8 / 31
7 ロドニーside
しおりを挟む
ベイモント侯爵家の次男でもある俺は、幼い頃から剣術に打ち込み、今は王太子殿下の側近として仕えている。
王太子殿下と私の妹のカサンドラが婚約をし、二人の交流の場に同席することもあり、王太子殿下とも気心のしれた友人のような、そんな関係を築けていた。
そして妹の侍女をしているガーラント子爵家の長女でもあるアシュリーは、母親同士が友人という事もあり、子供の頃に何度か会った事はある。しかし、俺も学園に通うようになる頃からはそれも無く、交流という交流はなかった。それくらいの記憶しかなかった。
それだけを聞くと、コネで侍女にでもなったのかと思ってしまうが、よくよく聞くと学園での成績も優秀で、侍女としてもあっという間に将来、王宮でも筆頭の地位まで上り詰めるのでは?と言われるほどの実力があるらしい。
そんな話を聞いてしまうと、王太子殿下と妹の交流の時、つい視線が向いてしまうのは仕方ないことだろう。
だが、感情を表に出すこともなく、淡々と仕事をこなしている姿は私でも尊敬の念を抱くほどだった。さすがに鉄の女と呼ばれていることはある。
表情を顔に出さないというのは騎士も同じだ。だから、ある程度の感情の機微には敏感だと思ってはいたのだが、彼女――アシュリー――に関しては、正直お手上げだった。それほど、感情のコントロールが上手いのだろうと思ったほどだ。
そして数年が過ぎた頃、王太子殿下とカサンドラから、夜会でアシュリーのエスコートをするようにと言われたのだ。
アシュリーのエスコート?確か、彼女には婚約者がいたはずだが、その彼のエスコートは受けないのだろうか。
そう考えたら、殿下が事の経緯を説明し始めた。そして私はその話を聞いて、憤りを隠せなかった。
その瞬間には、もうエスコートの話を了承していたのだ。
当日、アシュリーをエスコートする為に彼女を迎えに行ったのだが、いつも大人しい感じのドレス姿しか見せていなかった彼女なのに、この日の着飾ったアシュリー嬢の姿は人に知られたくないと思ってしまうほど、隠しておきたいと思わせるほどの美しさがあったのだ。
だが、中身はいつもの通りの彼女で、婚約者が不貞しているのかを確認するために夜会の会場へと私と一緒に乗り込んだという訳なのだが。
そしてその会場で、彼女の婚約者のエドウィン・タウナーが、噂通り女性と親しげに寄り添い、その女性を恋人だと明言しているのだから開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
そしてあの男は彼女を目の前にして『私には婚約者がいない』と言ったのだ。
それを聞いたアシュリーは会場を出て行ってしまい、私も慌てて追いかけた。そして追い付き捕まえた彼女は鉄の女などという姿とは全く違う、か弱い女性の姿そのままに、アイスブルーの瞳は涙が浮かんでいた。
いつもの鉄の女ではなく、守ってやりたいと思わせるほどの弱々しい姿を晒し、私はそっと彼女を腕の中に閉じ込め、震える肩を安心できるようにしっかりと抱き込んだ。
そして泣いている彼女を自身の胸に押し付けるようにしてその頭を撫でた。
そして『あんな男、アシュリーには勿体無い!こっちから捨ててしまえ!アシュリーにはもっとふさわしい男がいるから』そう元気付けるつもりでそう言ったのだが…いや、少しはまあ…なぁ…
んんっ……だが、彼女は私の言葉を聞いてどう解釈をしたのか、『ロドニー様、ありがとうございますっ!私、もう決めました!アレ、私にはいらないので、もう捨てます』と、瞳をキラキラと笑顔を浮かべているではないか。
どうやら涙も止まったようだが、部屋まで送ると言ったにも関わらずアシュリーは断った。
だが、誰が見ても泣いたのがわかる顔をさせたまま、一人で帰らせるわけには行かない。途中で誰かに会ったらどうするんだ?
だから俺は『そんな顔の君を一人で帰らせるわけには行かない』と、しっかりと手を握って部屋の前まで送り届けた。
しかし、あの別れ際の彼女の顔は、ダメだろう。
仕事モードではない彼女があんなに綺麗なのは予想外だった。
あの男もこんなにも素敵な女性を手放したことを後悔してどん底にでも落ちるがいい!!
王太子殿下と私の妹のカサンドラが婚約をし、二人の交流の場に同席することもあり、王太子殿下とも気心のしれた友人のような、そんな関係を築けていた。
そして妹の侍女をしているガーラント子爵家の長女でもあるアシュリーは、母親同士が友人という事もあり、子供の頃に何度か会った事はある。しかし、俺も学園に通うようになる頃からはそれも無く、交流という交流はなかった。それくらいの記憶しかなかった。
それだけを聞くと、コネで侍女にでもなったのかと思ってしまうが、よくよく聞くと学園での成績も優秀で、侍女としてもあっという間に将来、王宮でも筆頭の地位まで上り詰めるのでは?と言われるほどの実力があるらしい。
そんな話を聞いてしまうと、王太子殿下と妹の交流の時、つい視線が向いてしまうのは仕方ないことだろう。
だが、感情を表に出すこともなく、淡々と仕事をこなしている姿は私でも尊敬の念を抱くほどだった。さすがに鉄の女と呼ばれていることはある。
表情を顔に出さないというのは騎士も同じだ。だから、ある程度の感情の機微には敏感だと思ってはいたのだが、彼女――アシュリー――に関しては、正直お手上げだった。それほど、感情のコントロールが上手いのだろうと思ったほどだ。
そして数年が過ぎた頃、王太子殿下とカサンドラから、夜会でアシュリーのエスコートをするようにと言われたのだ。
アシュリーのエスコート?確か、彼女には婚約者がいたはずだが、その彼のエスコートは受けないのだろうか。
そう考えたら、殿下が事の経緯を説明し始めた。そして私はその話を聞いて、憤りを隠せなかった。
その瞬間には、もうエスコートの話を了承していたのだ。
当日、アシュリーをエスコートする為に彼女を迎えに行ったのだが、いつも大人しい感じのドレス姿しか見せていなかった彼女なのに、この日の着飾ったアシュリー嬢の姿は人に知られたくないと思ってしまうほど、隠しておきたいと思わせるほどの美しさがあったのだ。
だが、中身はいつもの通りの彼女で、婚約者が不貞しているのかを確認するために夜会の会場へと私と一緒に乗り込んだという訳なのだが。
そしてその会場で、彼女の婚約者のエドウィン・タウナーが、噂通り女性と親しげに寄り添い、その女性を恋人だと明言しているのだから開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
そしてあの男は彼女を目の前にして『私には婚約者がいない』と言ったのだ。
それを聞いたアシュリーは会場を出て行ってしまい、私も慌てて追いかけた。そして追い付き捕まえた彼女は鉄の女などという姿とは全く違う、か弱い女性の姿そのままに、アイスブルーの瞳は涙が浮かんでいた。
いつもの鉄の女ではなく、守ってやりたいと思わせるほどの弱々しい姿を晒し、私はそっと彼女を腕の中に閉じ込め、震える肩を安心できるようにしっかりと抱き込んだ。
そして泣いている彼女を自身の胸に押し付けるようにしてその頭を撫でた。
そして『あんな男、アシュリーには勿体無い!こっちから捨ててしまえ!アシュリーにはもっとふさわしい男がいるから』そう元気付けるつもりでそう言ったのだが…いや、少しはまあ…なぁ…
んんっ……だが、彼女は私の言葉を聞いてどう解釈をしたのか、『ロドニー様、ありがとうございますっ!私、もう決めました!アレ、私にはいらないので、もう捨てます』と、瞳をキラキラと笑顔を浮かべているではないか。
どうやら涙も止まったようだが、部屋まで送ると言ったにも関わらずアシュリーは断った。
だが、誰が見ても泣いたのがわかる顔をさせたまま、一人で帰らせるわけには行かない。途中で誰かに会ったらどうするんだ?
だから俺は『そんな顔の君を一人で帰らせるわけには行かない』と、しっかりと手を握って部屋の前まで送り届けた。
しかし、あの別れ際の彼女の顔は、ダメだろう。
仕事モードではない彼女があんなに綺麗なのは予想外だった。
あの男もこんなにも素敵な女性を手放したことを後悔してどん底にでも落ちるがいい!!
960
お気に入りに追加
1,958
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
ヒロイン様、こちらをお読みいただけますか?
miyumeri
恋愛
ゲームの世界に転生したヒロイン。逆ハー狙いで頑張ってるけど、悪役令嬢に呼び出され なんだか怪しい雲行きに。
初めての投稿です。
本当に初めて小説(のようなもの)を書きました。
優しい心持でお読みいただければ幸いです。
テンプレ通りに悪役令嬢ものを書いてみた
希臘楽園
ファンタジー
義妹に婚約者の王太子を横取りされ、獄死した悪役令嬢ヒロインが、10歳の自分に巻戻って目覚める。
前世の過ちは犯さない! ヒロインの反撃が始まる。
タイトル通りにテンプレ要素を盛込んでみました。
処女作です。10章ちょっとで終わる予定です。良ければ読んでみてください。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。
白雪なこ
恋愛
「婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。」に出てきた、王女殿下視点の話です。親友を害そうとしたアレンが許せないそうで、ものすごーーーく怒ってます。怖いです。可愛いアリアンは出て来ません。アレンのやらかしが凶悪です。前作でのざまあが足りないようなので、家族にも責任をとってもらいました。最後の〆はコメディです。(作品に含まれる要素の異世界転生は前話のヒロイン=ボスのことです)
*外部サイトにも掲載しています。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる