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第五章
加茂倉少年の恋 其の十九
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――そんな栄慶さんと宗近くんの物言いにデジャウ感を感じていると
「次の方どうぞ~」
と、私達の順番が回ってくる。
俊介くん達が乗ったゴンドラから一つ空けて、私と栄慶さんは乗り込み、向かい合わせの状態で座る。
ゆっくりと回り始める観覧車の窓から地上を見下ろすと、こちらに向かって手を振る宗近くんと目が合った。
――かと思うと、彼は浮かびながら売店の方へと移動し、並ぶカップルの男性の中へと入り、メニューを指さし始めた。
「も~宗近くんったら、また憑依して食べようとして~!」
「放っておけ。あいつは言っても聞かん、ここに居るよりマシだ」
(確かにっ)
宗近くんと一緒に乗ると一人はしゃいでそう! と、私は溜息をつく。
(あ、でも宗近くん飛ぶことできるんだから乗る意味ないかも……)
だから売店へ行ったのかな? と建物に目を向けるが、小さくなった人ゴミから宗近くんの憑依した男性を見つける事はできなかった。
俊介くんの乗ったゴンドラも見えず、私は景色を楽しもうとキョロキョロと周りを見渡していると
「この観覧車、一周どのくらいかかるんだ?」
と、外を眺めながら栄慶さんが問いかけてくる。その表情は……観覧車を楽しんでいるようには見えない。
「う~ん、そんなに大きな観覧車じゃないので15分もかからないんじゃないですかね?」
そう言うと栄慶さんは、「そうか」とこちらを見ずに答える。そんな彼の姿を見て
「あっ! もしかして栄慶さん、高所恐怖症ですか?」
栄慶さんにも怖いものがっ! と、私はからかうように声を掛けると
「ここからだとよく見えるからな」
と、彼はポツリと呟いた。
……何がよく見えるんだろうと、栄慶さんが見ている方角に視線を移すが、特に珍しい物などは見つからない。
私はしばらく探すように辺りを窺っていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「人は皆、天寿を全うして逝くわけではないからな。苦しみながら逝く者もいれば、恨みうらみを抱えたまま逝く者もいる。……ここからだとそれがよく見える」
そう言って、栄慶さんは微かに眉間に皺を寄せる。
今、私の視界に映っているのは、晴れた青空と、気持ちよさそうに翼を広げる鳥くらいで、それ以外何も〝視えて〟いない。
「子供の頃はそれを見るのが嫌で、観覧車には二度と乗るまいと決めていたんだがな……」
栄慶さんは何かが昇っていくのを見るかのように、視線を上へと動かす。
(栄慶さん……)
私は……自分が視える人間で、彼もまた視える人間だという事を認識していても……どのくらい視えているのかなんて考えもしなかった。
もしかしたら彼は私以上に視えているのかもしれない、というか……視えてるのだろう。
(嫌な事……思い出させちゃったかな。観覧車、乗りたいか聞いてから乗った方が良かったかな)
と後悔したが、栄慶さんの事だから、私が乗りたそうにしていれば一緒に乗ってくれただろう。
今だ眉間に皺を寄せながら外を眺める彼の横顔を見つめながら、私は暫く考える。
そしてゴンドラが頂上付近へ来たとき、「よしっ!」と心の中で気合を入れた。
(せっかく乗ったんだから、嫌な思い出のまま終わらせたくないよねっ!)
私は勢いよく立ち上がり、揺れるゴンドラの中すぐさま栄慶さんの横に座りなおす。
「どうした?」
そんな私の行動を不思議そうに見ていた栄慶さんの視線を遮るように、私は顔を近づける。
「か、観覧車って……外、眺めるだけじゃないんですよっ!」
「……そうなのか?」
「そ、そうですよっ! ここっていわゆる密閉空間ですからっ、カ、カップルとか……その……違う楽しみが……あるんですよっ!」
声をどもらせながらそう言うと、急に恥ずかしさがこみ上げ、私は栄慶さんから目を逸らす。
だが、彼はその意味が分からないのか、「例えば?」と問いかけてくる。
心なしか楽しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。私は視線を外したまま答える。
「だ、だからですねっ、例えば……今は……だ、誰も見てないから……」
「……誰も見ていないから?」
(う~っ!)
本当に気づかないのか、最後まで私に言わそうとする。
そして私は覚悟を決めたように顔を上げ、栄慶さんに向かって叫ぶ。
「だ、誰も見てないからっ……キス……とかしてっ! って、ひゃあっ!?」
言い終わると同時に、栄慶さんは私の腰に腕を回したかと思うと、持ち上げるようにグイと体を引き寄せた。
「え、栄慶さんっ!?」
気づけば栄慶さんの膝上に、私は腰を浮かした状態で跨いでいた。
胸と胸が重なるぐらいの至近距離……私は少し見下ろすようなな形で、両手を彼の肩に置きながら向かい合っている。
そんな状況に私は目を見開き、恥ずかしさで頬を染める。
慌てて後ろに下がろうとするが、すぐさま彼は阻止するように私の腰に両手を回し
「キス、してくれるんだろう?」
と笑みを浮かべた。
「次の方どうぞ~」
と、私達の順番が回ってくる。
俊介くん達が乗ったゴンドラから一つ空けて、私と栄慶さんは乗り込み、向かい合わせの状態で座る。
ゆっくりと回り始める観覧車の窓から地上を見下ろすと、こちらに向かって手を振る宗近くんと目が合った。
――かと思うと、彼は浮かびながら売店の方へと移動し、並ぶカップルの男性の中へと入り、メニューを指さし始めた。
「も~宗近くんったら、また憑依して食べようとして~!」
「放っておけ。あいつは言っても聞かん、ここに居るよりマシだ」
(確かにっ)
宗近くんと一緒に乗ると一人はしゃいでそう! と、私は溜息をつく。
(あ、でも宗近くん飛ぶことできるんだから乗る意味ないかも……)
だから売店へ行ったのかな? と建物に目を向けるが、小さくなった人ゴミから宗近くんの憑依した男性を見つける事はできなかった。
俊介くんの乗ったゴンドラも見えず、私は景色を楽しもうとキョロキョロと周りを見渡していると
「この観覧車、一周どのくらいかかるんだ?」
と、外を眺めながら栄慶さんが問いかけてくる。その表情は……観覧車を楽しんでいるようには見えない。
「う~ん、そんなに大きな観覧車じゃないので15分もかからないんじゃないですかね?」
そう言うと栄慶さんは、「そうか」とこちらを見ずに答える。そんな彼の姿を見て
「あっ! もしかして栄慶さん、高所恐怖症ですか?」
栄慶さんにも怖いものがっ! と、私はからかうように声を掛けると
「ここからだとよく見えるからな」
と、彼はポツリと呟いた。
……何がよく見えるんだろうと、栄慶さんが見ている方角に視線を移すが、特に珍しい物などは見つからない。
私はしばらく探すように辺りを窺っていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「人は皆、天寿を全うして逝くわけではないからな。苦しみながら逝く者もいれば、恨みうらみを抱えたまま逝く者もいる。……ここからだとそれがよく見える」
そう言って、栄慶さんは微かに眉間に皺を寄せる。
今、私の視界に映っているのは、晴れた青空と、気持ちよさそうに翼を広げる鳥くらいで、それ以外何も〝視えて〟いない。
「子供の頃はそれを見るのが嫌で、観覧車には二度と乗るまいと決めていたんだがな……」
栄慶さんは何かが昇っていくのを見るかのように、視線を上へと動かす。
(栄慶さん……)
私は……自分が視える人間で、彼もまた視える人間だという事を認識していても……どのくらい視えているのかなんて考えもしなかった。
もしかしたら彼は私以上に視えているのかもしれない、というか……視えてるのだろう。
(嫌な事……思い出させちゃったかな。観覧車、乗りたいか聞いてから乗った方が良かったかな)
と後悔したが、栄慶さんの事だから、私が乗りたそうにしていれば一緒に乗ってくれただろう。
今だ眉間に皺を寄せながら外を眺める彼の横顔を見つめながら、私は暫く考える。
そしてゴンドラが頂上付近へ来たとき、「よしっ!」と心の中で気合を入れた。
(せっかく乗ったんだから、嫌な思い出のまま終わらせたくないよねっ!)
私は勢いよく立ち上がり、揺れるゴンドラの中すぐさま栄慶さんの横に座りなおす。
「どうした?」
そんな私の行動を不思議そうに見ていた栄慶さんの視線を遮るように、私は顔を近づける。
「か、観覧車って……外、眺めるだけじゃないんですよっ!」
「……そうなのか?」
「そ、そうですよっ! ここっていわゆる密閉空間ですからっ、カ、カップルとか……その……違う楽しみが……あるんですよっ!」
声をどもらせながらそう言うと、急に恥ずかしさがこみ上げ、私は栄慶さんから目を逸らす。
だが、彼はその意味が分からないのか、「例えば?」と問いかけてくる。
心なしか楽しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。私は視線を外したまま答える。
「だ、だからですねっ、例えば……今は……だ、誰も見てないから……」
「……誰も見ていないから?」
(う~っ!)
本当に気づかないのか、最後まで私に言わそうとする。
そして私は覚悟を決めたように顔を上げ、栄慶さんに向かって叫ぶ。
「だ、誰も見てないからっ……キス……とかしてっ! って、ひゃあっ!?」
言い終わると同時に、栄慶さんは私の腰に腕を回したかと思うと、持ち上げるようにグイと体を引き寄せた。
「え、栄慶さんっ!?」
気づけば栄慶さんの膝上に、私は腰を浮かした状態で跨いでいた。
胸と胸が重なるぐらいの至近距離……私は少し見下ろすようなな形で、両手を彼の肩に置きながら向かい合っている。
そんな状況に私は目を見開き、恥ずかしさで頬を染める。
慌てて後ろに下がろうとするが、すぐさま彼は阻止するように私の腰に両手を回し
「キス、してくれるんだろう?」
と笑みを浮かべた。
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