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第二章

25 接触感応

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 クラウディアがセグリーヴ侯爵家で過ごすことが決まり、ベイリーとジルベルトがこの先の事を色々と話し合っていた。

 事情を知らないクラウディアは「そこまで心配する必要はあるの?」と考えていたのだが、やはり娘と離れて暮らすとなると心配なのは当然だろうし、何も知らない母や兄達の事もあるのだから、仕方ないという考え至った。

 母のグレースにはロレナ夫人が「娘さんのことは私が責任をもってお預かりしますわ」と告げ、グレースはそれに頷き「家に早く帰ってきてね」と涙を流しながら転移陣をくぐりエストレージャ王国へと戻っていった。
 そんな姿を見て、頻繁に顔を出そうとクラウディアは心に決めた。

 深緒の時にできなかった親孝行というものをきちんとやりたいと心のどこかで思ったからだろう。

 みんなが帰った後ジルベルトに呼ばれて彼の執務室へと向かったクラウディアは、そこで二人で話したこととラフィニエール達と話し合ったことが伝えられた。 


「クラウディア、君に話しておかなければならないことがあるんだ」

「私に話…ですか?」

「ああ、接触感応という言葉は知っているかい?」


 接触感応とは、触れた者や人物の思念などを感じ取れる事を意味していたが、そんなことが出来るとは今まで聞いたことがないクラウディアは思わず首をひねった。その姿を見て、子供らしい表情と仕草にジルベルトは口元を緩めた。


「実はね…君が眠っていた間に君の頭を撫でたんだ。すると、おそらく見ていた夢の映像が私に流れ込んできた」

「夢…?叔父様が私に夢を見なかったかと聞いたのは、それが理由ですか?」

「ああ、そうだ」

「私はどんな夢を見ていたのですか?目覚めると、懐かしいような悲しいような、不思議な感じがしていたので、もし叔父様が知っているなら教えてください」

「いいだろう……」


 そしてジルベルトはクラウディアを抱き上げて膝に座らせ、驚かないように言葉を選びながら話して聞かせた。
 ヴェリダ神の事は伝えず、彼女が亡くなったであろうことも包み隠さずに話して聞かせたのだ。酷だと言われるかもしれないが、それが最善なのだと断言できたからこそ、彼女だからこそだ。


「全て……起こりうる未来、なのですね」

「ああ、だから、我々はその未来にあがなうために行動を起こし始めた」

「我々…?」

「そうだよ。エストレージャ王国の公爵家はまごうことなく王国創建時の神々の使途の子孫だ。その我々がただ指を加えてみているなどあってはならぬことだからな」

「そうですね……」

「そこで、だ。クラウディアにはこの先、色々と挑戦してもらわなければならなくなった」

「自分で自分を守る術をしっかりと身に付けてもらうよ」

「知識を、魔法を、魔術を、剣を……。様々な多岐にわたる分野を。魔法と魔術は私が教えよう。剣は最初にカイラードから基本を習うといい。知識は我が家の図書室で知りたいことを調べることから始めよう。勿論、貴族としての教養は必須だ。大変だろうが、無理をしないように」

「はいっ。頑張ります!」

「そうそう。クインとカイラードのことは『兄』だと思って呼んでほしい、彼らも妹が欲しかったみたいだからね」


 部屋を出る間際にそう言われたので、「お兄様呼びをすればいいのかな?」と考えながら、はいと答えて自室へ戻った。



 エアストン国はエストレージャ王国と違い、14歳で学園へ入学し、5年間をその学園で学ぶことが義務となっている。
 例外として、年に一度の飛び級試験を合格したものに限り早期卒業が認められているのだが、ここセグリーヴ侯爵家のクインとカイラードは共に飛び級で早期卒業をしていて、クインは次期侯爵家当主としてジルベルトの側で学び、カイラードは騎士団へテストを受けて入団すると決意をし、毎日厳しい訓練をしていた。
 

 そしてこの日、ロレナ夫人に連れられセグリーヴ侯爵家で過ごすにあたって追加で必要なものを買うために街へと出かけた。侯爵邸から町の中心部までは馬車で20分もあれば着くような距離で、そこまで離れてもいない気軽に行ける距離だ。

 ある程度の物はクラウディアが目覚めて早々にロレナ夫人が準備していたが、この先の長期にわたって滞在することが決まったこともあり娘が出来たとロレナ夫人の意気込みに、周囲は少しやりすぎではないかと思いながらも温かく見守ることにしていた。


 この日は剣の練習時に着用する服や、乗馬服など一揃え等を購入するために数軒回る予定だったが、クラウディアは訪れる店が楽しみで仕方なかった。

 他にも勉強時に必要になるような筆記用具や便箋などを扱う店にも顔を出し、最終的には必要品数以上を購入したような気がしていた。



 屋敷に戻るとカイラードが玄関まで出迎えてくれて、まぶしい笑顔を浮かべながらクラウディアの手を取った。


「クラウディア。剣を習いたいんだって?僕が教えるから、覚悟しておけよ」


 そう言いながら瞳をキラキラさせている。
 ロレナ夫人は持っていた扇子でカイラードの頭をポンと叩き「部屋に入って話しなさい」と呆れた顔で諫めていた。親しき中にも…ということだろう。 


「カイラードお兄様。動きやすい服も準備したので、明日からでもお願いします」


 クラウディアも負けずにキラキラとした瞳を返すと、言葉に詰まったように顔を赤くしているカイラードの姿がそこにあった。


「お兄様…って……」

「ダメですか?」

「いや……、そんなことは…」

「カイラードお兄様。私のことはクラウと呼んでください。クラウディアだと少し長いでしょう?」

「…わかった。じゃあ、クラウ。朝一での練習になるけど、いい?」

「はい。私、朝は強いのです。よろしくお願いいたします。カイラードお兄様」
 

「クラウディア」


 二人で歩いていると、今度はクインから声をかけられた。


「父上から魔法を習う時、僕も一緒に同席することになったからね」

「クインお兄様もですか?」

 ―――お兄様…。んん…いい響きだな

 クインもカイラード同様、心の中ではそう思ったのだが口には出さないようにして、平常を装い話をつづけた。


「父上が不在の時もあるだろうから、最初は一緒の方がいいだろうってことになってね」

「お兄様と一緒なのは嬉しいです」

「お昼からは母上が貴族としての一般教養を教えるそうだよ」

「叔母さまが教えてくださるのですか?」

「僕達もほとんどを母上から教えてもらったからね。間違いないよ。でも、厳しいから頑張ってね」


 それからクロスローズへ帰る日を除き、空いている時間はすべて未来へ向けての勉強へと費やすことになった。
 クラウディアからすると、自分の希望だったこともあるが新しいことを知ることに喜びを感じるタイプなのか、その時間が楽しくて楽しくて仕方なかった。


 セグリーヴ侯爵家の図書室はクロスローズの家よりも魔法に関する書籍が多く、初めて目にするものも多かった。ロレナ夫人の趣味なのか恋愛小説も一棚あり、時々は息抜きで読んでみようかとその背表紙を目で追った。
 


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