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第一章
インテリ住職 其の二
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私の名前は室世癒見、24歳。
私は昔から『普通の人には見えないモノ』が視える。いわゆる霊媒体質ってやつ。憑かれる事も少なくはない。
〝苦 シ イ〟
〝助 ケ テ〟
〝ア ナ タ 視 エ テ ル ン デ シ ョ ウ?〟
憑いた霊はすぐに去ってはくれない。一週間……二週間……悪寒や金縛り、彼らの苦しむ声に耐え続けなければならない。
だからこれまで視えないフリ、聞こえないフリをして、極力身を潜めながら生活してきた。
――――あの日までは。
「ち、遅刻しちゃう――――っ!」
憧れの出版社に就職が決まった、その入社当日。まさか目覚まし時計の電池が切れてたなんて!!
私は慌てて最低限のメイクを施し、一人暮らしのアパートを飛び出した。
(も――っ、初日に遅刻なんて洒落になんないでしょ~~~っっ)
折角徒歩で通えるアパートに引っ越したのに、これじゃあ事前に下見しておいたルートを走っても、始業時刻に間に合うかどうか分からない。
「え――いっ、仕方がない!」
息を切らせながら大通りを走っていた私は、通り抜けれそうな場所を探し、住宅街の中へと方向転換する。
一か八かの賭けだったが、うまい具合に路地を通り抜け、目的地であるビルの一角が見える通りへと抜ける事ができた。
下見の時とは違う通った事のない道だったが、建物さえ見えていれば何とか到着できるだろう。私は安堵の胸を撫で下ろし、走る速度を緩めた。
片側二車線の道路を跨いだその先にビルの入り口が見えてくる。
あとは少し先にある横断歩道を渡るだけ……だったのだが、押しボタン信号が取り付けられている電信柱を見て私は立ち止まった。
(嘘、あれって……献花?)
電信柱の根元に花が多数手向けられているのが見える。
(どうしよう、まだ成仏してないかも)
今までの経験上、ああいう場所にはまだ魂が留まっている事が多い。暫くすれば成仏するのだろうけど、中には地縛霊となって視える人に助けを求めたり、生きてる人を引きずり込もうとする者もいる。
戻ったほうがいいだろうか……
――いや、駄目だ。以前通った道まで戻ると間に合わなくなるかもしれない。
(……だ、大丈夫よっ! きっともう成仏してるはず!!)
根拠のない憶測だったが、今はそう信じるしかない。
「大丈夫……大丈夫……!!」
自分に言い聞かせるように小声で呟きながら、私は急ぎ足で横断歩道へと向かう。
そして歩道に一歩足を踏み出そうとした次の瞬間、右脇腹辺りにドンッと衝撃が走った。
(え、何!?)
身体が動かない。金縛りにあったかのような感覚。
いや……違う。
誰 か が 私 に 抱 き つ い て る。
腕の位置からして……子供。
『 行かないで…… 』
お腹の辺りから聞こえてきた……子供の声。ゾワリと悪寒が全身を駆け巡る。
『 マナもね……遅刻しそうだったの…… 』
その抑揚のない声に、私の身体はガタガタと震え始める。
『 マナ、すごく急いでて…… 』
『 信号……赤色になってたのに……気づかなくて…… 』
視てはいけないと頭では分かってるのに、私は促されるように声のする方へと顔を傾け……そして……
『 マ ナ ね …… 』
『 ト ラ ッ ク に 轢 か れ た の 』
血だらけの少女と目が合った。
私は昔から『普通の人には見えないモノ』が視える。いわゆる霊媒体質ってやつ。憑かれる事も少なくはない。
〝苦 シ イ〟
〝助 ケ テ〟
〝ア ナ タ 視 エ テ ル ン デ シ ョ ウ?〟
憑いた霊はすぐに去ってはくれない。一週間……二週間……悪寒や金縛り、彼らの苦しむ声に耐え続けなければならない。
だからこれまで視えないフリ、聞こえないフリをして、極力身を潜めながら生活してきた。
――――あの日までは。
「ち、遅刻しちゃう――――っ!」
憧れの出版社に就職が決まった、その入社当日。まさか目覚まし時計の電池が切れてたなんて!!
私は慌てて最低限のメイクを施し、一人暮らしのアパートを飛び出した。
(も――っ、初日に遅刻なんて洒落になんないでしょ~~~っっ)
折角徒歩で通えるアパートに引っ越したのに、これじゃあ事前に下見しておいたルートを走っても、始業時刻に間に合うかどうか分からない。
「え――いっ、仕方がない!」
息を切らせながら大通りを走っていた私は、通り抜けれそうな場所を探し、住宅街の中へと方向転換する。
一か八かの賭けだったが、うまい具合に路地を通り抜け、目的地であるビルの一角が見える通りへと抜ける事ができた。
下見の時とは違う通った事のない道だったが、建物さえ見えていれば何とか到着できるだろう。私は安堵の胸を撫で下ろし、走る速度を緩めた。
片側二車線の道路を跨いだその先にビルの入り口が見えてくる。
あとは少し先にある横断歩道を渡るだけ……だったのだが、押しボタン信号が取り付けられている電信柱を見て私は立ち止まった。
(嘘、あれって……献花?)
電信柱の根元に花が多数手向けられているのが見える。
(どうしよう、まだ成仏してないかも)
今までの経験上、ああいう場所にはまだ魂が留まっている事が多い。暫くすれば成仏するのだろうけど、中には地縛霊となって視える人に助けを求めたり、生きてる人を引きずり込もうとする者もいる。
戻ったほうがいいだろうか……
――いや、駄目だ。以前通った道まで戻ると間に合わなくなるかもしれない。
(……だ、大丈夫よっ! きっともう成仏してるはず!!)
根拠のない憶測だったが、今はそう信じるしかない。
「大丈夫……大丈夫……!!」
自分に言い聞かせるように小声で呟きながら、私は急ぎ足で横断歩道へと向かう。
そして歩道に一歩足を踏み出そうとした次の瞬間、右脇腹辺りにドンッと衝撃が走った。
(え、何!?)
身体が動かない。金縛りにあったかのような感覚。
いや……違う。
誰 か が 私 に 抱 き つ い て る。
腕の位置からして……子供。
『 行かないで…… 』
お腹の辺りから聞こえてきた……子供の声。ゾワリと悪寒が全身を駆け巡る。
『 マナもね……遅刻しそうだったの…… 』
その抑揚のない声に、私の身体はガタガタと震え始める。
『 マナ、すごく急いでて…… 』
『 信号……赤色になってたのに……気づかなくて…… 』
視てはいけないと頭では分かってるのに、私は促されるように声のする方へと顔を傾け……そして……
『 マ ナ ね …… 』
『 ト ラ ッ ク に 轢 か れ た の 』
血だらけの少女と目が合った。
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