19 / 213
第一章
18 クラウディアの噂
しおりを挟む
クラウディアが倒れ、エアストン国のセグリーヴ侯爵家に行ってから半年が過ぎようとしていた。
セグリーヴ侯爵でもあるジルベルトは、今現在40歳で、その浄化の能力を買われエアストン国内の教会で上級役職をまかされていた。
とはいえ、旅行で訪れたエアストン国で偶々、王家の血族にあたる人物を浄化したことでこの国で伯爵位を賜り、今では侯爵位を陞爵しているのだ。
今回、ベイリー達は国の要職についていることもあり、カルロスからの申し出でクラウディアの浄化を請け負ったのだが、その実力は折り紙付きでベイリーも家にいるよりはと快諾したのだった。
エアストン国の首都マルティンに居を構えるセグリーヴ侯爵家の一角に、神殿を模した浄化のための小さな部屋がある。
クラウディアはその中にある浄化に特化した一室で眠り続けていた。
闇の力は浄化されているのだが、目が覚めるまでは回復しないようで、半年たった今でも彼女は深い眠りの中にいた。
ジルベルトは毎日この場所へ通い、浄化のための光の魔力をご神体ともいえる大きな鉱石に込めている。
この鉱石は色々な水晶の集まりで、通常の水晶、紫水晶、煙水晶、紅水晶、黄水晶、そして金の針入り水晶がその中心に置かれている。
「クラウディア、今日はお父さんが会いに来るよ。楽しみにいておいで」
そう言いながらクラウディアの髪をそっと撫でた。
ベイリーは日をあけず、ほんのわずかな時間でも顔を出し、その様子を確認していた。
そして何度かに一度は妻や息子を帯同することもあった。最初は暗い顔をしていたジルベルトの家族も、日を追うごとにクラウディアの顔色が良くなっていくのを見て少しずつではあるが笑顔を見せるようになった。
それを見ていたジルベルトもまた、心の中で彼らの力になっていると実感していた。
「父上。今日もクラウディアは変わらずですか?」
夕食の席で、ジルベルトに彼の息子でもあるクインとカイラードがそう問いかけた。
彼らはクラウディアが屋敷へ来た経緯やその後の様子を知っており、妹のように心配していた。
クインは現在18歳でジルベルトの跡を継ぎ次期侯爵になることが決まっている。
弟のカイラードは16歳で、学園を早期に卒業し、今は騎士団への入団を目指して特訓中だが、その実力は同年代の中でも抜きんでており、未来の騎士団長ではと期待されている実力の持ち主だ。
「ああ、まだ時間はかかるだろう。だが、顔色は良くなってきているから順調だ」
「そうですか、それは良かったです。ご家族の方も待っていますから、早く目覚めるといいですね」
クラウディアが倒れてから、王都内では様々な噂話が広まっていた。
『クロスローズの令嬢は不治の病に倒れた』とか、『クロスローズの令嬢は呪われた』だとか。それを否定も肯定もせず、流れる噂をそのまま放置していたのだが、一応は王宮内では『病気療養の為に国外に滞在している』と話している。
さすがに毎回、話を振られるのに面倒を感じてきたこともあり、嘘でもないのだからいいだろうと考えたのだ。
この日は王宮で春の祭礼と舞踏会開催についての会議が行われていて、公爵家の面々を始め、各役職付いている者たちも登城していた。詳細はもう決められているのでこの日は最終確認だけだった。
「クロスローズ公爵は春の祭礼と舞踏会は参加されるのか?」
一番最年長のジェームズ・フォン・リチャードソン侯爵がベイリーに聞いてきた。クラウディアのことを暗に言っているのだろうと想像は付く。
「祭礼は公爵家の務めだからもちろん参加するよ。舞踏会は私だけで参加する予定だが、何か問題でも?」
ベイリー独特の柔らかな物腰の奥に、隠れた刃を秘めた物言いに、部屋の空気が冷たくなるようなきがしたが、公爵家の面々は、ジェームズに対して呆れた視線を向けていた。ベイリーに対抗しようなど無謀なことだとわかっているからだ。
「いや…娘が倒れてもう半年になるのだろう?」
「娘は回復しているからね、君の心配には及ばないよ」
「そうか。回復しているのなら安心だな。余計なことを言った様ですまないな」
「いや、確かに今まで話をしていなかったから、気になるのだろう?原因はいまだにわからないが、回復しているのは事実だよ。だから心配はいらない」
優しく微笑み、その場にいる参加者に向けて圧をかける。これ以上は何も言うなと言った意味が込められているのだろう。
会議を終えて部屋を出たベイリーにマックス・フォン・アーモア侯爵が声を掛けた。
「クロスローズ公爵、オセアノでもよい薬があると聞く。必要な物があれば言ってくれ。最優先で対処しよう」
「アーモア侯爵、心遣い感謝するが薬の必要はないのだよ。だが、その言葉には感謝する」
「私にも同じ年頃の娘がいるから、他人事には思えないのだ。早く回復することを祈っている」
「ありがとう」
ベイリーはマックスに礼を述べてその場を後にする。その後ろ姿を見つめるマックスの顔は無表情で、先程までの面影は感じられなかった。
セグリーヴ侯爵でもあるジルベルトは、今現在40歳で、その浄化の能力を買われエアストン国内の教会で上級役職をまかされていた。
とはいえ、旅行で訪れたエアストン国で偶々、王家の血族にあたる人物を浄化したことでこの国で伯爵位を賜り、今では侯爵位を陞爵しているのだ。
今回、ベイリー達は国の要職についていることもあり、カルロスからの申し出でクラウディアの浄化を請け負ったのだが、その実力は折り紙付きでベイリーも家にいるよりはと快諾したのだった。
エアストン国の首都マルティンに居を構えるセグリーヴ侯爵家の一角に、神殿を模した浄化のための小さな部屋がある。
クラウディアはその中にある浄化に特化した一室で眠り続けていた。
闇の力は浄化されているのだが、目が覚めるまでは回復しないようで、半年たった今でも彼女は深い眠りの中にいた。
ジルベルトは毎日この場所へ通い、浄化のための光の魔力をご神体ともいえる大きな鉱石に込めている。
この鉱石は色々な水晶の集まりで、通常の水晶、紫水晶、煙水晶、紅水晶、黄水晶、そして金の針入り水晶がその中心に置かれている。
「クラウディア、今日はお父さんが会いに来るよ。楽しみにいておいで」
そう言いながらクラウディアの髪をそっと撫でた。
ベイリーは日をあけず、ほんのわずかな時間でも顔を出し、その様子を確認していた。
そして何度かに一度は妻や息子を帯同することもあった。最初は暗い顔をしていたジルベルトの家族も、日を追うごとにクラウディアの顔色が良くなっていくのを見て少しずつではあるが笑顔を見せるようになった。
それを見ていたジルベルトもまた、心の中で彼らの力になっていると実感していた。
「父上。今日もクラウディアは変わらずですか?」
夕食の席で、ジルベルトに彼の息子でもあるクインとカイラードがそう問いかけた。
彼らはクラウディアが屋敷へ来た経緯やその後の様子を知っており、妹のように心配していた。
クインは現在18歳でジルベルトの跡を継ぎ次期侯爵になることが決まっている。
弟のカイラードは16歳で、学園を早期に卒業し、今は騎士団への入団を目指して特訓中だが、その実力は同年代の中でも抜きんでており、未来の騎士団長ではと期待されている実力の持ち主だ。
「ああ、まだ時間はかかるだろう。だが、顔色は良くなってきているから順調だ」
「そうですか、それは良かったです。ご家族の方も待っていますから、早く目覚めるといいですね」
クラウディアが倒れてから、王都内では様々な噂話が広まっていた。
『クロスローズの令嬢は不治の病に倒れた』とか、『クロスローズの令嬢は呪われた』だとか。それを否定も肯定もせず、流れる噂をそのまま放置していたのだが、一応は王宮内では『病気療養の為に国外に滞在している』と話している。
さすがに毎回、話を振られるのに面倒を感じてきたこともあり、嘘でもないのだからいいだろうと考えたのだ。
この日は王宮で春の祭礼と舞踏会開催についての会議が行われていて、公爵家の面々を始め、各役職付いている者たちも登城していた。詳細はもう決められているのでこの日は最終確認だけだった。
「クロスローズ公爵は春の祭礼と舞踏会は参加されるのか?」
一番最年長のジェームズ・フォン・リチャードソン侯爵がベイリーに聞いてきた。クラウディアのことを暗に言っているのだろうと想像は付く。
「祭礼は公爵家の務めだからもちろん参加するよ。舞踏会は私だけで参加する予定だが、何か問題でも?」
ベイリー独特の柔らかな物腰の奥に、隠れた刃を秘めた物言いに、部屋の空気が冷たくなるようなきがしたが、公爵家の面々は、ジェームズに対して呆れた視線を向けていた。ベイリーに対抗しようなど無謀なことだとわかっているからだ。
「いや…娘が倒れてもう半年になるのだろう?」
「娘は回復しているからね、君の心配には及ばないよ」
「そうか。回復しているのなら安心だな。余計なことを言った様ですまないな」
「いや、確かに今まで話をしていなかったから、気になるのだろう?原因はいまだにわからないが、回復しているのは事実だよ。だから心配はいらない」
優しく微笑み、その場にいる参加者に向けて圧をかける。これ以上は何も言うなと言った意味が込められているのだろう。
会議を終えて部屋を出たベイリーにマックス・フォン・アーモア侯爵が声を掛けた。
「クロスローズ公爵、オセアノでもよい薬があると聞く。必要な物があれば言ってくれ。最優先で対処しよう」
「アーモア侯爵、心遣い感謝するが薬の必要はないのだよ。だが、その言葉には感謝する」
「私にも同じ年頃の娘がいるから、他人事には思えないのだ。早く回復することを祈っている」
「ありがとう」
ベイリーはマックスに礼を述べてその場を後にする。その後ろ姿を見つめるマックスの顔は無表情で、先程までの面影は感じられなかった。
53
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。
完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
カクヨム、なろうにも投稿しています。
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ご存知ないようですが、父ではなく私が当主です。
藍川みいな
恋愛
旧題:ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。
タイトル変更しました。
「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」
十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。
父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。
食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。
父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。
その時、あなた達は後悔することになる。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる