上 下
4 / 8

第四話 俺と幼馴染

しおりを挟む
 花蓮との生活を始めて数日、心休まる暇がない。
 家では家事に追われ、学校では生徒会長に監視されてるし……。
 俺の青春このまま終わってしまうのだろうか。
 そんな事を考えながら、学校の自販機で飲み物を選んでいると、急に後ろから両目を塞がれた。

『だ~れだ?』

『小百合……何やってるんだ?』

『竜ちゃん凄い!よく私だって分かったね』

『そんなの普通だろ幼稚園の頃から一緒だったんだ。それに高校生もにもなって、こんな事をするの小百合くらいだろ』

『えへへっ~♪ 竜ちゃん暗い顔してるけど何かあったの?』

『そんな顔してるか?まぁ、最近色々あって元気が出ないって言うか……』

『じゃあ、日曜日とかって予定空いてるかな?』

 家に居ても花蓮にこき使われるだけだし……とくに用事もないしな。

『日曜日は、用事もないし空いてるけど……そんなの聞いてどうするんだ』

『それなら竜ちゃん。私とデートしよっか♪』

 俺の青春は終わってなんかいなかった。
 その晩、俺は小百合とデートの事を考えながら洗い物をしていると自然と鼻歌を歌ったいた。

『ちょっと……あんた随分とご機嫌ね。何かあった?』

『き、急にどうしたんだ』

 花蓮にはデートの事は黙っておこう。
 せっかくの小百合と二人きりでのデート『私も行きたい』なんて言われたら台無しだ。

『最近ずっと疲れきった顔してたのに学校から帰るなり、鼻歌なんか歌いながら洗い物してるから、何かいいことがあったのかと思って』

 誰のせいで疲れてると思ってんだよ!
 落ち着け……ここは冷静にこの場をやり過ごすんだ。

『そ、そうかな?花蓮の気のせいじゃないか?』

 うっ…めちゃくちゃ睨んでる。

『あんた、私に何か隠し事とかしてないでしょうね?布団の下に隠してある本のように』

『お、お前、俺の部屋に勝手に入ったな!ってか、なんで分かったんだよ!』

『私達は鼻が利くのよ。変な臭いがしてたから捨てておいてあげたから感謝しなさい』

 今後は部屋に鍵を掛けておこう……。

『まぁ、いいわ。私はお風呂入ってくるから覗かないでよね。ってか覗いたらぶち殺す』

『覗かねーよ!いいから、さっさと風呂入ってこい』

 ったく……俺は日曜日が待ち遠しくリビングにあるカレンダーに目を遣ると、そこには小さな文字で『私の誕生日』っと書かれていた。
 小百合とのデートの日が花蓮の誕生日だと知った俺は、何も言いだせないまま約束の日を迎えた。

『ねぇ、何処か出掛けるの?』

『ちょっと用事があって出掛けてくるけど花蓮は家に居るのか?』

『別に……あんたに関係ないでしょ』

『もしも出掛けるなら戸締り頼むぞ!じゃあ、いってきます』

『……いってらっしゃい』

 待ち合わせ場所に向かうと、小百合が先に待ち合わせ場所で待っていた。

『小百合お待たせ。もしかして待たせたか?』

『大丈夫~♪ 私もさっき来たとこだから』

『そっか!今日は何処に行くんだ?』

『内緒~♪』

 小百合と歩き始めると何かの視線に俺は背筋が凍った。
 この感覚……何処かで経験した気がする。

『竜ちゃん大丈夫?顔色悪いけど具合でも悪いの?』

『な、なんでもない……大丈夫』

 さっきのは俺の気のせいだったんだろうか…?
 それから小百合に案内され、しばらく歩くと洋風な建物のお店に着いた。
 入り口の看板には『カップル限定ケーキ食べ放題』と書いてあった。

『も、もしかして……今日のデートってこのために?』

『一度ここのお店のケーキお腹いっぱい食べてみたかったんだ♪ それに竜ちゃんと最近……二人きりで話す機会なかったしさ』

 そう言えば、花蓮と出会ってから小百合と二人きりで話す機会なかったな。
 自分の事でいっぱいになって、幼稚園の頃からずっと一緒だった小百合の事……気づいてやれなかった。
 それでも、俺と話したくてデートに誘ってくれて、俺は勘違いして馬鹿みたいに浮かれて……。

『よし!俺はこの店のケーキ全種類食うぞ!そんで今日は思う存分遊ぶぞ!』

『竜ちゃん……うん♪ 私だって負けないから!』

 それから俺達は店のケーキを食べまくった……もちろん全種類は食べられなかったけどな。
 映画を観たり、ゲーセンに行ったり、まるで恋人のように過ごした。
 あっという間に時間は過ぎ、日も暮れ始めた。

『もうこんな時間か、あんまり遅くなると小百合の両親も心配するだろうし、近くまで送ってくから帰るか』

『竜ちゃん……私……吐きそう』

『あんなにケーキ食ったのに、ポップコーンとかクレープ食うからだ!ちょっと、そこの公園で休んで行こうぜ』

 俺は自販機で水を買い小百合に手渡した。

『どうだ少しは落ち着いたか?』

『竜ちゃん……ゴメンね。本当は私もう少しだけ竜ちゃんと居たくて嘘ついちゃった』

『小百合?』

『あのね……私、竜ちゃんの事……やっぱりなんでもない。ほらっ!暗くなる前に帰ろう』

 小百合は何て言おうとしたのだろう。
 そんな事を考えながら小百合を家に送った帰り道、背後に気配を感じた。

『まったく……お前は罪な男だな、わざとやっているのか、それとも鈍いだけか』

『竜一君は拷問の趣味でもあるのですか?あれじゃ生殺しですわ』

『会長……?それに未来先輩までどうしてここに?』

『一つ忠告してやろうと思ってな、お前の曖昧な態度が人間も人獣も傷つけるんだ』

『人獣も……?』

『ここまで言えばお前にも分かるだろう、それに今日は大事な日なんだろ』

 きっと花蓮は俺に誕生日を一緒に祝ってほしかったんだ。
 だから、カレンダー『私の誕生日』って書いたんだ気づいてほしいから。
 それなのに俺は、小百合とのデートに浮かれて……最低だ。

 気がつくと俺は走り出していた。
 息を切らし、汗だくになって走る姿を町の人が不思議そうな顔で見ていても俺の足は止まらなかった。

『はぁはぁ……花蓮!』

『いきなりどうしたのよ、って汗臭っ!』

 俺は目を疑った、家の中はパーティー会場のように飾り付けられていた。

『これ……一人で準備したのか?』

『そんな訳ないでしょ、パパとママが準備してくれたのよ。そもそも何であんたはそんなに汗だくなのよ』

『これはその……』

 答えに困っていると、インターホンが鳴り生徒会長と未来先輩が俺の家に入ってきた。

『あんた達、姿見えないと思ってたら何処行ってたのよ』

『その様子だと私達からのプレゼントは届いたみたいだな』

『なぁ……どうゆう事なんだ?俺はさっぱり意味が分からないんだが』

 聞いた話を整理すると、カレンダーに『私の誕生日』っと書いたのは自分の誕生日をいつも忘れるからで、生徒会長達とは偶然コンビニに行く途中で出くわしたらしく、人獣同士のよしみで一緒に誕生日を祝う事になったらしい。

 俺が出掛けてるのを知った生徒会長達は、俺を探しに街へ向かい匂いを頼りに探すと小百合とデートしている現場を目撃してしまい跡をつけていたみたいだ。
 その後、一人になった俺を一刻も早く帰らせようと俺を煽りまんまと生徒会長の罠にかかったのだ。

『あんたが浮かれてたのって小百合とデートするからだったんだ~そ・れ・も・私の誕生日の日に』

『……』

『あのさ……ちゅうっとかしたの?』

『し、してない!本当だ』

『そうなんだ……私は別にどうでもいいんだけどね』

 俺はいつ渡そうか迷っていたプレゼントを上着のポケットから出すと花蓮に渡した。

『渡すタイミング変かもしれないけど、誕生日おめでとう花蓮』

『あんたずっと持ってたのね、少し箱が汗でふやけてるわよ。でも、ありがとう大事にするね』

 笑いながらプレゼントを受け取る花蓮はとても嬉しそうだった。
 そんな花蓮を見ていると、また背筋が凍るような視線を感じた。

『貴様……娘の誕生日に……デートなどと……』

 視線の正体は、そう花蓮のお父さんだった。
 前に花蓮の家に行った時の俺を睨んでいた目だ。

『お、お父さん』

『竜一君……私信じていたのに酷いわ』

『お母さんまで何を言ってるんですか!?』

『言い訳は聞かん、覚悟は出来ているだろうな』

 俺はお父さんにぶっ飛ばされそうになったのを花蓮が止めに入ってくれたおかげで事なきを得た。
 その後、花蓮の誕生日パーティーが始まり昼間死ぬほど食べたケーキを花蓮達に無理矢理食わされ、騒がしいながらも楽しい誕生日パーティーは終わっていった。

 次の日、またいつもの騒がしい日常が始まった。
 少しずつではあるが花蓮にも話せる友達が増えていったみたいだ。

『獅子駒さんのピアス超かわいい!どうしたのそれ、まさかプレゼント?』

『教えな~い♪ 私の宝物なんだから』

 花蓮と一緒だと毎日が大変かもしれないけど悪い事ばかりじゃないよな。

 俺は自分の席でぼ~っとしている小百合の頬に自販機で買ったばかりのジュースをあてた。

『冷っ!』

『何ぼ~っとしてるんだよ、昼飯二人で食おうぜ』

『竜ちゃん……うん、一緒に食べる♪』

今回の登場人物

高峰竜一(たかみねりゅういち)、16歳(高校二年生)
本作の主人公。
勉強も運動もそこそこの平凡な学生。
炊事洗濯が得意で、幼馴染の小百合に恋をしている。
両親は、仕事で海外にいっており、一軒家に一人暮らしをしている。

黒田小百合(くろださゆり)、16歳(高校二年生)
高峰の幼馴染。黒髪に白い肌。
自分では、自覚してないが天然。
明るい性格で、友達も多い。

獅子駒花蓮(ししこまかれん)、16歳。四話以降は17歳(高校二年生)
ライオンの人獣。茶髪に小麦色の肌。
周囲を寄せ付けない態度を取っていて、周りからはヤンキーっと誤解されている。
言葉使いは悪いが、優しい性格の持ち主。

稲荷静代(いなりしずよ)17歳(高校三年生)
狐の人獣。普段は黒髪だが人獣の姿になると金茶色の髪に変わる。
高峰の通う高校の生徒会長。
女子からのファンも多く、人望が厚い。

牛堂未来(うしどうみるく)17歳(高校三年生)
牛の人獣。スタイルが抜群で巨乳。
高峰の通う高校の副会長。
拷問が趣味で、男子のファンが多い。
獅子駒からは『馬鹿乳』と呼ばれている。

獅子駒軍司(ししこまぐんじ)、40歳
ライオンの人獣。色黒
堅物だが家族思い。
花蓮の父親で、花蓮からはパパと呼ばれている。

獅子駒椿(ししこまつばき)、37歳
ライオンの人獣。茶髪(地毛)
おっとりとした性格。
花蓮の母親で、花蓮からはママと呼ばれている。

読者の方へ
『半獣じゃない人獣なんだから!!』を読んで頂き、ありがとうございます。
次回、『第五話 一匹の猫と一人の猫耳』をお楽しみに!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

処理中です...