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第五章
加茂倉少年の恋 其の十
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「わ、私も!?」
突然の申し出に、私は自分を指差しながら俊介くんに確認する。
「だ、駄目ですか!?」
「だってお二人、恋 人 同 士 なんですよね!!」
「へっ!?」
「あっ、えと……私達は……そのっ……」
俊介くんの口から飛び出した、〝恋人同士〟と言う言葉に、私は思わずしどろもどろになってしまう。
はたして今の栄慶さんとの関係を〝恋人〟だと決めつけていいものなのか……。
でも好きだとか……付き合ってほしいとか……私まだ言われてないしっ
「あの、違うんですか?」
(な、何て答えればっ)
付き合ってるって言って、栄慶さんに変な顔されたら嫌だしっ
でもキスは何度もしたしっ
でも好きだって言われてないしっ!
私も言ってないしっ!!
「ユミちゃん顔真っ赤だよ~?」
「もぅっ、宗近くんは黙っててっ!!」
ニヤニヤしながらからかってくる彼を睨みつつ、私は頭の中をぐるぐるさせながら思考を巡らせていると……。
「付き合ってるんじゃないんですか?」
「でもあの時、ご住職はお姉さんのこと、たいせ」
「――っ」
急に発せられた栄慶さんの「ごほっ」という大きな咳払いで、俊介くんの言葉はかき消される。
「栄慶さん?」
「……いや、何でもない」
「とにかく、私が一緒に行くという話ならそれではできん。遊びに付き合う為だけに寺を閉めるわけには……」
「では私が留守を預かりましょう」
「史真さんっ!」
いつの間に来ていたのか、半分開け放たれた障子の向こうから笑みをたたえた史真さんが姿を現した。
「げっ、無慈悲坊主」
「慈悲は常に持ち合わせてるつもりですよ」
宗近くんは顔を歪ませながら史真さんを睨みつけるが、彼は臆することなく栄慶さんに視線を向ける。
「デートならば遊園地はどうでしょう。会話も弾むでしょうし恋人同士の気分も味わえるでしょう? 時間が残されていないのでしたら、さっそく今日にでも」
「一条、今日仕事が入っている事は知ってるだろう」
話を進めようとする史真さんに対し、栄慶さんは否定の言葉で返すが、彼は笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「それは午前中で終わる事でしょう? 来客の対応は私がしておきますし、何かあればこちらの寺の者を行かせますので心配いりませんよ」
「しかし……」
「永見はお盆からずっと働きづめでしょう? たまにはゆっくり息抜きする事も必要ですよ。癒見さんと遊園地、行きたくはないのですか?」
「――っ」
史真さんの問いかけに、栄慶さんは一瞬言葉を詰まらせ彼から視線を逸らす。
それはは否定とも肯定ともとれない表情で、静かにその様子を見守っていたが……
「それに形は違えど、死者の未練を断ち切らせ、浄土へ送り出してやるというのも私達のような坊主の仕事ではありませんか?」
と言う言葉を聞いて、私達はハッとする。
「あ、あのっ、今日だったら俺も空いてますし、お願いできませんかっ!!」
「栄慶さんっ、エリナちゃんの最後の願い、叶えてあげてっ」
「これはもう行くって流れじゃな~い?」
史真さんの言葉を後押しするように皆で声をあげると、栄慶さんは諦めたように溜息を一つこぼし
「分かった。では仕事が終わり次第、向こうで落ち合う事にしよう」
と、目を閉じて答えた。
突然の申し出に、私は自分を指差しながら俊介くんに確認する。
「だ、駄目ですか!?」
「だってお二人、恋 人 同 士 なんですよね!!」
「へっ!?」
「あっ、えと……私達は……そのっ……」
俊介くんの口から飛び出した、〝恋人同士〟と言う言葉に、私は思わずしどろもどろになってしまう。
はたして今の栄慶さんとの関係を〝恋人〟だと決めつけていいものなのか……。
でも好きだとか……付き合ってほしいとか……私まだ言われてないしっ
「あの、違うんですか?」
(な、何て答えればっ)
付き合ってるって言って、栄慶さんに変な顔されたら嫌だしっ
でもキスは何度もしたしっ
でも好きだって言われてないしっ!
私も言ってないしっ!!
「ユミちゃん顔真っ赤だよ~?」
「もぅっ、宗近くんは黙っててっ!!」
ニヤニヤしながらからかってくる彼を睨みつつ、私は頭の中をぐるぐるさせながら思考を巡らせていると……。
「付き合ってるんじゃないんですか?」
「でもあの時、ご住職はお姉さんのこと、たいせ」
「――っ」
急に発せられた栄慶さんの「ごほっ」という大きな咳払いで、俊介くんの言葉はかき消される。
「栄慶さん?」
「……いや、何でもない」
「とにかく、私が一緒に行くという話ならそれではできん。遊びに付き合う為だけに寺を閉めるわけには……」
「では私が留守を預かりましょう」
「史真さんっ!」
いつの間に来ていたのか、半分開け放たれた障子の向こうから笑みをたたえた史真さんが姿を現した。
「げっ、無慈悲坊主」
「慈悲は常に持ち合わせてるつもりですよ」
宗近くんは顔を歪ませながら史真さんを睨みつけるが、彼は臆することなく栄慶さんに視線を向ける。
「デートならば遊園地はどうでしょう。会話も弾むでしょうし恋人同士の気分も味わえるでしょう? 時間が残されていないのでしたら、さっそく今日にでも」
「一条、今日仕事が入っている事は知ってるだろう」
話を進めようとする史真さんに対し、栄慶さんは否定の言葉で返すが、彼は笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「それは午前中で終わる事でしょう? 来客の対応は私がしておきますし、何かあればこちらの寺の者を行かせますので心配いりませんよ」
「しかし……」
「永見はお盆からずっと働きづめでしょう? たまにはゆっくり息抜きする事も必要ですよ。癒見さんと遊園地、行きたくはないのですか?」
「――っ」
史真さんの問いかけに、栄慶さんは一瞬言葉を詰まらせ彼から視線を逸らす。
それはは否定とも肯定ともとれない表情で、静かにその様子を見守っていたが……
「それに形は違えど、死者の未練を断ち切らせ、浄土へ送り出してやるというのも私達のような坊主の仕事ではありませんか?」
と言う言葉を聞いて、私達はハッとする。
「あ、あのっ、今日だったら俺も空いてますし、お願いできませんかっ!!」
「栄慶さんっ、エリナちゃんの最後の願い、叶えてあげてっ」
「これはもう行くって流れじゃな~い?」
史真さんの言葉を後押しするように皆で声をあげると、栄慶さんは諦めたように溜息を一つこぼし
「分かった。では仕事が終わり次第、向こうで落ち合う事にしよう」
と、目を閉じて答えた。
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