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第七章

60 カジノ窃盗未遂

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「アデルハート」

「キーランか。何の用だ」 


 アデルハートとキーランは学園の同級で、学生の時は色々と悪さをする仲だった。しかし、お互いに家督を継いでからは、おとなしくしていたのだが…


「アデルハート。聞いたぞ、お前、借金が大変なことになっているそうじゃないか」

「……!」


 なぜキーランが知っているんだ?俺が金を借りているのはあの場所だけだ。


「なぜ知っているか?だろ?俺も行っているんだよ、あそこに。そこで聞いたんだよお前の事をさ」


 そう言ってニヤッと笑った。


「お前このままじゃ…」

「そうだ。このままじゃ命を出せって言われるかもな…」


 暗い顔で発した言葉は、自分に未来はないのだろうと信じているような口調だった。


「そこで、だ。俺と…やらないか」

「何を?」

「あぁ、ちょっとカジノでな。少しばかりおこぼれを頂戴しようかと思って」


 キーランはいたずらをしに行くような笑いを浮かべ、肩を抱いてきた。


「なぁ、いいだろう?絶対に大丈夫だから、心配するな」 

「いいか?明日だ」


 キーランは計画を説明し始めた。


「本当にやるつもりなのか?」

「あぁ、後は、ジェレミーにジャック、アランも手伝う」


 キーランが名前を挙げたのはカジノでも顔を見ることのある奴らばっかりだったが、あいつらも俺と同じで跡がなさそうな感じだったな。 


「何をすればいい?」

「ジェレミー達が騒ぎを起こす。その間に売り上げをな」

「そんなに簡単に行くのかよ」

「大丈夫さ。今日、あそこに一番の上客が来るそうだ。その分、次の日は人入りが減るんだよ。もちろん警備もな。そこで、だ」


 もう成功した後のことを考えているような輝く瞳をさせ言葉を続ける。 


「会場で騒ぎを起こすのが一つ。これは俺とジェレミーがやる。その直後、お前とジャックが支配人の部屋へ忍び込んで売上を失敬し、その頃に外でもう一つ騒ぎを起こす。そのどさくさに紛れてトンズラさ」

「大丈夫さ。極秘なんだがな、内部に協力者がいる。これがカジノの見取り図だ」


 内部協力者がいるなら成功する可能性は高いな。いや、やるからには成功させないとな。


「その内部協力者というのは誰なんだ?」

「明日、分け前を分けるときに会うから、その時に紹介だな。正直、俺もよく知らないんだよ」


 そう言うキーランはその内部協力者を全く疑っていない様子が見て取れた。大丈夫なのかと思ったが、ここまで来た以上は引き返せない。 
 




「それで……君たちは、どこで、なにを、しようとしたのか理解できているのかな?」

 俺たちの目の前に立って見下ろしているのはアヴァリス子爵だ。どうしてこうなった?
 俺たちの計画は稚拙だったかもしれないが、うまくいっていた。

 そう、途中までは。

 ジェレミーとキーランが騒ぎを起こした。キーランの言う通り、警備がいつもよりも少なかったから、ほとんどが騒ぎの鎮静化へと回った。そして俺たちは容易に支配人の部屋へと忍び込むことができた。あっさりと進むものだと金を袋に入れ、部屋の外へ出たところで、この時間にここを通ることがわかっていたみたいに警備の騎士が立ちはだかっていた。そして今に至るのだ。

 キーラン、ジェレミー、ジャック、アランと次々に捕らえられ、アヴァリス子爵の前に騎士に押さえつけられ跪かされる。


 「もう一度聞くよ。君達は、どこで、何を、しようとしたのかな?」


 アヴァリス子爵の冷ややかな言葉と眼差しに、背筋に冷たいものが流れる感じがする。俺たちはここで終わり…なのか?


 「ふふっまぁ、いい」


 不敵な笑みを浮かべながら、俺達の周りを歩いて言った。


 「ある方から君たちのことは聞いている。今日、ここで騒ぎを起こすこともね。だから。それを利用させてもらったんだよ」


 ある方?キーランの言っていた内部協力者なのか?あいつは肝心なところが欠けている。失敗したのはキーランのせいか。キーランを睨むと、バツが悪そうに眼をそらした。


「今回のことはなかったことにしようじゃないか」


 その言葉の真意がわからず、アヴァリス子爵を見るが、騎士が押さえつける手に力を入れたために顔を向ける事すらできない。


 「その代わり、色々と手を貸してくれないかな?さすがに嫌とは言えないよね」


 選択肢はなかった。そのとき、部屋の扉が開き、誰かが入ってくる気配がした。


「終わったかな?」


 黒い霧がまとわりつくように目の前の空間を満たしていく。意識が朦朧とし、闇に捕らわれるような感覚に抗う事を諦め、床に沈み込んだ。
 


 
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