…」
ブレイズの手直しを受けすぐに寝る間も惜しんで取り掛かったが、思いの外、細かい作業が多かった為に数日はかかったが、何とか試作品にこぎつけた。
そしてその設計図をきれいに清書し、一度、ヒューの元へ持って行った。
「ヒューさん、いらっしゃいますか?」
「コルビー、久しぶりだね。今日はどうしたんだ?」
「じつは、試作品が出来たので、一度見ていただけないかと」
手に持っていたソレをヒューに設計図と共に手渡した。
それを受け取ったヒューは、クラウディアの設計図をきちんと形に仕上げてきたコルビーの実力が本物だったと思わず笑顔になる。さすがグリーン一族だけある。
「これか?それで設計図がこれだな」
設計図を隅々まで確認し、指で回路を辿りながら頷いているのを見ていると、合っているのだと感じ少しホッとする。そして、全てを辿り終え、ようやく実物に手を伸ばした。
「まだ試作品なので大きいですが、もっと考えればいずれ小型化も可能かと思います」
それは大きいとはいえ女性の鏡台より小さいくらいで、机の上に据え置くには丁度いいサイズだった。
「…ああ、そうだね。この出来なら、それも可能だろう。それで試してみたのか?」
「研究室内だけです。離れてはまだ試していません」
そう言うと、何を思ったのか…いや、誰もが考えるであろう行動に出た。
「コルビー、私はこれを持って転移陣で移動しよう。君は研究室で連絡を待っていてくれるか?」
1台を手に取り、嬉々として部屋を出て行った。止める暇もないほどの素早い行動で、コルビーの目の前でその扉が閉まった。
「コルビー、ヒューは何か言っていたか?」
「それが、試すと言って1つ持って転移陣でどこかへ行ったみたいで…」
ブレイズがヒューらしいと、ははっと笑いながら魔道具を見た。コルビーが戻ってきた時間を考えると、そろそろ通信をし始めるかもしれない。
魔道具がリンリンと音を出し、受信ボタンが点滅し始めた。
他から通信が来ているという事を示すもので、緊張しながらそのボタンを押すと、本体の周りにある回路図に魔力が流れ、鏡に姿が映る。
「ブレイズ。私の声が聞こえるか?」
「ああ、お前の姿も見えるし、声も聞こえるぞ。お前はどこまで行ったんだ?」
「今はセナだ。王都から聖山を越えた裏側だ。この距離と高い山があるのにつながるとは、コルビー、お手柄だな」
ヒューに褒められて、とんでもないほど嬉しかったのだが、それもこれもクラウディアのおかげでもあり、ブレイズやヒューの手助けがあったからだ。
「ありがとうございます。しかし、そもそもクラウディアの考えと、叔父さんやヒューさんの助けがなければ完成は出来ませんでした」
「謙遜するな。紙に書くのと作り上げるのは別の事だ。確かにクラウディアの考えは素晴らしい。最初の設計図が土台になってはいるが、それから細かく手を入れたのはコルビーだろう?自慢していいぞ」
そう言われて、思わず涙がこぼれそうになる。
自分の手柄だと言われ、自慢していいと言われ、その結果にこそばゆい感じがして堪らない。
「じゃあ、今から帰る。お前もそれを持ってカルロス様の所へ一緒に行くぞ。いいな?」
それだけ言い残して通信がプツンと切れた。長距離をここまでタイムラグもなく通信が出来たことに感動の気持ちがようやく湧き上がって来て、今になって鼓動が早くなる。
「コルビー、カルロス様の所へ行ってこい。じきにヒューも来るだろう」
「はい」と答え、ブレイズの研究室を後にした。
しかし、こんなに充実した半年もいままでになく、ブレイズとヒューからの指導もあって、メキメキと実力が上がってきている自覚はあった。だが、クラウディアにはまだ敵わないということも痛感していた。
回路が無事に動くかを何度も挑戦しているものの、1つが動けば1つは動かず、2つ動いても連携させると止まる…といった感じで、なかなか進まず日だけが過ぎていった。
「あぁ…本当にクラウディアの頭ン中はどうなっているんだ」
そう叫んで、研究所の机に突っ伏していると、ブレイズが呆れたようにその姿を見ている。
『前からわかっていたことじゃないか』と、自分も同じことを思っているというような感じで言うので、『やっぱり規格外な奴だ』と思った。
「それで、どこで詰まってるんだ?」
「1つ1つは出来てるんだ。多分ね。ただ、その連携がうまくいかないのと、映像を送る時に切れる…。回路がどこか間違っていると思って何通りも試してみたんだけど、上手くいかないんだ」
手元にある今まで試してきた魔術陣とその回路図をブレイズも一通り見て確認をしてみる。
この魔道具は、ヒューがコルビーに話を振ったものだから、最初は様子を見ているだけにしようと考えていた。だが考えていた以上にコルビーが頑張って結果を出していることが嬉しかったので、少しは助け舟をだそうかと思った。もちろん、ブレイズも興味のほうが大きいのだが。
「ここまで考えたのなら、もう少しだな」
そう言いながら何枚にも書き溜めた用紙を隅々まで目を通し、その中の回路図の線を数本引き直し、間に小さな魔術陣を重ねるように配置した。
「これで、動くかやってみるといい」
コルビーはパッと体を起こし、ブレイズが書き足した紙を穴が開くかと思うほど何度も見て、その瞳を輝かせながら新しい素材を取り出して回路図を作り始めた。
「で…できた…」
ブレイズの手直しを受けすぐに寝る間も惜しんで取り掛かったが、思いの外、細かい作業が多かった為に数日はかかったが、何とか試作品にこぎつけた。
そしてその設計図をきれいに清書し、一度、ヒューの元へ持って行った。
「ヒューさん、いらっしゃいますか?」
「コルビー、久しぶりだね。今日はどうしたんだ?」
「じつは、試作品が出来たので、一度見ていただけないかと」
手に持っていたソレをヒューに設計図と共に手渡した。
それを受け取ったヒューは、クラウディアの設計図をきちんと形に仕上げてきたコルビーの実力が本物だったと思わず笑顔になる。さすがグリーン一族だけある。
「これか?それで設計図がこれだな」
設計図を隅々まで確認し、指で回路を辿りながら頷いているのを見ていると、合っているのだと感じ少しホッとする。そして、全てを辿り終え、ようやく実物に手を伸ばした。
「まだ試作品なので大きいですが、もっと考えればいずれ小型化も可能かと思います」
それは大きいとはいえ女性の鏡台より小さいくらいで、机の上に据え置くには丁度いいサイズだった。
「…ああ、そうだね。この出来なら、それも可能だろう。それで試してみたのか?」
「研究室内だけです。離れてはまだ試していません」
そう言うと、何を思ったのか…いや、誰もが考えるであろう行動に出た。
「コルビー、私はこれを持って転移陣で移動しよう。君は研究室で連絡を待っていてくれるか?」
1台を手に取り、嬉々として部屋を出て行った。止める暇もないほどの素早い行動で、コルビーの目の前でその扉が閉まった。
「コルビー、ヒューは何か言っていたか?」
「それが、試すと言って1つ持って転移陣でどこかへ行ったみたいで…」
ブレイズがヒューらしいと、ははっと笑いながら魔道具を見た。コルビーが戻ってきた時間を考えると、そろそろ通信をし始めるかもしれない。
魔道具がリンリンと音を出し、受信ボタンが点滅し始めた。
他から通信が来ているという事を示すもので、緊張しながらそのボタンを押すと、本体の周りにある回路図に魔力が流れ、鏡に姿が映る。
「ブレイズ。私の声が聞こえるか?」
「ああ、お前の姿も見えるし、声も聞こえるぞ。お前はどこまで行ったんだ?」
「今はセナだ。王都から聖山を越えた裏側だ。この距離と高い山があるのにつながるとは、コルビー、お手柄だな」
ヒューに褒められて、とんでもないほど嬉しかったのだが、それもこれもクラウディアのおかげでもあり、ブレイズやヒューの手助けがあったからだ。
「ありがとうございます。しかし、そもそもクラウディアの考えと、叔父さんやヒューさんの助けがなければ完成は出来ませんでした」
「謙遜するな。紙に書くのと作り上げるのは別の事だ。確かにクラウディアの考えは素晴らしい。最初の設計図が土台になってはいるが、それから細かく手を入れたのはコルビーだろう?自慢していいぞ」
そう言われて、思わず涙がこぼれそうになる。
自分の手柄だと言われ、自慢していいと言われ、その結果にこそばゆい感じがして堪らない。
「じゃあ、今から帰る。お前もそれを持ってカルロス様の所へ一緒に行くぞ。いいな?」
それだけ言い残して通信がプツンと切れた。長距離をここまでタイムラグもなく通信が出来たことに感動の気持ちがようやく湧き上がって来て、今になって鼓動が早くなる。
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「はい」と答え、ブレイズの研究室を後にした。
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