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青色の世界と黄金の鎧騎士

特訓と夜と

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それから氷道が『青色の世界ブルーワールド』までの道のりで鎧騎士アーマーナイトに遭遇し戦闘になり、足場を破壊され二手に分けられた経緯を話した。
ライは、氷道が話し終わると、なるほど、と頷くと、
「それはとても大変で御座るな」
まるで他人事のように言った。いや、実際他人事なのだが。
「わたしたちはなんとか広太たちに合流して『青色の世界』に辿り着きたいのだけど、そこまで案内してくれるかしら」
氷道は、この列車なら広太たちの一行に追いつくことは可能だと判断したのだろう。もし、モンスターがまた現れてもライが対処してくれるであろうし。
ライは頷き、
「それはもちろん問題ないで御座る」
敦也たちは、ほっ、と息を吐くと、
「…………と言いたいところだが、『青色の世界』には今は行けないので御座る」
ライがそう口にした。
氷道は予想外のライの返事に戸惑いながら、
「なんでですか?」
訊いた。
「敦也殿たちが遭遇した鎧騎士は集団で生息し、大きな城のような拠点を作るで御座る」
「つまりここら辺に鎧騎士の城があるってことなのか?」
「そうで御座る」
敦也は自分でそう口にしながら、内心では敦也と凜の二人がかりですら倒せなかった鎧騎士が大量にいる城が近くにあるということに恐怖していた。
ライがあの場所に来てくれていなかったら氷道は鎧騎士にやられていたかもしれない。敦也は動けなくなり能力も発動せず、凜は傷ついた身体を限界まで酷使して、けれど倒せなかったのだ鎧騎士を。
自分たちにはまだまだ決定的な何かが足りないことを感じていた。
「どうすれば『青色の世界』まで行けますか?」
「簡単な話さね……鎧騎士の城を潰すので御座る」
氷道の問いかけに、ライはただそう言った。その口調は本当に簡単なように思わせるが、内容はとても難しかった。
「え、そんなことができるのですか!?」
いつも冷静な氷道でも、今のライの発言には驚いたらしく声を上げていた。
それに対してのライの答えは、
「なんとかなるで御座るよ」
と、テキトーな感じだった。
「とりあえず、今日は三人とも休むで御座るよ。長旅で疲れてるで御座ろう」
察したシルクハットにスーツ姿の乗組員Aの少女が立ち上がり、
「それでは、わたくしがそれぞれの部屋まで案内するので付いてきてください……ちなみにわたしは幽輝と申します。以後お見知りおきを」
乗組員A改め幽輝が会釈すると、列車を運転していた乗組員Bが声を荒げながら、椅子を回転させてこちらを向いて、
「おい、幽輝なに自己紹介してんだよ! 俺の名前は操介だ! 乗組員Bなんかじゃないからな!」
日焼けしたような茶色の肌が特徴の乗組員B改め操介が名乗る。
「彼の名前はべつに忘れても構いませんよ。わたくしも覚えていませんから……お惣菜くん」
「誰がお惣菜だ! 操介だ! 人の名前ぐらい覚えやがれ、このユーフラテス川が!」
「そのユーフラテス川がどこにあるかを覚えてから、また来てくださいね」
幽輝と操介は訳の解らない言い争いをしてから、幽輝が氷道たちに、こちらです、と案内すると、
「あぁ、敦也くんは残るで御座る。氷道殿と凜殿は先に部屋に案内するで御座る、幽輝」
「かしこまりました」
立ち上がろうとした敦也をライの声が制止させて、敦也は椅子に座り直させた。
「じゃー、敦也くんわたしたちは先に行ってるから……敦也くんもゆっくり休んでよね」
「先輩、先に失礼します……力になれなくてすいませんでした」
氷道と凜がそう敦也に告げてから、幽輝に案内されこの部屋を出ていった。
彼女たちが部屋からいなくなってすぐに、ライは口を開いた。その声の色と口調は先程までとわずかに違い、初めて真剣さが入っていた。
「正直に言えば、今すぐにでも君たちを『青色の世界』にまで運ぶことができる。だけど、拙者はそれをしなかった。それはなぜがわかるで御座るか?」
「……解らねぇよ。今すぐ『青色の世界』に連れていけるならなんでそうしなかったんだ。鎧騎士がいて無理なんじゃないのか?」
ライの問いに敦也はわずかな苛立ちを感じながら素っ気なく答える。ライの今の行動の真意が解らなかったのだ。
「はっ、鎧騎士や鎧騎士の城なんて俺と幽輝、ライの姉貴がいればあっという間にぶっ倒せるんだよ……あんたとはレベルが違ぇんだよ」
操介の言葉に、敦也はたしかにそうだと思った。
鎧騎士を一瞬で倒したライ。彼女は夢猫の中でかなり力の強いメンバーだ。なんせ元攻略組のメンバーなのだから。その彼女とともにいる幽輝や操介が弱いと敦也は思えないのだ。
「なに言っている操介……お前もまだまだ弱いだろ。拙者に比べれば」
「ライの姉貴と比べられたら、そりゃー俺はまだまだ弱いさ。でもよ、こいつの十倍は強いと思うぜ」
操介が敦也を指さして言う。まさか、と敦也は思う。さすがにそんなに差はないと思った、しかし、
「んー、操介と敦也殿ならたしかに操介が十倍ぐらい強いのかな」
「まじかよ」
敦也は自分の力がそれほどまでにまだまだ足りないことを辛く感じた。
「それほどまでに敦也殿と凜殿は弱いので御座る……」
そう敦也と凜は弱いのだ。
「だから、」
けれどそれは“今は”にすぎない。
「君たちには、」
未来は誰にだってわからない。
「ここで、」
その不確定な未来を変えるために、
「拙者のトレーニングをみっちり明日から受けるで御座る……楽しみに待っているで御座るよ」
弱いままの自分を許せるほど自分はもう弱くはないのだ。
「断る気はないで御座るよね?」
「あぁ、どんなトレーニングでも乗り越えてやるぜ!」
敦也は新たな初めての師匠に覚悟を言い放った。





トオンの峡谷の終わりに彼ら彼女らはいた。
男女の四人組である。
先頭を歩く少年は常にまわりに気を配りながら道を歩いていた。
その少年の名は辰上広太。ギルド・『夢見る猫たち』に所属している。彼の長所である嗅覚と聴覚で、モンスターの気配があるかどうか確認しているのだ。
本来この一行にはさらに三人いたのだが、トオンの峡谷の中腹にて三ツ星のモンスター・鎧騎士に遭遇してしまい、二手に分断されてしまったのだ。
広太は、崖に落ちていった敦也・凜・氷道が生きているということを氷道からリングでの連絡が来るまでかなり心配していた。空・七海・真奈が姿を消してしまったとき彼は自ら死のうとしていたのだ。二手に分断されてしまっても、仲間が無事であることを知り、広太は少しずつだが元気を取り戻してきたのだ。
それは広太だけには限らない。
空だってそうだった。生前に誰かを失い続けた彼は、誰かを失うことの辛さ・悲しみ・怒り・絶望を知っている。敦也たちが崖に落ちていくなか彼は能力のバリアで足場を作り、七海と真奈を救えたが、敦也たちを救えなかったのを悔やんでいた。
落ちていって死んでしまうかもしれない。鎧騎士も落下していたから、敦也たちが生きていられる可能性はかなり低いと思っていたのだ。
彼は敦也や凜より戦闘には馴れている。生前に彼も人を傷つけてきたのだから。戦力差やピンチの打開策など彼は多く知っているのだ。
敦也と凜はまだこの狂暴なモンスターが数多といる『閉ざされた世界』に来てまだそんなに月日は流れていない。モンスターとの戦闘経験もピンチの回数もまだまだ少ない。
たしかに二人とも力は有望である。この世界に来ていきなり自分に適合した神器を手に入れた凜とこの世界に来ていきなり三ツ星のモンスターをぼろぼろになりながら倒した敦也。鍛えれば必ず強くなる二人だった。
その二人を失うのが怖かった。優しくて、いつも明るく元気な二人が死んでしまうのが。
だから、敦也と凜が生きていることを知ったときから彼の顔にはにやけた表情が消えなかった。それほどまでに彼らが生きていてくれたことが嬉しかったのだ。空からすればまるで兄と姉のような存在なのだから。
空以外にもあと二人いる。七海と真奈だ。
彼女たちツインフローズンアイスの要といえる氷道が崖に落ちていくのを見ながら、彼女たち戦慄して思い出した。彼女たちが平和にギルドの壁の内側に暮らせていたのは、ギルドの仲間が狂暴なモンスターと戦ってくれていたということを。
ボーカルである氷道を失えばツインフローズンアイスは解散である。ツインフローズンアイスはツインボーカルだが、あくまでメインは氷道なのだ。彼女が作り、彼女が集めたメンバー。彼女がいなければ、七海も真奈もこの死後の世界でまたライブができることはなかったのだ。
だから、氷道が生きていることを知ったとき、彼女たちは強く喜んだ。まだツインフローズンアイスでいられる、また氷道とツインフローズンアイスの仲間とライブができると。
空はもう黒く染まり始め、二つの太陽は暗闇にのまれ、大きな暗闇を照らす光を放つ二つの月が現れていた。
「……よっしゃ、ゴール!」
広太がトオンの峡谷のからアシウスの草原に一歩踏み入れて、両腕を高く上に伸ばした。
続いてアシウスの草原に入った空が、右へ左へと視線をめぐらせて、
「大丈夫、モンスターの気配はしないよ」
と言った。
「疲れたよな七海と真奈も。今日はもうゆっくり休んでくれ」
広太が首を後ろに回して、アシウスの草原に入った七海と真奈にそう言う。
七海が服の襟でばさばさと仰ぎ風を送りながら口にして、
「ほんとだよー……わたしもうくたくたー」
すると、隣で七海の手を握っている真奈が小刻みにこくこくと頷いた。
七海と真奈は、氷道と同じく戦えない非戦闘員だが、広太と空にちゃんと付いてきた。彼女たちは付いていくだけでも疲れるのだろう。長い道のりをずっと歩いていたのだから。
広太と空も、鎧騎士との思わぬ戦闘があり体力を削られてくたくただった。
ただ『青色の世界』まで行くという簡単な仕事のはずなのに、彼らは予想以上の疲労を身体に感じていた。
広太と空がリングの力でテントセットを召喚して、あっという間に完成させて七海と真奈をテントに案内した。
彼女たちも明日また歩くことになるから、体力をしっかり回復させといたほうがいいのだ。広太と空は時間制で交代して見張りをするらしく、先に空が岩場に背を預けて目を閉じていた。
広太は、お手製のシークワーサーの缶ジュースを飲みながら、テントの中を覗き込んだ。
テントの中では、七海と真奈はもう眠っているらしく、可愛らしい寝顔を浮かばせながら小さく寝息をしていた。彼女たちには少し無理をさせたな、と反省しながらテントを閉じて、空が背を預けている岩場の上に座った。
月光と星の輝きががアシウスの草原に生い茂る草や数本の樹、たまに見える岩場を照らしていた。いつもと違う星空を眺めながら、広太は脳裏で彼女に声をかけた。
『なぁ、人狼女王クイーンいるか?』
『我が主よ、どうしたのだこんな時間に』
広太の呼び掛けに答えて、脳裏に女性のような声が響く。
人狼女王。それは広太が操る神器・《群牙狼ウルフルズ》の中にいる力の源である。
『悪かったな死のうなんて考えて……人狼女王が俺にずっと死ぬなって言ってくれていたのに、空に叩かれるまでそれが受け入れられなかったんだ』
『何を言うかと思えば、我が主よ。わたしはべつに怒ってはおらぬ。ただな自分の命をあまり簡単に切り捨てようとしないでくれないか。我が主が死ねば、当然だがギルドにいる仲間は皆悲しむだろう……そしてもちろんわたしもだ』
『……そうだな』
『我が主よ、忘れるでないぞ。いつも常にどんな時も何があろうとも、わたしは我が主の心の中にいるのだぞ』
『あぁ、わかってる』
『だから、我が主よ。力が欲しくなったらいつでもわたしを呼べ。わたしは我が主が死ぬのが嫌だからの』
『……俺も死ぬのは嫌だよ。そして、俺の仲間が死ぬのも嫌だ。だから、しっかり仲間を守れる力が欲しい。俺もまだまだ弱かったんだ。このチームで敦也と凜をフォローするために、俺や空がいるんじゃないんだ。皆で支え合うんだ。そのためにまず俺がこのチームを引っ張るに値する力を持つ。そうしなきゃ始まらねぇ』
『我が主よ、解っているじゃないか……強くなれ』
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