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第七章
88 彼へ
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セグリーヴ侯爵家から戻った次の日、クロスローズ公爵家の御用達でもある宝飾店の店主が早々に訪ねてきた。
「奥様、エヴァン様がお見えになりました」
「早かったわね。こちらに通して」
「奥様、お急ぎとお伺いましたが…」
エヴァンは恭しく礼をして持ってきた商品を机の上に並べた。
年のころは30半ばと若いのだが、彼が選ぶ品物は間違いがなく、クロスローズ公爵家から絶大な信頼を寄せるほどの鑑定眼を持っている人物だ。
「頼んだものは持ってきてくれたかしら?」
「はい。色々と揃えてまいりました」
机の上に並べられたのは、クラウディアの瞳の色の瑠璃を使ったものを中心に様々な種類が揃えられていた。
「まあ、素晴らしいわね。クラウ?どれがいいかしら?」
グレースはクラウディアが選ぶのだからと、もっと前へ出るようにと促し、その中のいくつかを手に取って目の前に差し出す。それらに目をやりながら、クラウディアもいくつか手に取りながら、その中の一つ、目に留まったそれを手に取った。
「そうですね……、これにしようかしら…」
クラウディアが手に取ったのはカイラードが勧めていたスイングバータイプで、これは金のスウィングバーに石が付いているが左右で石の大きさが異なるデザインで、そこが素敵だった。そしてそれは、ニコラスにとても似合いそうだとクラウディアは思っていた。
「では、これにしましょうか。これをいただくわ」
「では、明日には包装してお持ちします」
エヴァンは机の上に広げた多くの商品を素早く片付け、グレースが選んだ他の商品も再度確認をして、早々に屋敷を後にした。その彼の顔は屋敷を出る時には笑顔になっていた。
◇ ◇ ◇
ニコラスが『俺は、本気だ』と言ったあの日から、彼は隙を狙ってはクラウディアを掴まえる。誰にも見られないように細心の注意を払って。
「ピアス…付けていてくれて嬉しい」
毎回、そう言ってピアスの着けられた耳を触り、うっとりとした視線を投げかけてくる。
ピアスは髪に隠れて見えないのだから、着けている事を確認しているのだろうか?だが、彼の瞳には意地悪なところは一切見られず、ただ純粋に身に付けている事への喜びなのかもしれない。
「あの…ニック。これ、私から。受け取ってもらえる?」
クラウディアがおずおずと小さな箱を取り出してニコラスに差し出すと、一瞬、驚いた表情を浮かべたが、彼はすぐに満面の笑みを浮かべて受け取った。
「俺に?」
「うん。お返しよ。お母様に「ちゃんとお返ししなさい」って言われて、私が選んだの。気に入らなかったら付けなくてもいいから…」
「ディアが選んでくれたのに、付けないなんてありえないだろう?」
そう言って箱を開けて中身を取り出し、髪を耳にかけてクラウディアに耳を向けて「付けてくれるか?」と言われ、クラウディアは差し出された耳のピアスを取り外し、ニコラスの手にある新しいピアスをつけた。
―――やっぱり男の人には少しでも大きめのデザインの方が素敵ね
そんなことを思いながら、反対側も付けた。
「ありがとう。大切にする」
ニコラスからあたたかい視線を向けられどうにも落ち着かないクラウディアだが、喜んでもらえていると思うとそれはそれで嬉しかった。そしてグレースが言った言葉。
『運命はわからないものよ。でもね…人生は愛する人と手を取りあって、助け合って生きていくものだと私は思っているわ。未来は二人で切り拓いていくものじゃないかしら』
その言葉が頭の中で響く。
ニコラスの顔を見ていると、彼の想いを受け止めてもいいのではないかという気がしてしまうが、頭のどこかでそれを拒む自分もいる事に気が付く。
―――もう少し、時間が経てば向き合えるのかな…
帰る後姿を見ながら、そんなことを考えていた。
「奥様、エヴァン様がお見えになりました」
「早かったわね。こちらに通して」
「奥様、お急ぎとお伺いましたが…」
エヴァンは恭しく礼をして持ってきた商品を机の上に並べた。
年のころは30半ばと若いのだが、彼が選ぶ品物は間違いがなく、クロスローズ公爵家から絶大な信頼を寄せるほどの鑑定眼を持っている人物だ。
「頼んだものは持ってきてくれたかしら?」
「はい。色々と揃えてまいりました」
机の上に並べられたのは、クラウディアの瞳の色の瑠璃を使ったものを中心に様々な種類が揃えられていた。
「まあ、素晴らしいわね。クラウ?どれがいいかしら?」
グレースはクラウディアが選ぶのだからと、もっと前へ出るようにと促し、その中のいくつかを手に取って目の前に差し出す。それらに目をやりながら、クラウディアもいくつか手に取りながら、その中の一つ、目に留まったそれを手に取った。
「そうですね……、これにしようかしら…」
クラウディアが手に取ったのはカイラードが勧めていたスイングバータイプで、これは金のスウィングバーに石が付いているが左右で石の大きさが異なるデザインで、そこが素敵だった。そしてそれは、ニコラスにとても似合いそうだとクラウディアは思っていた。
「では、これにしましょうか。これをいただくわ」
「では、明日には包装してお持ちします」
エヴァンは机の上に広げた多くの商品を素早く片付け、グレースが選んだ他の商品も再度確認をして、早々に屋敷を後にした。その彼の顔は屋敷を出る時には笑顔になっていた。
◇ ◇ ◇
ニコラスが『俺は、本気だ』と言ったあの日から、彼は隙を狙ってはクラウディアを掴まえる。誰にも見られないように細心の注意を払って。
「ピアス…付けていてくれて嬉しい」
毎回、そう言ってピアスの着けられた耳を触り、うっとりとした視線を投げかけてくる。
ピアスは髪に隠れて見えないのだから、着けている事を確認しているのだろうか?だが、彼の瞳には意地悪なところは一切見られず、ただ純粋に身に付けている事への喜びなのかもしれない。
「あの…ニック。これ、私から。受け取ってもらえる?」
クラウディアがおずおずと小さな箱を取り出してニコラスに差し出すと、一瞬、驚いた表情を浮かべたが、彼はすぐに満面の笑みを浮かべて受け取った。
「俺に?」
「うん。お返しよ。お母様に「ちゃんとお返ししなさい」って言われて、私が選んだの。気に入らなかったら付けなくてもいいから…」
「ディアが選んでくれたのに、付けないなんてありえないだろう?」
そう言って箱を開けて中身を取り出し、髪を耳にかけてクラウディアに耳を向けて「付けてくれるか?」と言われ、クラウディアは差し出された耳のピアスを取り外し、ニコラスの手にある新しいピアスをつけた。
―――やっぱり男の人には少しでも大きめのデザインの方が素敵ね
そんなことを思いながら、反対側も付けた。
「ありがとう。大切にする」
ニコラスからあたたかい視線を向けられどうにも落ち着かないクラウディアだが、喜んでもらえていると思うとそれはそれで嬉しかった。そしてグレースが言った言葉。
『運命はわからないものよ。でもね…人生は愛する人と手を取りあって、助け合って生きていくものだと私は思っているわ。未来は二人で切り拓いていくものじゃないかしら』
その言葉が頭の中で響く。
ニコラスの顔を見ていると、彼の想いを受け止めてもいいのではないかという気がしてしまうが、頭のどこかでそれを拒む自分もいる事に気が付く。
―――もう少し、時間が経てば向き合えるのかな…
帰る後姿を見ながら、そんなことを考えていた。
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