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第二章
Curry du père 其の十三
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「――――……それで、栄慶さんに言われるまでその事に気づかなくて、どうすれば圭吾さんに信じてもらえるのか、ずっと考えてたんですけど……結局分からないままなんです」
一通り話し終えた私は、編集長に意見を求める。
「……そうだね、確かに視えない人にとっては君が言った言葉が真実かどうかなんて判断する事はできないだろうね」
彼は顎に手を当てながらそう答えた。
私は膝に視線を落とし、持っていた缶コーヒーを強く握りしめる。
やっぱり圭吾さんに何もしてあげられないのかな……。
「でも、すべてを信じてもらう必要ってないんじゃないかな」
「え?」
顔をあげると、彼は優しい笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「きっかけを作ってあげるだけでも良いと思うんだ」
「君がお父さんの事を伝える事で、また繋がりができるかもしれないよ?」
「繋がり……ですか?」
「人はこの世から居なくなっても存在したこと自体無くなったわけじゃない。その人との思い出は記憶に残ってる」
「それを思い出すキッカケを作ってあげるだけでもいいと思うんだ」
圭吾さんとお父さんとの……思い出?
「亡くなってから気づく事だって沢山あるんだ」
「今は目を背けて気づいていないだけ。少しでも信じてもらえれば、それがキッカケとなって思い出すかもしれない」
――――ふと、壁に飾ってあった写真を思い出した。
笑顔で写っていた少年の頃の圭吾さん。お父さんとの思い出は嫌な事ばかりじゃない。
他にもお父さんとの楽しい思い出がきっとあったはず。
「その缶コーヒーと同じだよ。文字や言葉って大切なんだ。それだけで買うきっかけになるし美味しいだろうと思ってしまう」
さっきの僕みたいにね、と編集長は笑う。
(確かに……)
「編集長ってば、まだ飲んでもいないのに美味しいって決めつけましたもんね」
思い出してまたプッと笑ってしまう。
「うん。やっぱり君は笑った顔の方がいい」
「編集長も、ですよね?」
「よく分かってるね」
私達の笑い声が編集部に響き渡る。
編集長に相談して良かった。
昨日の私だったら、ただ言葉を伝えようって……信じてもらおうって、それしか考えてなかった。
でも今は違う。
「あのっ、ありがとうございました! 私、これからサン・フイユに行ってきます!!」
(少しでもキッカケを作って、圭吾さんに思い出してもらいたいっ)
私は鞄を手にし、編集部の入口へと向かう。
「あ、行く前に斎堂寺にも寄るようにね?」
「え?」
(あ、そっか……)
「はい! 栄慶さんにもお礼を言いに行ってきますっ」
「違う違う。それ室世君の勘違いだから」
(勘違い……?)
意味が分からず、私は首を傾ける。
「昨日、栄慶君が君を制止して連れ帰った意味、だよ」
「それは……あの時、圭吾さんに言っても困らせるだけだって、栄慶さんは気づいていたからですよね?」
「違うよ」
編集長はキッパリと否定する。
「君がそんなんじゃ彼、常に気が気じゃないだろうね」
「はい??」
全く意味が分からず、さらに首を傾げる。
「彼が心配していたのは、信じてくれなかった事に気づいた、室世君を見たくなかったからだよ」
(え?)
「口下手だからねぇ……〝お前を傷つかせたくなかった〟なんて、けっして言わないだろうね~」
「――っ!!」
まさか、栄慶さんがそんなこと思ってたなんて……そんな事……。
私は左右に手を振って否定する。
「え、栄慶さんがそんな事、思うはずないじゃないですかっ」
「じゃあ、なんで彼は店まで行ったんだろうね」
〝やっぱりここにいたか〟
そう言って栄慶さんは店に入ってきた。
「電話で止める事だってできたのに、わざわざ店まで行って連れ帰ろうとしたのはなぜかな?」
「そ、それは……」
「二人きりにさせたくなかった、っていうのもあるかもね~?」
「――っっ」
「まだ分からないかなぁ? 彼は君の事……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
耐え切れず編集長に向かって両手を付き出し制止する。
落ち着け……落ち着け私!
ドクドクと波打つ鼓動を落ち着かせようと、同じ言葉を繰り返す。
「あの、えと……、と……とりあえず斎堂寺に行ってきます!」
「ん? そうだね。こう言うことは本人の口から言った方がいいからね」
「そ、そうじゃなくてっっ、心配かけた事に対するお礼をしに行くだけですからっっ!」
私はこれ以上何か言われる前に……と、慌てて編集部を飛び出した。
一通り話し終えた私は、編集長に意見を求める。
「……そうだね、確かに視えない人にとっては君が言った言葉が真実かどうかなんて判断する事はできないだろうね」
彼は顎に手を当てながらそう答えた。
私は膝に視線を落とし、持っていた缶コーヒーを強く握りしめる。
やっぱり圭吾さんに何もしてあげられないのかな……。
「でも、すべてを信じてもらう必要ってないんじゃないかな」
「え?」
顔をあげると、彼は優しい笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「きっかけを作ってあげるだけでも良いと思うんだ」
「君がお父さんの事を伝える事で、また繋がりができるかもしれないよ?」
「繋がり……ですか?」
「人はこの世から居なくなっても存在したこと自体無くなったわけじゃない。その人との思い出は記憶に残ってる」
「それを思い出すキッカケを作ってあげるだけでもいいと思うんだ」
圭吾さんとお父さんとの……思い出?
「亡くなってから気づく事だって沢山あるんだ」
「今は目を背けて気づいていないだけ。少しでも信じてもらえれば、それがキッカケとなって思い出すかもしれない」
――――ふと、壁に飾ってあった写真を思い出した。
笑顔で写っていた少年の頃の圭吾さん。お父さんとの思い出は嫌な事ばかりじゃない。
他にもお父さんとの楽しい思い出がきっとあったはず。
「その缶コーヒーと同じだよ。文字や言葉って大切なんだ。それだけで買うきっかけになるし美味しいだろうと思ってしまう」
さっきの僕みたいにね、と編集長は笑う。
(確かに……)
「編集長ってば、まだ飲んでもいないのに美味しいって決めつけましたもんね」
思い出してまたプッと笑ってしまう。
「うん。やっぱり君は笑った顔の方がいい」
「編集長も、ですよね?」
「よく分かってるね」
私達の笑い声が編集部に響き渡る。
編集長に相談して良かった。
昨日の私だったら、ただ言葉を伝えようって……信じてもらおうって、それしか考えてなかった。
でも今は違う。
「あのっ、ありがとうございました! 私、これからサン・フイユに行ってきます!!」
(少しでもキッカケを作って、圭吾さんに思い出してもらいたいっ)
私は鞄を手にし、編集部の入口へと向かう。
「あ、行く前に斎堂寺にも寄るようにね?」
「え?」
(あ、そっか……)
「はい! 栄慶さんにもお礼を言いに行ってきますっ」
「違う違う。それ室世君の勘違いだから」
(勘違い……?)
意味が分からず、私は首を傾ける。
「昨日、栄慶君が君を制止して連れ帰った意味、だよ」
「それは……あの時、圭吾さんに言っても困らせるだけだって、栄慶さんは気づいていたからですよね?」
「違うよ」
編集長はキッパリと否定する。
「君がそんなんじゃ彼、常に気が気じゃないだろうね」
「はい??」
全く意味が分からず、さらに首を傾げる。
「彼が心配していたのは、信じてくれなかった事に気づいた、室世君を見たくなかったからだよ」
(え?)
「口下手だからねぇ……〝お前を傷つかせたくなかった〟なんて、けっして言わないだろうね~」
「――っ!!」
まさか、栄慶さんがそんなこと思ってたなんて……そんな事……。
私は左右に手を振って否定する。
「え、栄慶さんがそんな事、思うはずないじゃないですかっ」
「じゃあ、なんで彼は店まで行ったんだろうね」
〝やっぱりここにいたか〟
そう言って栄慶さんは店に入ってきた。
「電話で止める事だってできたのに、わざわざ店まで行って連れ帰ろうとしたのはなぜかな?」
「そ、それは……」
「二人きりにさせたくなかった、っていうのもあるかもね~?」
「――っっ」
「まだ分からないかなぁ? 彼は君の事……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
耐え切れず編集長に向かって両手を付き出し制止する。
落ち着け……落ち着け私!
ドクドクと波打つ鼓動を落ち着かせようと、同じ言葉を繰り返す。
「あの、えと……、と……とりあえず斎堂寺に行ってきます!」
「ん? そうだね。こう言うことは本人の口から言った方がいいからね」
「そ、そうじゃなくてっっ、心配かけた事に対するお礼をしに行くだけですからっっ!」
私はこれ以上何か言われる前に……と、慌てて編集部を飛び出した。
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