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あやかしと神様の過去のこと

1☆宮中出仕禁止命令

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「宮中に葛葉子を連れてはいけない。」
 陰陽寮長官の瑠香の父は神妙な顔をして言う。
「阿倍野殿の呪詛が葛葉子に、どのようなものなのか見当がつかない。危険だ。」
 という事だった。
 葛葉子はその言葉に青ざめて仕方ないというように黙るしかなかった…
 宮中に危険な者を入れては後に惨事が起こることを危惧しての命令だった。葛葉子もそう思う。

「だけど、危険だからと、家に置いていくのはもっと危険だ!」
 瑠香は父の命令に逆らう。

「オレやハルの傍にいたほうが安全だよ!イザとなった時に止められるもののそばがいい…それに、オレが葛葉子のそばにいないと落ち着かない!」
 そう必死に言ってぎゅっと葛葉子を抱きしめる。

「る、瑠香…」
 第一にお守りするのは祝皇陛下というのは分かっているが、瑠香は葛葉子なしでは落ち着かないのは父が近くで見ていてよくわかる。
 心配で仕事にならないだろう。
 宮中を守る神の化身で審神者なのに不謹慎だと思う。

馬鹿息子が……
 と思いながら諦めた。
 自分もまだまだ甘い…

「では、中務の宮にお伺いをしてから考えるか…」

あのお方のことだから

「いいんじゃないかな?」
(楽しみが増えそう!)

 とか言うに決まってるが…


 そして、陰陽寮長の思っていたとおりになった。

「ほんとに申し訳ないです…」
 葛葉子は陰陽寮長に深く頭を下げる。
「謝ることはない。」
 鋭き瞳を困ったように和ませて、

「私も迷っていたのだから。
 家に置いていけば阿倍野殿が何かしら仕掛けてきても困るし…」

 霊力も知識もない二人は気づかないうちに操られてしまうかもしれない。

「お母さんや、お姉さんに迷惑かかるからと家から出て行来かねんしね。」
 そして、結局阿倍野殿につかまると…
 威津那の『先見』の的中率を知る陰陽寮長は確実に葛葉子を奪い何か仕掛けると確信している。
 葛葉子を奪われれば確実に皇室に何か仕掛け災いを起こす。
 先見の予見を防ぐ、和らげるには陰陽寮がいちばん安全だ。

 悪しき占いを寿ぎ変えることが陰陽師の役目でもあるのだから。

「ならば、中務の宮命により陰陽寮で葛葉子を監視しろということなのだよ」
「そ、そうだったのですか…」
 監視というより守られていることに近いと思うとなおさら申し訳ない。
 そんな葛葉子の思いを陰陽寮長は読んで心苦しいが、

「監視はずっと続けてきたことだがな…
 葛葉子は阿倍野殿の娘だからな…私はずっと疑っていたのだよ」
 とバラした。
 耳が出てたら、しゅんとしているだろうなとおもって、瑠香は葛葉子を抱きしめる。

「それが、陰陽寮長の義務なんだから落ち込まないで」
 東は葛葉子の手をとって慰める。

「それにね。ハルも帰って来るの楽しみしてたしね。
 僕も学友で部下で護衛の葛葉子に会いたかったしね。」
 そのお言葉に葛葉子は瞳を潤ませて
「ほんっつとに申し訳ないですし、ありがとうございます!」
 深く礼をとる。

「それに、秋は陰陽寮は神職も兼ねて大変忙しくなるから勤めをおろそかにしないこと。」
 中務の宮らしく、業務命令を忘れない。

「あと、次の学期は前の学校継続することになったからね。」

「ほんとうですか!?
 わーっ!久美たちとまた会えるんですね!」
 葛葉子は満面のよろこびをあらわにする。
 謹慎処分であやかしの噂がある学校の転入は禁止になってしまったせいでもある。
 あやかしの少なかったあの学校に留まることに決まって東は残念でもある。

 東はにこやかだった表情を改めて、葛葉子の手をぎゅっとに握り、
「厳しいこと言うかもしれないけれど、操られて、陛下に害をなすと判断した時は、潔く宮中の仕事全般辞してもらうからね。」

「はい!そうならないように勤めます!」
 その言葉には迷いはない。
 すでに陛下に害をなすなら死ぬ覚悟もできている。
 神狐になった九尾の狐も許さないだろう。
 その、容赦なしの神の神罰は経験積みでもある。

「なら、良しだね。」
 東はまたにっこり微笑んだ。
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