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第三章
母と子 其の二十四
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「おはようございますっ」
「おはよう、室世くん」
翌朝、いつもより1時間以上早く出版社に到着した私は、編集長の爽やかな笑顔に出迎えられた。
まだ時間が早いせいか、編集部には彼しか出社していないようだった。
「今日はいつもより早いんだね」
そう言って席に着こうとした私に編集長は声を掛ける。
今朝起きたのは5時半過ぎ。
斎堂寺の開門時間が7時という事もあり、起床した私たちは朝食を食べる間もなく電車に乗って帰ってきた。
(まぁ、仕方がないと言えば仕方ないんだけどね)
時間が迫っていた事もあり、朝あまり栄慶さんと話せなかった。
……と、言うか……
いつの間にか……
栄慶さんの腕枕で眠っていたなんてっ!
「そろそろ腕が限界なんだが?」
からかうような彼の声で目を覚ました私は、状況を把握するや否や、慌てて布団から飛び起きた。
そしてそのまま着替えと化粧を脱衣所で済ませ、いつの間にか身支度を整えて待っていた彼と一緒に旅館を後にしたのだった。
「それで? 栄慶君とのお泊りデートはどうだったのかなー?」
その時の事を思い出しながら頬を熱くしていた私は、意味ありげな笑みを浮かべる編集長に向かってニコリと笑った。
「別に何もなかったですよ――?」
間違ってはいない……よね?
結局はデートじゃなくて仕事で行ったわけだし?
夜、ちょっとだけ抱きしめられたけど……最後まで……してないし……。
腕枕されてたのも、もしかしたら私が寝ぼけて枕と間違えたのかもしれない。
(でも昨日の夜……栄慶さんが言ってくれたこと、凄く嬉しかった)
朝になるといつもの彼に戻ってたけど。
もしかしたら、昨日の事は全部夢だったんじゃ……そんな事さえ思ってしまう。
そんな私の様子を見ていた編集長は、顔を斜め横に傾けながら答えた。
「そうなの? でもまぁ他の子達が来るまでに、化粧で隠した方がいいと思うけどなぁ」
「それ」
「へ?」
言われた意味が分からずキョトンとしていると、編集長は人差し指で自分の右の首元をトントンと叩いた。
(……首?)
不思議に思いつつ、私は自分のデスクに置いてあったコンパクトミラーを手に取り、自分の首元を確認する。
「――!?」
「早くしないと誰か来ちゃうよ~?」
からかうような編集長の言葉を耳にしながら、私はその場で固まってしまう。
これって……
きっ……
キスマーク!?
私の左の首元には、赤く腫れ上がったかのように、赤い跡が一つ、クッキリとついていた。
(いつ!? いつ付けられたの!?)
私が眠った後……だとしたら、朝?
まさか……私が眠ってすぐ……じゃないよね!?
き、昨日の告白……聞かれてないよね!?
栄慶さん眠ってたよねっ!!
いや、とにかく今は……
「あ、あのっ、これは虫に噛まれ……」
「キスマークだよね」
私の否定は即刻、編集長によって打ち砕かれた。
(え、栄慶さん~~~~っ!!!!)
「お、癒見やん、今日早いんやな~」
「!?」
やばい。
間柴さんの声が聞こえたと同時に、私は首元を素早く隠す。
「なんや、首痛いんか?」
「いえ、何でもないです」
「何でもない事ないやろ、ちょっと見せてみぃな」
「何でもないですってっ!」
「遠慮すんなや~」
「ほらはよ、見 せ て み ?」
「何でもないですってば――――っっ!!」
結局私はしばらくの間
オヤジ二人にからかわれる羽目になってしまうのだった。
(栄慶さんの馬鹿~~~~~っっ!!!!)
第三章 母と子 【完】
「おはよう、室世くん」
翌朝、いつもより1時間以上早く出版社に到着した私は、編集長の爽やかな笑顔に出迎えられた。
まだ時間が早いせいか、編集部には彼しか出社していないようだった。
「今日はいつもより早いんだね」
そう言って席に着こうとした私に編集長は声を掛ける。
今朝起きたのは5時半過ぎ。
斎堂寺の開門時間が7時という事もあり、起床した私たちは朝食を食べる間もなく電車に乗って帰ってきた。
(まぁ、仕方がないと言えば仕方ないんだけどね)
時間が迫っていた事もあり、朝あまり栄慶さんと話せなかった。
……と、言うか……
いつの間にか……
栄慶さんの腕枕で眠っていたなんてっ!
「そろそろ腕が限界なんだが?」
からかうような彼の声で目を覚ました私は、状況を把握するや否や、慌てて布団から飛び起きた。
そしてそのまま着替えと化粧を脱衣所で済ませ、いつの間にか身支度を整えて待っていた彼と一緒に旅館を後にしたのだった。
「それで? 栄慶君とのお泊りデートはどうだったのかなー?」
その時の事を思い出しながら頬を熱くしていた私は、意味ありげな笑みを浮かべる編集長に向かってニコリと笑った。
「別に何もなかったですよ――?」
間違ってはいない……よね?
結局はデートじゃなくて仕事で行ったわけだし?
夜、ちょっとだけ抱きしめられたけど……最後まで……してないし……。
腕枕されてたのも、もしかしたら私が寝ぼけて枕と間違えたのかもしれない。
(でも昨日の夜……栄慶さんが言ってくれたこと、凄く嬉しかった)
朝になるといつもの彼に戻ってたけど。
もしかしたら、昨日の事は全部夢だったんじゃ……そんな事さえ思ってしまう。
そんな私の様子を見ていた編集長は、顔を斜め横に傾けながら答えた。
「そうなの? でもまぁ他の子達が来るまでに、化粧で隠した方がいいと思うけどなぁ」
「それ」
「へ?」
言われた意味が分からずキョトンとしていると、編集長は人差し指で自分の右の首元をトントンと叩いた。
(……首?)
不思議に思いつつ、私は自分のデスクに置いてあったコンパクトミラーを手に取り、自分の首元を確認する。
「――!?」
「早くしないと誰か来ちゃうよ~?」
からかうような編集長の言葉を耳にしながら、私はその場で固まってしまう。
これって……
きっ……
キスマーク!?
私の左の首元には、赤く腫れ上がったかのように、赤い跡が一つ、クッキリとついていた。
(いつ!? いつ付けられたの!?)
私が眠った後……だとしたら、朝?
まさか……私が眠ってすぐ……じゃないよね!?
き、昨日の告白……聞かれてないよね!?
栄慶さん眠ってたよねっ!!
いや、とにかく今は……
「あ、あのっ、これは虫に噛まれ……」
「キスマークだよね」
私の否定は即刻、編集長によって打ち砕かれた。
(え、栄慶さん~~~~っ!!!!)
「お、癒見やん、今日早いんやな~」
「!?」
やばい。
間柴さんの声が聞こえたと同時に、私は首元を素早く隠す。
「なんや、首痛いんか?」
「いえ、何でもないです」
「何でもない事ないやろ、ちょっと見せてみぃな」
「何でもないですってっ!」
「遠慮すんなや~」
「ほらはよ、見 せ て み ?」
「何でもないですってば――――っっ!!」
結局私はしばらくの間
オヤジ二人にからかわれる羽目になってしまうのだった。
(栄慶さんの馬鹿~~~~~っっ!!!!)
第三章 母と子 【完】
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