憑かれて恋

香前宇里

文字の大きさ
上 下
98 / 109
第五章

加茂倉少年の恋 其の十

しおりを挟む
「わ、私も!?」
 突然の申し出に、私は自分を指差しながら俊介くんに確認する。
「だ、駄目ですか!?」


「だってお二人、恋 人 同 士 なんですよね!!」


「へっ!?」


「あっ、えと……私達は……そのっ……」
 俊介くんの口から飛び出した、〝恋人同士〟と言う言葉に、私は思わずしどろもどろになってしまう。
 はたして今の栄慶さんとの関係を〝恋人〟だと決めつけていいものなのか……。
 でも好きだとか……付き合ってほしいとか……私まだ言われてないしっ
「あの、違うんですか?」
(な、何て答えればっ)
 付き合ってるって言って、栄慶さんに変な顔されたら嫌だしっ
 でもキスは何度もしたしっ
 でも好きだって言われてないしっ!


 私も言ってないしっ!!


「ユミちゃん顔真っ赤だよ~?」
「もぅっ、宗近くんは黙っててっ!!」
 ニヤニヤしながらからかってくる彼を睨みつつ、私は頭の中をぐるぐるさせながら思考を巡らせていると……。
「付き合ってるんじゃないんですか?」
「でもあの時、ご住職はお姉さんのこと、たいせ」
「――っ」
 急に発せられた栄慶さんの「ごほっ」という大きな咳払いで、俊介くんの言葉はかき消される。
「栄慶さん?」
「……いや、何でもない」
「とにかく、私が一緒に行くという話ならそれではできん。遊びに付き合う為だけに寺を閉めるわけには……」


「では私が留守を預かりましょう」


「史真さんっ!」
 いつの間に来ていたのか、半分開け放たれた障子の向こうから笑みをたたえた史真さんが姿を現した。
「げっ、無慈悲坊主」
「慈悲は常に持ち合わせてるつもりですよ」
 宗近くんは顔を歪ませながら史真さんを睨みつけるが、彼は臆することなく栄慶さんに視線を向ける。
「デートならば遊園地はどうでしょう。会話も弾むでしょうし恋人同士の気分も味わえるでしょう? 時間が残されていないのでしたら、さっそく今日にでも」
「一条、今日仕事が入っている事は知ってるだろう」
 話を進めようとする史真さんに対し、栄慶さんは否定の言葉で返すが、彼は笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「それは午前中で終わる事でしょう? 来客の対応は私がしておきますし、何かあればこちらの寺の者を行かせますので心配いりませんよ」
「しかし……」
「永見はお盆からずっと働きづめでしょう? たまにはゆっくり息抜きする事も必要ですよ。癒見さんと遊園地、行きたくはないのですか?」
「――っ」
 史真さんの問いかけに、栄慶さんは一瞬言葉を詰まらせ彼から視線を逸らす。
 それはは否定とも肯定ともとれない表情で、静かにその様子を見守っていたが……
「それに形は違えど、死者の未練を断ち切らせ、浄土へ送り出してやるというのも私達のような坊主の仕事ではありませんか?」
 と言う言葉を聞いて、私達はハッとする。


「あ、あのっ、今日だったら俺も空いてますし、お願いできませんかっ!!」


「栄慶さんっ、エリナちゃんの最後の願い、叶えてあげてっ」


「これはもう行くって流れじゃな~い?」


 史真さんの言葉を後押しするように皆で声をあげると、栄慶さんは諦めたように溜息を一つこぼし


「分かった。では仕事が終わり次第、向こうで落ち合う事にしよう」


 と、目を閉じて答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トリッパーズ!

有喜多亜里
BL
清々しいまでに無知な高校生と、知識はあるが毒も吐く眼鏡男子な同級生の、不本意で理不尽な異世界トリップ話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

骨董品鑑定士ハリエットと「呪い」の指輪

雲井咲穂(くもいさほ)
キャラ文芸
家族と共に小さな骨董品店を営むハリエット・マルグレーンの元に、「霊媒師」を自称する青年アルフレッドが訪れる。彼はハリエットの「とある能力」を見込んで一つの依頼を持ち掛けた。伯爵家の「ガーネットの指輪」にかけられた「呪い」の正体を暴き出し、隠された真実を見つけ出して欲しいということなのだが…。 胡散臭い厄介ごとに関わりたくないと一度は断るものの、差し迫った事情――トラブルメーカーな兄が作った多額の「賠償金」の肩代わりを条件に、ハリエットはしぶしぶアルフレッドに協力することになるのだが…。次から次に押し寄せる、「不可解な現象」から逃げ出さず、依頼を完遂することはできるのだろうか――?

Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福
キャラ文芸
お気に入り登録をよろしくお願いします カテゴリー最高位更新:6位(2021/7/10) 臼井誠(うすい まこと)は、他人を友人にできる能力を神から与えられる その能力を使って、行方不明中の立花桃(たちばな もも)を1年以内に見つけるよう告げられ、人付き合いに慣れていない臼井誠は、浅い友人関係を繋げながら奔走するが… この物語はフィクションです 登場する人物名、施設名、団体名などは全て架空のものです

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

†レクリア†

希彗まゆ
キャラ文芸
不完全だからこそ唯一の『完全』なんだ この世界に絶望したとき、世界中の人間を殺そうと思った わたしのただひとつの希望は、ただあなたひとりだけ レクリア───クローンの身体に脳を埋め込み、その身体で生きることができる。 ただし、完全な身体すぎて不死になるしかない─── ******************** ※はるか未来のお話です。 ストーリー上、一部グロテスクな部分もあります。ご了承ください

処理中です...