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第八話 お願いと約束

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 ゴールデンウィークも残すところあと一日。
 結局、小百合達とプールに行っただけで、それ以外は何処にも出掛ける事が無かった。
 変わった事と言えば、小百合達とプールに行ってから、花蓮の様子が少し変だ……。

 俺とミーニャは、リビングのソファーの上でボーっとしてる花蓮を見ていた。

『ご主人、花蓮どうしちゃったの? 毎日ボーっとしてるし、ほっぺも赤いよ』

『俺も気になってたんだけど、もしかして熱でもあるのか』

 花蓮の額に手を当てると少し熱いように感じた。
 だけど、俺に触れられてるのにボーっとして……まったく気が付いてないな。

『おい花蓮! 大丈夫か?』

 両肩を掴み呼びかけると、

『……ふぁ!? な、何すんのよ! この変態ーー!』

 と驚いた花蓮は、バリッバリッ!とひっかいてきた。

『ぐわっ……イテテッ……いきなり何すんだよ』

『それは、こっちのセリフ! い、いきなり私の肩に触れるなんて……変態! エッチ!』

『落ち着けって! 最近様子がおかしいから、俺もミーニャも心配してたんだぞ! まぁ、その元気なら心配いらなそうだな』

『ふんっ!』

『明日でゴールデンウィークも終わりなんだから、夜更かししないで早く寝ろよ』

 部屋に戻った俺は、こっそり買った本を読んでいると、ノックも無しに部屋のドアが開いた。

『……お願い決まったんだけど』

 慌てて読んでいた本を布団の下に隠した。

『い、いきなりなんだよ!』

『あんた、何でもお願い聞くって約束した』

 そう言えば……前にそんな約束した気がする。
 ※『第三話 生徒会長と副会長』参照

『そ、それでお願いって何だ?』

 花蓮は手をもじもじさせ、

『明日……デート……してあげてもいいけど』

 と言った。

『なんか日本語おかしくないか……?』

『う、うっさい! それでどうなの!? 行くの行かないのどっち!』

『いいよ。 約束したんだし明日二人で何処か遊びに行くか!』

 眉をひそめながらも嬉しかったのか尻尾をフリフリと振っていた。

『それじゃあ……また明日』

 部屋を出て行くのと思いきや、俺に向かって手を伸ばす。

『握手……か? 明日は宜し……』

 花蓮の手を握ろうとすると、

『違う! さっき布団の下に隠したエッチな本、没収するから出して』

『な、なんの事だ?』

『あんたが大事にしてるメアリーちゃんのフィギュア、捨てちゃっていいの?』

『それだけは勘弁してください!』

 花蓮に本を渡すとそのまま部屋を出て行った。

 翌朝、ドタバタと騒がしい音に目を覚ますと、コンコンと部屋をノックする音が聞こえ、ミーニャが枕を持ったまま眠たそうに部屋に入ってきた。

『ミーニャどうしたんだ?』

『花蓮が……うるさくて眠れないの』

 時計を見ると朝の五時だった。

『こんな朝早くから花蓮のやつ……。 俺はもう起きるから、布団で寝てていいぞ』

『えへへっ~♪ ご主人のお布団あったかいし、ご主人の匂いがする♪』

『こら! 布団をクンクン嗅ぐな!』

 それにしても、早起きしてまで一体何してるんだ?
 俺はそーっと二階に上がり花蓮の部屋を覗くと、全身が映る鏡の前で服を選んでいた。

『こっちかな? それともこっちの方がいいかな』

 一人ファッションショーかよ……。
 これじゃあ、同じ部屋のミーニャも寝れないよな。

 一階に戻ろうとすると、ギシッと床が鳴った。

『ミーニャ? ちょっと悪いんだけど後ろのファスナー上げてくれない?』

 覗き見なんかしてたのバレたら……ただじゃ済まないぞ。

『はぁ……あんたそこで何してるのよ』

『ま、待ってくれ! 覗き見なんかするつもりじゃなかったんだ!』

『そんなに怯えなくてもいいじゃない……別に怒ってないから。 それより後ろのファスナー上げてくれる? 手が届かないのよ』

 俺に背を向け、髪の毛を束ねるとファスナーが下がったままで背中が丸見えだった。

『ファスナーを上げればいいんだな』

 ジィッとファスナーを上げていくと、

『んっ……んんっ……』

 と艶かしい声を出す花蓮。

『へ、変な声出すなよ……なんか恥ずかしいだろ』

『あ、あんた手付きがやらしいのよ!』

 ファスナーを上げ終わる頃には、俺も花蓮も顔が真っ赤だった。

『あ、ありがとう……まだ用意終わってないから出て行って』

『あぁ、ミーニャは俺の部屋で寝てるから、あまり騒がないようにな』

 花蓮の部屋を後にした俺は、今日の天気予報を見ようとリビングに行きテレビのリモコンでテレビの電源を入れた。

『昼間は大丈夫そうだけど夕方から雨か……』

 しばらくテレビを見ていると、花蓮が二階から降りてきた。

『ねぇ、どうかな……変じゃない?』

 いつもの服装とは違い、上品な雰囲気のワンピースを着た花蓮は見違えるほど大人っぽく、天使のようにキラキラと輝いていた。

『……あぁ、似合ってると思う』

『もう! ちゃんと私の目を見て言って!』

 俺の目の前に顔を近づける花蓮。
 澄み渡った瞳に透明感のあるプルプルとした唇……心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしてる。

『あ、あの……』

『何よ……早く言ってよ』

 あーーーー!! と叫ぶ声に我に返ると、寝起きのミーニャがムスッとした顔で俺達を睨んでいた。

『ご主人、今チューしようとしてたでしょ!』

『そ、そんな訳ないじゃないか!』

 危なかった……あの流れだったらキスしてたかもしれない……。

『そ、そうよ! どうして私がこいつなんかとチューしなきゃいけないのよ』

『ご主人も花蓮もなんか怪しいなぁ……チューはダメだからね! 絶対だよ!』

 そう言い残すとリビングを後にしたミーニャはトイレに入っていった。

『ビックリした~トイレに起きただけか……』

『ミーニャが二度寝したら出掛けるわよ!』

『お、おう! 朝ごはんにサンドイッチでも作って置いておくか』

 物音を立てないよう静かにサンドイッチを作り、俺の部屋に居るミーニャの様子を見に行くと布団に包まって二度寝していた。
 寝ているのを確認した俺と花蓮は音を立てないよう静かに家を出た。

『それで、まず何処に行くんだ?』

『う~ん。 この時間だったら、まだお店も空いてないし……そうだ! 近くの公園に朝の散歩行こ』

 朝の公園は、昼間と違って静かで空気も澄んでいて、とても気持ちが良い。

『これからの予定とか、もう決めてるのか?』

『もちろん! 私が徹夜で考えたんだから楽しみにしてなさい』

 ニッと笑う花蓮の目の下にはクマが出来ていた。
  
 しばらく公園内を散歩し、自動販売機で飲み物を買い公園のベンチで休んでいると、徹夜の疲れからか花蓮は俺の肩に寄りかかりウトウトしていた。

『大丈夫か? 徹夜なんかするからだぞ』

『うっさい……私は大丈夫よ』

 俺は膝をポンポンと叩いた。

『何よ……?』

『膝貸してやるから無理しないで少し休め』

『……あ、あんたがそこまで言うなら……少しだけ』

 俺の膝に頭を乗せるとすぅすぅと寝息を立て眠ってしまった。
 上着を脱ぎ冷えないよう花蓮に上着を掛け、目を覚ますのを待った。

『んっ……』

『少しは眠れたか?』

『ゴツゴツしててイマイチ……ところで今何時なの?』

 腕時計で時間を確認すると、

『十時ちょっと前だな』

 と花蓮に時間を伝える。

『もうそんな時間なの!? ほらっ行くわよ』

 花蓮は俺の手を引っ張るとそのまま街に向かった。
 途中、花蓮のスピードについていけなかった俺は花蓮に引きずられていた……。

 はぁはぁ…花蓮のやつ無茶しやがって……死ぬかと思った……。

『あれ? あんたダメージジーンズなんか穿いてたっけ?』

 文句を言ってやりたいが、息切れ起こして声が出ねぇ……。

『まぁ、いいわ。 じゃあ、まずショッピングに行きましょ』

 大型ショッピングモールに入ると、花蓮に連れられ色々な店を見て回った。

『花蓮……少し買い過ぎじゃないか?』

『限定の香水とか今日逃したら次いつ買えるか分からないじゃない』

『俺が心配してるのは、こんなに買い物してお金が……って居ない!?』

『こっちこっち! ちょっとゲーセン寄ってこ~』

『ったく……おーい! ちょっと待ってくれ~』

 女子の大好きなプリクラ……最近では男性のみの入場禁止と彼女の居ない俺にとって未知の世界。
 プリクラコーナーの中は、カップルと女子だけでここはゲームセンターなのかと目を疑う。

『一人でキョロキョロしてると痴漢と間違われるわよ』

『あぁ、プリクラってのは色々な種類があるんだな』

『ここのゲーセンは少ない方よ。 ほらっ! ぼさっとしてないで入って』

 お金を入れると『モードを選択してね』っと音声が流れる。

『はい! あのモードって何ですか?』

『あんた誰と話してるのよ……私がやるからちょっと退いてて』

 慣れた手つきで操作を進め『撮影を始めるよ』とまた音声が流れた。

『ど、どうすればいいんだ?』

 すると俺の腕に花蓮は抱きついた。
 む、胸の感触が……。

 数回カシャっと音がすると『撮影お疲れ様でした』と音声が流れ終わったようだ。
 花蓮はプリクラ機を出ると何やらペンのような物で操作をしていた。

『これあんたの分! ……ぷっ。 見てこの顔……』

 渡されたプリクラを見ると、花蓮に腕を抱きつかれた俺は変な顔で写っていた。

『花蓮が急に抱きつくからだろ! でも、こうして見ると恋人同士みたいだな』

『ふんっ! 次行くわよ……竜一の馬鹿』

 しばらく見て回ると、朝食も取らないで家を出てきた俺達は、遅い昼食を取ろうとファミレスに入った。

『結構遊んだな~今頃ミーニャのやつ怒ってるだろうな』

『……』

『ここは俺が奢るから遠慮しないで好きな物注文していいぞ! 朝飯も食ってないから腹減ったろ?』

『ごめん……なんか気持ち悪くて食欲がないの』

 さっきまで元気だった花蓮は、目が据わっていて肩で息をしていた。

『ど、どうしたんだ? まさか……』

 花蓮の額に手を当てると熱があった。

『せっかくのデートなのに……ごめんね』

 意識が朦朧としている花蓮を背負い、タクシーを呼ぶと家に急いで戻った。

『ご主人! 二人きりで何処に行っ……花蓮どうしたの!?』

 花蓮の容態に気がついたミーニャは慌てる。

『ミーニャ、氷枕の用意してくれるか……俺は花蓮をベットに運ぶから』

『わ、分かった! すぐ用意するから待ってて』

 花蓮の部屋に行き、ベットに寝かせると花蓮は手には紙が握られていた。
 その紙を取り開いてみると、今日のスケジュールが細かく沢山書かれていた。

『見られちゃったか……徹夜で調べて……体調崩すとか馬鹿だよね』

『そんな事ない……』

『ねぇ、また……私とデートしてくれる?』

『あぁ、約束する! だから今はゆっくり休んで早く治せよ』

『……ありがとう竜一』

 こんな時だけ名前で呼びやがって……。

 花蓮が眠りに就くと雨が降り始めた。
 まるで、花蓮が泣いてるかのようにポツポツと。

 ゴールドウィーク最終日、花蓮は寝込んでしまった。


今回の登場人物

高峰竜一(たかみねりゅういち)、16歳(高校二年生)
本作の主人公。
勉強も運動もそこそこの平凡な学生。
炊事洗濯が得意で、幼馴染の小百合に恋をしている。
両親は、仕事で海外にいっており、一軒家に一人暮らしをしている。

獅子駒花蓮(ししこまかれん)、16歳。四話以降は17歳(高校二年生)
ライオンの人獣。茶髪に小麦色の肌。
周囲を寄せ付けない態度を取っていて、周りからはヤンキーっと誤解されている。
言葉使いは悪いが、優しい性格の持ち主。

ミーニャ、16歳
猫の人獣。白髪に透き通るような白い肌。
生まれつき体が小さく病弱だったため両親に捨てられ一度は人獣として生きる道を捨て猫として生きる道を選ぶ。高峰竜一に助けられ、それ以降は稲荷静代に人獣として生きる道を教えられる。
好奇心旺盛で、高峰の事を『ご主人』っと呼んでいる。

読者の方へ
『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き、ありがとうございます。
次回、『第九話 狐と神社』をお楽しみに!
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みんなの感想(9件)

黒猫
2017.07.26 黒猫

第八話の花蓮ちゃん。・゜・(ノД`)・゜・。
次が早く読みたいです!

まこちゃん
2017.07.27 まこちゃん

黒猫様いつもありがとうございます。
次の作品も楽しみにしていてくださいね!

解除
ミルクちゃん

書籍化の予定はあるんですか(@ ̄ρ ̄@)?
サイン付きで欲しいです★

まこちゃん
2017.07.25 まこちゃん

『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き誠にありがとうございます。

書籍化されるか分かりませんが、もし書籍化されましたら、私で良ければ書きますよ!

これからも応援宜しくお願いします。

解除
胡桃
2017.07.25 胡桃

しっかりとストーリーも練られていて、作者さんの丁寧さを感じます。
Web小説をあまり読みませんが(気になる作品がない)この作品は面白いと思います。
登場するキャラクターも魅力的で、他の方も感想で書かれますが、アニメ化したら人気が出ると思います。
この作品が店頭に並ぶ事があれば私は買います。

まこちゃん
2017.07.25 まこちゃん

『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き誠にありがとうございます。

読んでくれる方、応援してくれる方のためにも頑張って書籍化されるよう頑張っていきます!

これからも応援宜しくお願いします。

解除

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