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第五章
46 孤児院の訪問
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―――なに…この感じ……扉の向こうに誰がいるの……
扉の向こうの人の気配を感じ、なぜか心がざわめいて、早くここから立ち去った方がよいと判断して反対側の扉から礼拝堂を後にした。外から聞こえる声がどうやら神官長のようなので、クラウディアは一人で最初に通された部屋へと戻った。
騒ぎが治まったら誰か迎えに来るだろうと考えて行く先を書いた紙を残し、その部屋を後にした。まさか自分の事がその話の中心だったことなど微塵も考えず、笑顔を浮かべながら教会の廊下を目的の方向へと足早に向かう。
そこで待つ子供達の顔を思い浮べながら。
「おねえちゃん。このご本読んで~おひめさまのおはなし~」
「わかったわ。じゃぁ、みんなここに座りましょうね」
「むかしむかし、南の国に、金色の長い髪のお姫様がいました・・・」
クラウディアを囲うように小さな子供たちが輪になって座っている。ここは教会に併設されている孤児院で、赤子から18歳までの子供が、共同生活を送りながらシスターと寝食を共にしている。
教会で礼拝をするようになりここの存在を知ったのだが、クロスローズ公爵家としても支援をしていると後から聞き余計に興味を抱いた。
どの孤児院も経営は芳しくはないのだが、援助を必要としている施設が多いことを知りそんな状況を打開すべく、色々な施設へ顔を出し必要なものを援助しながら改革を進めている。しかしなかなか思うように進まず、いつもやきもきしていた。何かをしなければという思いだけが先に出てしまい、行き詰っているのだった。
「クラウディア様。今日はありがとうございます。子供達はクラウディア様がいらっしゃるのを毎回楽しみにしているのですよ」
シスターは、年齢はもう50代になろうかという穏やかな雰囲気の小柄な女性で、幼い頃に事故で家族を亡くしてこの施設に引き取られ、そのままここで働いているそうだ。
今ではシスターとしてこの孤児院の責任者を任されており、いつも優しく微笑んでいる姿が印象的な女性だ。
「いいえ。私も子供たちに会うのが楽しいのです。もちろん、シスターに会うのもですけどね」
そう言ってシスターの手を取り負けじと微笑む。シスターと話していると、日頃の悩みが全て飛んでいくような不思議な感じがして、いつも彼女の手を握ってしまう。
「あら、そう言ってもらえると私もうれしいですわ」
顔を見合わせて、二人で笑い合った。祖母と孫くらいの年齢差があると、その二人の間に流れる空気はどうしても温かく柔らかいものになる。
「クラウディア様。クロスローズ公爵様から、今回も過分な寄付をいただきました。お礼の手紙を差し上げてはいるのですが、感謝しておりますと、またお伝え願えますか」
「ええ、もちろんです。シスターより丁寧な御礼がありましたこと、必ずお父様にお伝えしますわ」
こういう施設はただ援助をすればよいわけじゃない。そもそも孤児になる子供をなくすことが大切なのだから。
そして子供たちの遊ぶ姿を見ていて、この場所に大きい子の姿が見えないことに気が付いた。ここにいない年長者の子達はどこへ行っているかを訪ねると、大きい子供たちは教会や町の商店で見習いとして働き、ここを出た時の事を考えて自分で生きていく道を手探りながら模索しているのだと教えてくれた。
確かに、ここで生活できるのは長くても18歳までなのだから、それまでに自立の道を探っていかなければならない。
クラウディアはその時に考えていたこれからの計画について、彼らに手伝ってもらうことを考えた。まだ計画段階なのだが、上手くいけばここの子供たちの将来も心配しなくてもよくなるだろう。
「シスター、相談なのですが、ここを出ていく年長者の働き先、私に一任させていただけませんか?」
「そうしていただけることは大変ありがたいのですが、そこまでご迷惑をおかけするわけには…」
申し訳ないと言った表情を浮かべるシスターを前にして、クラウディアは考えていたことを話した。
「ただ、もう少し細かく考えたいので、決まり次第シスターに書面で送りますね」
話も終わって子供たちと遊んでいると教会から迎えに来たようで、子供たちと別れ孤児院を後にした。
屋敷に戻るまでの馬車の中でどうすることが一番最適なのかを考えながら、屋敷に着いて部屋に戻り次第すぐにシスターへ送る手紙を書き始めた。
子供の希望も大切だし、見習い期間も必要、受け入れてもらえる店も探す必要がある、そう考えていると、子供達には教育の必要もあるのだから、その人員も手配しなければならないと思いつく。
今の自分の年齢では、店に話を進めるとしても信頼が足りないだろう、クロスローズの名前を出すことも避けたい。そうなると、ここは大人の力が必要になるだろう。
扉の向こうの人の気配を感じ、なぜか心がざわめいて、早くここから立ち去った方がよいと判断して反対側の扉から礼拝堂を後にした。外から聞こえる声がどうやら神官長のようなので、クラウディアは一人で最初に通された部屋へと戻った。
騒ぎが治まったら誰か迎えに来るだろうと考えて行く先を書いた紙を残し、その部屋を後にした。まさか自分の事がその話の中心だったことなど微塵も考えず、笑顔を浮かべながら教会の廊下を目的の方向へと足早に向かう。
そこで待つ子供達の顔を思い浮べながら。
「おねえちゃん。このご本読んで~おひめさまのおはなし~」
「わかったわ。じゃぁ、みんなここに座りましょうね」
「むかしむかし、南の国に、金色の長い髪のお姫様がいました・・・」
クラウディアを囲うように小さな子供たちが輪になって座っている。ここは教会に併設されている孤児院で、赤子から18歳までの子供が、共同生活を送りながらシスターと寝食を共にしている。
教会で礼拝をするようになりここの存在を知ったのだが、クロスローズ公爵家としても支援をしていると後から聞き余計に興味を抱いた。
どの孤児院も経営は芳しくはないのだが、援助を必要としている施設が多いことを知りそんな状況を打開すべく、色々な施設へ顔を出し必要なものを援助しながら改革を進めている。しかしなかなか思うように進まず、いつもやきもきしていた。何かをしなければという思いだけが先に出てしまい、行き詰っているのだった。
「クラウディア様。今日はありがとうございます。子供達はクラウディア様がいらっしゃるのを毎回楽しみにしているのですよ」
シスターは、年齢はもう50代になろうかという穏やかな雰囲気の小柄な女性で、幼い頃に事故で家族を亡くしてこの施設に引き取られ、そのままここで働いているそうだ。
今ではシスターとしてこの孤児院の責任者を任されており、いつも優しく微笑んでいる姿が印象的な女性だ。
「いいえ。私も子供たちに会うのが楽しいのです。もちろん、シスターに会うのもですけどね」
そう言ってシスターの手を取り負けじと微笑む。シスターと話していると、日頃の悩みが全て飛んでいくような不思議な感じがして、いつも彼女の手を握ってしまう。
「あら、そう言ってもらえると私もうれしいですわ」
顔を見合わせて、二人で笑い合った。祖母と孫くらいの年齢差があると、その二人の間に流れる空気はどうしても温かく柔らかいものになる。
「クラウディア様。クロスローズ公爵様から、今回も過分な寄付をいただきました。お礼の手紙を差し上げてはいるのですが、感謝しておりますと、またお伝え願えますか」
「ええ、もちろんです。シスターより丁寧な御礼がありましたこと、必ずお父様にお伝えしますわ」
こういう施設はただ援助をすればよいわけじゃない。そもそも孤児になる子供をなくすことが大切なのだから。
そして子供たちの遊ぶ姿を見ていて、この場所に大きい子の姿が見えないことに気が付いた。ここにいない年長者の子達はどこへ行っているかを訪ねると、大きい子供たちは教会や町の商店で見習いとして働き、ここを出た時の事を考えて自分で生きていく道を手探りながら模索しているのだと教えてくれた。
確かに、ここで生活できるのは長くても18歳までなのだから、それまでに自立の道を探っていかなければならない。
クラウディアはその時に考えていたこれからの計画について、彼らに手伝ってもらうことを考えた。まだ計画段階なのだが、上手くいけばここの子供たちの将来も心配しなくてもよくなるだろう。
「シスター、相談なのですが、ここを出ていく年長者の働き先、私に一任させていただけませんか?」
「そうしていただけることは大変ありがたいのですが、そこまでご迷惑をおかけするわけには…」
申し訳ないと言った表情を浮かべるシスターを前にして、クラウディアは考えていたことを話した。
「ただ、もう少し細かく考えたいので、決まり次第シスターに書面で送りますね」
話も終わって子供たちと遊んでいると教会から迎えに来たようで、子供たちと別れ孤児院を後にした。
屋敷に戻るまでの馬車の中でどうすることが一番最適なのかを考えながら、屋敷に着いて部屋に戻り次第すぐにシスターへ送る手紙を書き始めた。
子供の希望も大切だし、見習い期間も必要、受け入れてもらえる店も探す必要がある、そう考えていると、子供達には教育の必要もあるのだから、その人員も手配しなければならないと思いつく。
今の自分の年齢では、店に話を進めるとしても信頼が足りないだろう、クロスローズの名前を出すことも避けたい。そうなると、ここは大人の力が必要になるだろう。
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