上 下
55 / 181
あやかしと神様の狐の嫁入り

8☆嫁当てのキス

しおりを挟む
《狐と後尾させられる!》

 と葛葉子の必死な思いを、瑠香は聞いて護衛も忘れて一人猛スピードで駆け出し襖を蹴り飛ばしていた。

「何者だ!お前は!」
「なんで人の子が!?」
「いや、ほんとに人か?」
「つまみ出せ!」
 突然の乱入者に狐たちが騒ぐ。

 息を切らせながら審神者の瞳をきらめかせ、怒りを込めた拳で柱を叩き、狐たちを黙らせて

「葛葉子は、オレの嫁だし!後尾をしていいのはオレだけだ!」
 本気で宣言する。

「る、るかのバカっ!恥ずかしいこと宣言すんな!」
 人だったら顔を真っ赤にして抗議していた。
 葛葉子だとバレて動けるけれどキスをしていないから狐のままだ。

 瑠香は狐たちに一斉に睨まれる。威嚇され一斉に襲いかけられたが、瑠香の能力のお香が狐たちを捉えて無傷だ。

「ほう……強いな」

 葛葉子に前足を向けているウカ様と瞳が合う。
 瑠香は審神者の瞳でウカ様をみる。
 かなりの神力のあるあやかしだとわかる。
 それに、古キツネに神に仕えたことがあるのかと、審神者の瞳は力量的神力がわかる。

「神の化身で審神者の香茂の陰陽師か」
 ウカ様はすぐに瑠香を見抜くと不敵に笑う。
 
 葛葉子を静かに開放すると、周りを霧に隠して、顕にすると、皆同じ花嫁の格好をした狐にしてしまった。
 狐は騙すのが好きだ。

「お前の嫁だというのならば当ててみろ。」
「ふん!一発で当ててやる!」
 瑠香は自信たっぷりに宣言する。

「では、証拠を見せてみろ……」

 簡単だ。
 一匹の狐の着物の襟首を掴んで持ち上げて、瞳を見つめる。
 瞳が大きく潤んでいる。
 瑠香はこの狐が一番可愛いと思う。
 だって葛葉子だから。

(ほんとに私だと当ててくれるなんて……さすが神様だな)
《神様だからじゃないぞ》

 瑠香からキスをする。
(狐のくちづけは嫌なはずなのに……)
 ドロンと煙が出ると人に戻る。
 着物はそのまま人のサイズになって違和感ない。さすがあやかし用の着物だった。
 
「ちっ!」
「なんで舌打ちするんだ?」
「裸になるかと…期待少ししてたのに……」
「瑠香のスケベが!」
「ふふっスケベでいいんだよ…」
「んッ……」

 もう一度くちづけをする。
 一日ぶりのくちづけはやっと瑠香の心を落ち着かせた。

「また人間に愛を見せつけられるとはな……」
 ウカ様はふぉっふぉっと豪快に笑った。

 狐たちは困惑とざわめきが収まらない、
「この結婚式どうなるんだ?」
「どうせ、結婚したくなかったんだろそこの婿狐も…」
 正座してうつむいていた荻尾に瑠香はいうが、
 俯いていた頭を上げて、

「ちがう、萩姫でなくては!いやだ!」
 狐だけど凛々しい顔が真剣に瑠香を見て否定する。

「なら、どうするのだ?」
 ウカ様は唸るような声音を出して問う。

「萩姫を向かえに行きます!」
 荻尾が飛び出して向かえに行こうとすると、

「その必要はないよ!」
 東と臣外気を切らせながら現れた。

「何も言わずに駆け出すな!」
 臣が怒る。
 あやかしに襲われたのか制服がボロボロにされている。

「瑠香!護衛は義務なのに!あとで制裁だからね!」
東は無傷だったが、走らせて申し訳ないと思うし、どんな制裁も受ける覚悟はある。

「ほら、隠れてないで婿にあっておあげ」
 優しく促されて東の後ろから萩姫が顔をのぞかせる。

「荻尾さま。わたし……あなたの気持ちがわからなくて怖かったのです。
他の狐と同じように誰でも良かったのかと思って、嫁いでもどうでもいい狐になるのかと思って……」
声を震わせ、耳を後ろにおり、今にも泣き出しそうだ。
そんな萩姫を荻尾は前足で抱きしめて、

「いざ、結婚となって当然のように萩姫が嫁いでくるものだとおもったのに、萩姫ではなく、他のメギツネで絶望した。誰でもない萩姫が良いと思った……」
 二匹寄り添う。
 思いが通じあった二匹は愛をみなの前で証明する必要はない。

「荻尾様みたいに優しい狐で良かった。」
「私も萩姫のようにおしとやかで優しい狐がよい」

「瑠香の神の化身では身が持ちません!」
「葛葉子のような強いおなごでは喰い殺されてしまう」
 二匹は瑠香と葛葉子を見て微笑む。
「あの二人はお似合いだ」

「だろう?わかってるではないか。」

 瑠香は不敵に笑って葛葉子をさらに抱き寄せ離さない。

「わかってない!私だってゴメンだ、このスケベなんて!」
「このまま交尾してやってもいいんだぞ」
「んなっ!ほんっとスケベ!変態!バカッ……っ!」
 おでこにキスをして見せつけてやった。
《これで勘弁してやるからおとなしくしろ》
「あーいつもの二人が始まったよ」
「熱い上にお熱いねぇ。まぁそれがいいところだよね」
 臣と東もやっと安心したのだった。
 丸く全てが収まったのを見守った、ウカ様は満足そうに、ふぉっふぉっと大きく笑うと

「宴だ!宴だ!皇族さま、神様の、人の子らも祝福に加わるが良い。無礼講じゃ!」

 盛り上げ上手なウカ様の雰囲気に狐たちも気を取り戻し、二匹の祝言を再び盛大に祝い出すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

島アルビノの恋

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)
恋愛
「あのなメガンサ。ライラお兄ちゃんを嫁入り先まで連れていくのはワガママだ。だいたい実の兄貴でもないのに何でそんなに引っ付いているんだ。離れろ、離れろ。ライラにも嫁が必要なんだぞ」 「嫌だ。ライラは私のものだ。何処でも一緒だ。死ぬまで一緒だ」 「お前に本気で好きな人ができたらライラは眼中になくなるさ」 「僕はメガンサのものだよ。何処でも行くよ」 此の作品は、自作作品『毒舌アルビノとカナンデラ・ザカリーの事件簿』の沖縄版二次作品です。是非、元作品と共にお楽しみくださいね。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...