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第六章

57 サラと対面

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 クラウディアが剣を習い始め2年が過ぎ、適性があったのかメキメキとその腕前を上げ今では同年代の騎士を目指す子と同じかそれ以上の実力をつけていた。

 ジェイクから直接指導を受けたこともあり、クラウディアの実力は間違いないものだと言わざるを得ない。
 

 この日、ジークフリートはベイリーからクラウディアをウィルバートのベルヴァ騎士団での練習を打診されたが、さすがに色々な問題があるだろうと、一度クラウディアを屋敷に呼んでサラと対面させてみようと考えた。


「サラお嬢様、旦那様が執務室でお呼びです」

「お父様が?もうすぐ練習の時間なのに何かしら?」


 ウィルバート家のサラは、家門の特徴である漆黒の髪と瞳を受け継ぎ、長い睫毛の切れ長の目に、長いストレート髪を高く結いあげるその姿はまさしく美少女そのもので、騎士服でも着ようものなら中性的な美しさで女性からの黄色い声が絶えない、そんな美しさを持っている。
 もちろん、ジュネス学園でも言うまでもなく令嬢達からの人気は高い。
 今日も父親に鍛錬をしてもらう日なのだが、なぜかその前に執務室に呼ばれた。


 「お父様。サラです」


 あまり入ることのない父親の執務室の扉をノックし中へと入ると、そこには長い金の髪を持つ美少女が座っていた。サラは初めて見るその天使の様な美しい少女に目を奪われた。


 ―――可愛い。この子、なんて可愛いのかしら


 可愛いもの好きのサラはクラウディアのその容姿に目が釘付けになって思わず固まってしまった。それを横目にしながらジークフリートは話を進めた。


「紹介しよう。彼女はクロスローズ公爵令嬢のクラウディアだ。クラウディア、娘のサラだ」

「初めまして、クラウディア・リュカ・クロスローズです」

「こちらこそ、サラ・エーレ・ウィルバートです」


 お互いにお互いの容姿に見惚れているようで、言葉が止まりじっと見つめ合っている。

 しかし、クロスローズのクラウディア嬢と言えば、病弱で領地で療養中と聞いていたのだが、ここにいる少女は病気をしているような様子は全く見られない。もう元気になったという事なのだろうかとサラは首を傾げた。


「サラ、クラウディアをお前と一緒に練習をさせようかと考えているのだが、どう思う?」

「まあ、クラウディア様が剣術を?もちろん私は大歓迎です」


 心からそう思ってくれているようなサラの満面の笑みを見て、クラウディアは嬉しかった。そしてジークフリートも意外とうまくいくのではないかと考えていた。顔合わせの前に少し剣の腕を確かめてみたが、一緒に練習するレベルに達していると判断していた。残すは相性だけだったのだ。


「それでだ、サラ。お前だけに言っておくことがある。彼女は対外的には病気療養中ということになっているのでな、ここでは“ディアーナ・ティルトン”の名で私の知り合いの娘となっている。それと、魔道具を使って見た目は変わることも口外はしないように」


 見た目が変わるとはどういう事だろうと不思議に思っていると、クラウディアがペンダントを取り出し身に着けると、その姿は幼さの残る美少女から、濃茶の髪と瞳の少女へと変わったのだ。


「すごい…これ、私も付けると変わるのかしら」


 キラキラと目を輝かせてクラウディアを見ているサラは、この魔道具に興味津々の様子で、食い入るようにペンダントに見入っていた。


「これ、サラ、クラウディアが困っているだろう。やめなさい」

「あっ、ごめんなさい。よろしくね。私のことはサラでいいわ。あなたのことはディアって呼んでもいい?」

「はい、サラ様。よろしくお願いします」

「サラ、しばらくは剣舞を教えてやってくれるか?」

「剣舞ですか?」

「基本を兼ねてだ」 


 ジークフリートはクラウディアの実力は思っていたよりも上だったことで驚いたが、サラに比べるとまだ伸びしろは十分にあると思っていた。
 あのベイリーの子供なのだから剣の才能があってもおかしくはないのだが、それ以外に何かあるのだろうが、それを知るためにも手元でじっくりと見極めたいと考えていた。




 そして後日、二人での練習を開始した。
 何度かやり続けるうちに、ジークフリートにもベイリーの思惑がわかってきたので、少しペースを上げて進めてもいいかと考えた。
 剣舞を身に付けることで今以上に体幹が鍛えられる。筋力の少ない女性には体幹を鍛えることが最優先にしたいほどだ。その後の通常練習は二人だけでやらせるより複数の方がいいだろうが、その時は誰と一緒がいいかを考えた。


 ―――公爵家でまとめた方が、何かあった時に対応がしやすいだろうが……


  屋敷の方に目を向けると、窓からこの練習を見ている人影が見える。遠目で見ても、漆黒の髪と燃えるような赤い髪が目立つ二人だ。


 ―――あの二人、もう来たか…


 ジークフリートの脳裏にこの先の計画としてこの二人の名前が浮かび上がっていたが、そのまま決定とするか考えあぐねた。




 「なあ、ニック。サラと一緒にやっている子…知ってるか?」


 サラと同じ黒い長い髪を高く結い、黒い瞳を持つ青年がポツリと言った。ジュネス学園の制服に身を包んだ彼はサラの兄で、ウィルバートの継嗣でもあるテオドールだった。


「いや…見たことないな」


 そう答えたのは、赤い髪に赤い瞳を持つテオドールと同じく精悍な青年だ。彼はデフュール公爵家の継嗣であるニコラスだ。
 二人は今日の夕方にジークフリートの元で練習する予定で、早く屋敷に着いたところサラがやっている練習を見かけたのだ。サラの相手が初めて見る少女で、尚且つ、ジークフリートが直接練習を見ている事が気になっていた。


「親父殿が直接…しかもサラと二人きりでの練習をするなんて、よほどの身分だろうと思うが、濃茶の髪を持つ家門など覚えがないな……」

「そうだな…」


 ニコラスは遠くに見える少女に視線を向けた。サラと比べても体は小さいから11,12くらいの少女だろうと見て取れる。
 しかし真剣に取り組んでいるであろう雰囲気は、遠くから見ていてもわかり、その実力も年齢よりも上だろうと直感で感じていた。


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