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第三章

28 春の舞踏会

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 新年を祝う会でもある春の舞踏会は基本的には家門としての参加の為、未婚の者がパートナーを伴う必要性はないのが通常の舞踏会とは違う点だ。
 会場でダンスを申し込んだり込まれたりという事を通して、家門同士のつながりを求める人が多いことも特徴かもしれない。
 デビュタントも兼ねている事もあり、親からすると将来の子供の伴侶を見つける場というのには間違いのない場でもあった。


 王宮の舞踏会会場は身分の低いものから入場が始まるため、まだ日も暮れぬうちから参加者が集まりはじめていた。公爵家が入場する頃はもう日も傾き、空には星が瞬くような時間になることもあるのはよくある事だった。
 公爵家はウィルバート、ウェルダネス、ラファーガ、グレイシア、デフュール、クロスローズの順に入場が決まっており、毎回その子息に注目が集まっている。
 


「ジークフリート・エーレ・ウィルバート公爵、セラフィーナ夫人、テオドール令息、ご入場です」

「クリストフ・ガイ・ウェルダネス公爵、マリアーナ夫人、ご入場です」

「ディルク・ヴィン・ラファーガ公爵、アマーリア夫人、シモン令息、ご入場です」

「ジョルジュ・リオ・グレイシア公爵、リサ夫人、ご入場です」

「ランベール・ファロ・デフュール公爵、カミラ夫人、ニコラス令息、ご入場です」

「ベイリー・リュカ・クロスローズ公爵、グレース夫人、ご入場です」



  公爵家の面々が入場を終えた後、次は王族の入場だ。王太子はまだ参加基準の年齢になっていないため、国王夫妻と王弟の三名の参加になっている。


「アインザムカト・リリー・エストレージャ王弟殿下、ご入場です」

「エストレージャ王国、プロスペール・リリー・エストレージャ陛下、セシリア王妃、お出ましでございます」


 高い壇上に据えられた椅子に王家の面々が座り、舞踏会の始まりが宣言される。最初に国王として新年を迎えた喜びを表しグラスを掲げ、公爵家から順番に挨拶をしていき最後にはその場の全員に対しお披露目をする場として、前年の功労者や叙勲、褒章対象者を順に迎えた。 

 挨拶も終わりようやくダンスが始まる時間となり、音楽隊の生演奏が始まり耳に心地よい調べが会場に響き始めた。一番最初は王族という事もあり、国王陛下と王妃がホールへと進み、アインザムカイト王弟殿下の相手はエクレール侯爵家のジュリエットが選ばれていたので、これもまたホールへと進み出て舞踏会の開始となる。
 王族が踊り終わると、次の曲を奏で始め、次々とホールの中央に、夫婦や婚約者同士で踊りはじめる姿が見られた。


 ホールの端にはテーブルに食事も用意されており、立食形式だが色とりどりに飾られた見事な食事が並んでいる。

 赤い髪と瞳を持つデフュール公爵家のニコラスとマラカイトグリーンの髪にラベンダーの瞳を持つラファーガ公爵家のシモンは今年が4度目の参加で、共にジュネス学園の3年生だ。今年から参加した漆黒の髪と瞳を持つウィルバート公爵家のテオドールは、アルドーレ騎士学校の2年で、来年にはジュネス学園へと入学することになっている。
 ニコラスとテオドールはウィルバート公爵のジークフリートに剣を師事する仲でもあり気心が知れている友でもあった。

 この国の王族と公爵家に関しては稀にみる美貌が揃い、この三人は公爵家の血筋を色濃く継いでいる。
 その長身で引き締まった体躯に怜悧な美貌そして才能に恵まれた彼らは、男女問わず見惚れてしまうのは仕方がない事だろう。
 
 三人はグラスを手に会場の中央で踊る人の波を眺めていた。この場にいる貴族の中でも最高位の公爵家の継嗣でもある彼らは、未婚の娘を持つ貴族からすると理想の結婚相手だった。しかし、令嬢側から申し込みをすることも出来ず、なかなかその機会を手にすることも出来ないのが事実でただ視線を送る事しかできない。


「テオ、お前初めて参加したんだから、誰かと踊ってこないとダメだろう?」


 テオドールはニコラスがさも当たり前のようにそう言うので踊ることが正解なのかと考えながら、ふと会場に視線を動かすと母親のセラフィーナが自分の方へと歩いてくるのが見えた。 


「テオドール、あなた、踊らないの?」

「母上、こういう場は初めてなのですから無理は言わないでください」

「こっちにいらっしゃい。私の友達を紹介するわ」


 そう言ってセラフィーナに連れられてテオドールは会場の奥へと姿を消した。それを見ていたニコラスとシモンは、笑いをこらえながら彼の背中を視線で追った。

 初めて参加したテオドールはニコラスが初めて参加した時からダンスはしないと両親に宣言し、未だかつて誰とも踊ったことがないとは知らなかった。
 シモンはニコラスとは違い踊ってはいるが、家門に連なる家の令嬢としか踊っていない。

 二人はテオドールが後からその事を知って文句を言うだろうと思ったが、今はその姿を見ていようと母親に連れられたテオドールの姿を目で追っていた。
  

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