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第二章「灰の竜と黒の竜騎士」
第25話「焼け落ちる景色」
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火の手が上がる。赤々と燃える炎はすべてを飲み焼いていく。家を焼き、田畑を焼く。
竜騎学舎の林間学習用の宿舎から少し離れた場所にある村は、赤い炎に包まれていた。
赤く燃える村の上空には数体の飛竜が、赤い炎に照らされながら飛んでいた。
大きな音を立てながら、村の一角に設けられた見張り台が崩れていく。空を飛ぶ飛竜の一体が、体当たりをして崩したのだ。
他の飛竜が、民家の上に着地し、自重で民家を踏みつぶす。燃える村の中を飛び回り、逃げ遅れた村人を見つけ、食い殺す。
飛竜達が村を蹂躙していく。止める者は誰もいない。飛竜の直ぐ傍で暮らし、飛竜の事を良く知っているからこそ、村人たちはその力を十分に理解していた。
人ではどうあがいても飛竜には敵わないのだ。
武器が無いわけでは無い。狩りの為の弓矢、田畑を耕すための農具、木を切り倒し、薪を作るための斧、それらは有事の際には武器として使われる。けれど、それらは飛竜に対しては何の意味をなさない。弓も鍬も斧も飛竜の固い鱗を打ち破る事は出来ないのだ。
それでも数人の若者たちが、村を襲う飛竜に立ち向かった。けれど、結果は何もできないまま飛竜に食い殺され。人は飛竜には敵わないと言う現実を、改めて教えられただけだった。
逃げて、隠れて、やり過ごす。それが、村人達に残された選択だった。
けれど、竜族達はそれさえも許さなかった。
焼ける民家の間を、幾つもの小さな影が駆け抜けていく。身長3ftほどの小さな影。二足歩行の蜥蜴の様な姿をした亜人種、コボルド達が作りの荒い武器と鎧を装備して、民家の間を走る。彼らは、どうにか逃げ延び、辛うじて隠れる場所を見つけた村人たちを見つけだし、手にした武器で、容赦なく村人を殺していた。
この焼ける村には死が広がっていた。
「クッソ!」
一人の若い男が苛立ちの声と共に壁を殴りつける。
焼ける村から少し離れた、赤く燃える村全体を丁度見下ろす事ができる丘の上に建てられた、小さな教会。そこに、どうにか逃げ延びてきた村人達が集まり、避難していた。
小さな教会では集まった全員が中に入りきらず、避難した村人の半数が教会の外に居るしかなかった。
村の習慣で、有事の際はこの教会に避難することに成っている。避難しても意味は無い。そう思える状況であったが、教会が竜の神を祀る場所であるためか、どう言う訳か、飛竜達はこの教会を標的とする事は無く、教会に集まった人々は無事だった。
丘の上から焼ける村が見える。その様子を眺める村人たちは、皆呆然としていた。
「なんで! なんでだ! 俺達が何をしたってんだ!」
村人の一人、先ほど教会の壁を殴りつけた男が叫ぶ。みっともない姿であったが、それを止める者はいなかった。みな、同じ気持ちで居るのだろう。そう嘆かずにはいられなかった。
「何もしなかったから……じゃろうな」
怒りと嘆きをまき散らす男の言葉に、一人の老人が答えを返した。
「じゃあどうすればよかったんだ!」
返事を返された男は、老人の方へと振り向きながら怒りの声を投げる。
「それが分かるぬから……それを考えなかったからの結果であろうな……」
老人は燃える村に目を向け、悲しそうな表情で答えを返した。
「ファザー……。俺達がいけないって言うんですか?
飛竜達がこんなことをするのは、全部王国のせいじゃないですか?
灰の竜を殺したのはあいつ等だ! 盟約だか何だか知らないが、飛竜達を収める力があるなら、こんなことにはならなかったはずだ!」
男は叫ぶ。老人はそれを静かに聞き、そして見返してくる。
「そうかもしれんな。じゃが、わし等はそれに対して何をした? 何もしておらぬじゃろ?」
老人の問いかけに、男は口を閉ざす。
「確かに、王国の者達によって灰の竜は殺され、この地の竜族を守護する者はいなくなった……。
じゃが、灰の竜は、別に人のために居る存在ではない。灰の竜が居たからと言って、飛竜達が何もしない訳では無い。先導していた可能性だってある。すべてが、王国の責任という事は無かろう。何もしなかった我らにも責任がある」
老人の言葉を聞き、男は「クッソ」と悪態を付く。
老人は再び燃える村へと目を向ける。
飛竜達が舞い、次々と民家や田畑は破壊してく。
「ファザー……」
怯えた様な声が老人の足元から響き、誰かが老人の服の裾を掴む。老人が目を向けると、不安な表情を浮かべた少年が、老人にしがみ付き震えていた。
「ファザー……。僕達……死んじゃうの? もう……助からないの?」
少年は震えた声で尋ねてきた。
老人はその少年の頭に手を乗せ、少しでも安心させようと笑顔を向ける。
「大丈夫じゃ。ここに居れば安全じゃよ」
「でも……」
少年はそれでも不安の表情を浮かべたままだった。
先ほどの話を聞いて、不安になったのだろう。そして、子供ながらに、何もせずにいては助からない状況だという事を、理解してしまったのだろう。老人の言葉だけで、不安が拭われる事は無かった。
老人はゆっくりと腰を降ろし、少年と目線の高さを合わせる。
「確かに、わし等は何もしなかった。それがこんな結果を引き起こしてしまったかもしれぬ。じゃがな、だからと言って、すべてがダメと言うわけでは無い。まだ、わし等には出来る事がある」
老人は少年の頭を撫で、ほほ笑む。老人の言葉に、少年は少しだけ希望を取り戻したのか表情が明るくなる。
「どうすれば……どうすれば助かるの?」
少年は必死に問いかけてくる。
「そうじゃな。まずは、祈る事じゃ。祈り、許しを請う事じゃ。神様はいつも私達を見てくださる。自らの過ちを悔い改める事で、きっと救いの手を差し伸べてくださるはずじゃ」
そう言って老人は手を合わせ祈り始める。それは、子供だましのような言葉。祈ったところで、縋る神はいない。老人が立つ教会も、老人が仕える神のどちらも、竜の守護神で、人を助ける神ではない。それでも、もしかしたら思い、祈りをささげる。そして、自ら飛竜に対する行いを悔い、懺悔する。
(これがわし等が招いた結果なのなら、わし等はそれを受け入れよう。じゃが、もし、願いが届くのなら……どうか罪なき子供達だけは、御救いください)
少年も老人に倣い、祈りを捧げる。それが他の子供にも伝わり、そして次第に避難してきた大人たちに伝播していく。
大きな飛竜の咆哮が直ぐ近くから響く。
死を告げる咆哮だろうか? 飛竜達がこの場所を見つけ、襲いに来たのだろう。
ゆっくりと顔を上げ、空を見上げる。
赤い鱗に覆われた飛竜が、教会の真上を掠め飛ぶ。その姿は、村を襲いに来た飛竜達とは大きく違っていた。戦闘用の鎧に身を包んだ飛竜――王国の竜騎士とその騎竜の姿だった。
* * *
赤い飛竜――ガリアが咆哮を上げ、燃え盛る村の上空を駆け抜ける。ヴェルノとガリアに続き他の竜騎士も燃え盛る村の上空を飛びぬけていく。
「どうだ!?」
ヴェルノが眼下に広がる燃える村を見渡しながら、襟に付けた通信用の魔導具を通して、状況確認の声を飛ばす。
『これは……かなりひどいですね。生存者がいるかどうか……』
想像していた状況以上に酷い惨状を目にしてか、驚きと諦めにも近い声音が、耳に付けられた魔導具を通して帰ってくる。
(火が放たれているうえに……これか)
燃える村。それだけならまだ想像できた。けれど、村の路上に転がる村人の屍、それには明らかな武器による殺傷の跡が見て取れた。
(人間が手を貸しているのか? ……いや)
視界の端に、燃える村の間を駆け抜けていくコボルド達の姿が掠める。
(あいつ等か……厄介だな)
コボルド達の姿を見て、ヴェルノは表情を歪める。
ただコボルド達に襲われただけならまだいい。コボルド達にはそれほど高い戦闘能力があるわけではない。村人たちが武装して立ち向かえば追い返す事はそれほど難しくはない。
けれど、コボルド達と飛竜達が連携して襲ってきたとなると、状況が大きく異なってくる。制空権を取り、防護柵などの防壁に、密集陣形などを飛竜が破壊し、散り散りに逃げ惑う者達をコボルド達の集団が刈り取る。
いくら強力な力を持っていようとも、身体が大きく、狭い場所を襲えない飛竜達の穴を、コボルドと言う歩兵が塞ぐ。その戦い方は、マイクリクス王国の戦術思想の基盤とも言えるものだった。
(徹底的に潰す気か……)
戦い方を良く知るが故に、それがどれ程脅威なのか理解してしまう。
(小竜族。その別名が指す意味を、こういう形で見せつけられるとはな……)
地上を走るコボルド達を睨みつけながら、ヴェルノは心の中で毒づく。
『ヴェルノさん!』
唐突に声がかかる。
「おう、どうした?」
『生存者。見つけました。彼らは、村はずれの教会に避難しているみたいです。けれど……逃げ遅れた人たちが、コボルドどもに……』
「おう、でかした」
飛んできた報告を聞き、ヴェルノはそれに答えを返しながら、自分でも目を向けそれを確かめる。
村はずれの教会に多くの村人が集まっているのが目に入る。飛竜達はまだそこを標的としていない様で、教会に居る村人は無事な様だった。
村から教会へと至る道の辺り、逃げ遅れた村人たちの姿が見える。それを追うように、小さな影――コボルと達も姿も目に入る。このままで追いつかれそうだった。
「バッド。お前は生徒達を連れ、逃げ遅れた村人と、まだ村に残ってる村人たちを助け出せ。残りは、空を飛びまわってる飛竜を追い払え! いいな!」
鼓舞するように大きな声で指示を飛ばし、ヴェルノは視線を夜空を舞う飛竜へと向ける。
「いいか! 間違っても殺すんじゃねえぞ! 分かったな!」
「「はい!」」
ヴェルノ声と共に、他の竜騎士達の声が響き、それと同時に各々編隊から外れ、散り散りになって飛んでいく。
「行くぞ、ガリア」
ヴェルノもまた、騎竜であるガリアに一声かけ、鐙を踏む。それに呼応して、ガリアが大きな咆哮と共に、前方を飛ぶ飛竜へ向けた大きく羽ばたき加速した。
竜騎学舎の林間学習用の宿舎から少し離れた場所にある村は、赤い炎に包まれていた。
赤く燃える村の上空には数体の飛竜が、赤い炎に照らされながら飛んでいた。
大きな音を立てながら、村の一角に設けられた見張り台が崩れていく。空を飛ぶ飛竜の一体が、体当たりをして崩したのだ。
他の飛竜が、民家の上に着地し、自重で民家を踏みつぶす。燃える村の中を飛び回り、逃げ遅れた村人を見つけ、食い殺す。
飛竜達が村を蹂躙していく。止める者は誰もいない。飛竜の直ぐ傍で暮らし、飛竜の事を良く知っているからこそ、村人たちはその力を十分に理解していた。
人ではどうあがいても飛竜には敵わないのだ。
武器が無いわけでは無い。狩りの為の弓矢、田畑を耕すための農具、木を切り倒し、薪を作るための斧、それらは有事の際には武器として使われる。けれど、それらは飛竜に対しては何の意味をなさない。弓も鍬も斧も飛竜の固い鱗を打ち破る事は出来ないのだ。
それでも数人の若者たちが、村を襲う飛竜に立ち向かった。けれど、結果は何もできないまま飛竜に食い殺され。人は飛竜には敵わないと言う現実を、改めて教えられただけだった。
逃げて、隠れて、やり過ごす。それが、村人達に残された選択だった。
けれど、竜族達はそれさえも許さなかった。
焼ける民家の間を、幾つもの小さな影が駆け抜けていく。身長3ftほどの小さな影。二足歩行の蜥蜴の様な姿をした亜人種、コボルド達が作りの荒い武器と鎧を装備して、民家の間を走る。彼らは、どうにか逃げ延び、辛うじて隠れる場所を見つけた村人たちを見つけだし、手にした武器で、容赦なく村人を殺していた。
この焼ける村には死が広がっていた。
「クッソ!」
一人の若い男が苛立ちの声と共に壁を殴りつける。
焼ける村から少し離れた、赤く燃える村全体を丁度見下ろす事ができる丘の上に建てられた、小さな教会。そこに、どうにか逃げ延びてきた村人達が集まり、避難していた。
小さな教会では集まった全員が中に入りきらず、避難した村人の半数が教会の外に居るしかなかった。
村の習慣で、有事の際はこの教会に避難することに成っている。避難しても意味は無い。そう思える状況であったが、教会が竜の神を祀る場所であるためか、どう言う訳か、飛竜達はこの教会を標的とする事は無く、教会に集まった人々は無事だった。
丘の上から焼ける村が見える。その様子を眺める村人たちは、皆呆然としていた。
「なんで! なんでだ! 俺達が何をしたってんだ!」
村人の一人、先ほど教会の壁を殴りつけた男が叫ぶ。みっともない姿であったが、それを止める者はいなかった。みな、同じ気持ちで居るのだろう。そう嘆かずにはいられなかった。
「何もしなかったから……じゃろうな」
怒りと嘆きをまき散らす男の言葉に、一人の老人が答えを返した。
「じゃあどうすればよかったんだ!」
返事を返された男は、老人の方へと振り向きながら怒りの声を投げる。
「それが分かるぬから……それを考えなかったからの結果であろうな……」
老人は燃える村に目を向け、悲しそうな表情で答えを返した。
「ファザー……。俺達がいけないって言うんですか?
飛竜達がこんなことをするのは、全部王国のせいじゃないですか?
灰の竜を殺したのはあいつ等だ! 盟約だか何だか知らないが、飛竜達を収める力があるなら、こんなことにはならなかったはずだ!」
男は叫ぶ。老人はそれを静かに聞き、そして見返してくる。
「そうかもしれんな。じゃが、わし等はそれに対して何をした? 何もしておらぬじゃろ?」
老人の問いかけに、男は口を閉ざす。
「確かに、王国の者達によって灰の竜は殺され、この地の竜族を守護する者はいなくなった……。
じゃが、灰の竜は、別に人のために居る存在ではない。灰の竜が居たからと言って、飛竜達が何もしない訳では無い。先導していた可能性だってある。すべてが、王国の責任という事は無かろう。何もしなかった我らにも責任がある」
老人の言葉を聞き、男は「クッソ」と悪態を付く。
老人は再び燃える村へと目を向ける。
飛竜達が舞い、次々と民家や田畑は破壊してく。
「ファザー……」
怯えた様な声が老人の足元から響き、誰かが老人の服の裾を掴む。老人が目を向けると、不安な表情を浮かべた少年が、老人にしがみ付き震えていた。
「ファザー……。僕達……死んじゃうの? もう……助からないの?」
少年は震えた声で尋ねてきた。
老人はその少年の頭に手を乗せ、少しでも安心させようと笑顔を向ける。
「大丈夫じゃ。ここに居れば安全じゃよ」
「でも……」
少年はそれでも不安の表情を浮かべたままだった。
先ほどの話を聞いて、不安になったのだろう。そして、子供ながらに、何もせずにいては助からない状況だという事を、理解してしまったのだろう。老人の言葉だけで、不安が拭われる事は無かった。
老人はゆっくりと腰を降ろし、少年と目線の高さを合わせる。
「確かに、わし等は何もしなかった。それがこんな結果を引き起こしてしまったかもしれぬ。じゃがな、だからと言って、すべてがダメと言うわけでは無い。まだ、わし等には出来る事がある」
老人は少年の頭を撫で、ほほ笑む。老人の言葉に、少年は少しだけ希望を取り戻したのか表情が明るくなる。
「どうすれば……どうすれば助かるの?」
少年は必死に問いかけてくる。
「そうじゃな。まずは、祈る事じゃ。祈り、許しを請う事じゃ。神様はいつも私達を見てくださる。自らの過ちを悔い改める事で、きっと救いの手を差し伸べてくださるはずじゃ」
そう言って老人は手を合わせ祈り始める。それは、子供だましのような言葉。祈ったところで、縋る神はいない。老人が立つ教会も、老人が仕える神のどちらも、竜の守護神で、人を助ける神ではない。それでも、もしかしたら思い、祈りをささげる。そして、自ら飛竜に対する行いを悔い、懺悔する。
(これがわし等が招いた結果なのなら、わし等はそれを受け入れよう。じゃが、もし、願いが届くのなら……どうか罪なき子供達だけは、御救いください)
少年も老人に倣い、祈りを捧げる。それが他の子供にも伝わり、そして次第に避難してきた大人たちに伝播していく。
大きな飛竜の咆哮が直ぐ近くから響く。
死を告げる咆哮だろうか? 飛竜達がこの場所を見つけ、襲いに来たのだろう。
ゆっくりと顔を上げ、空を見上げる。
赤い鱗に覆われた飛竜が、教会の真上を掠め飛ぶ。その姿は、村を襲いに来た飛竜達とは大きく違っていた。戦闘用の鎧に身を包んだ飛竜――王国の竜騎士とその騎竜の姿だった。
* * *
赤い飛竜――ガリアが咆哮を上げ、燃え盛る村の上空を駆け抜ける。ヴェルノとガリアに続き他の竜騎士も燃え盛る村の上空を飛びぬけていく。
「どうだ!?」
ヴェルノが眼下に広がる燃える村を見渡しながら、襟に付けた通信用の魔導具を通して、状況確認の声を飛ばす。
『これは……かなりひどいですね。生存者がいるかどうか……』
想像していた状況以上に酷い惨状を目にしてか、驚きと諦めにも近い声音が、耳に付けられた魔導具を通して帰ってくる。
(火が放たれているうえに……これか)
燃える村。それだけならまだ想像できた。けれど、村の路上に転がる村人の屍、それには明らかな武器による殺傷の跡が見て取れた。
(人間が手を貸しているのか? ……いや)
視界の端に、燃える村の間を駆け抜けていくコボルド達の姿が掠める。
(あいつ等か……厄介だな)
コボルド達の姿を見て、ヴェルノは表情を歪める。
ただコボルド達に襲われただけならまだいい。コボルド達にはそれほど高い戦闘能力があるわけではない。村人たちが武装して立ち向かえば追い返す事はそれほど難しくはない。
けれど、コボルド達と飛竜達が連携して襲ってきたとなると、状況が大きく異なってくる。制空権を取り、防護柵などの防壁に、密集陣形などを飛竜が破壊し、散り散りに逃げ惑う者達をコボルド達の集団が刈り取る。
いくら強力な力を持っていようとも、身体が大きく、狭い場所を襲えない飛竜達の穴を、コボルドと言う歩兵が塞ぐ。その戦い方は、マイクリクス王国の戦術思想の基盤とも言えるものだった。
(徹底的に潰す気か……)
戦い方を良く知るが故に、それがどれ程脅威なのか理解してしまう。
(小竜族。その別名が指す意味を、こういう形で見せつけられるとはな……)
地上を走るコボルド達を睨みつけながら、ヴェルノは心の中で毒づく。
『ヴェルノさん!』
唐突に声がかかる。
「おう、どうした?」
『生存者。見つけました。彼らは、村はずれの教会に避難しているみたいです。けれど……逃げ遅れた人たちが、コボルドどもに……』
「おう、でかした」
飛んできた報告を聞き、ヴェルノはそれに答えを返しながら、自分でも目を向けそれを確かめる。
村はずれの教会に多くの村人が集まっているのが目に入る。飛竜達はまだそこを標的としていない様で、教会に居る村人は無事な様だった。
村から教会へと至る道の辺り、逃げ遅れた村人たちの姿が見える。それを追うように、小さな影――コボルと達も姿も目に入る。このままで追いつかれそうだった。
「バッド。お前は生徒達を連れ、逃げ遅れた村人と、まだ村に残ってる村人たちを助け出せ。残りは、空を飛びまわってる飛竜を追い払え! いいな!」
鼓舞するように大きな声で指示を飛ばし、ヴェルノは視線を夜空を舞う飛竜へと向ける。
「いいか! 間違っても殺すんじゃねえぞ! 分かったな!」
「「はい!」」
ヴェルノ声と共に、他の竜騎士達の声が響き、それと同時に各々編隊から外れ、散り散りになって飛んでいく。
「行くぞ、ガリア」
ヴェルノもまた、騎竜であるガリアに一声かけ、鐙を踏む。それに呼応して、ガリアが大きな咆哮と共に、前方を飛ぶ飛竜へ向けた大きく羽ばたき加速した。
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