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4☆陰陽師の名家

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 瑠香は狐巫女に近寄ったついでに無意識に耳を触る。
 耳を触ると、触るなという意思表示なのか、耳を後ろに下げる。
 ふさふさのしっぽも本物。

 まさか本当にこんなあやかしがいるとは未だに信じられない気分だ。
 瞳を見れば金色で人ではありえない。
 白銀の髪も本物だ。
 半年前は漆黒の黒髪で瞳も金ではなかった。
 瞳は少し薄い茶色だった…
 けれど、半年前に恋した少女には変わりはないと感じる。

「お前、なまえは?」
 あの時、人であった時の巫女の名前を聞けなかった。
 狐巫女は少し名を名乗るのを考えためらいながら、
「くずはこ」
「くずばこか?」
「言われると思った。」
阿倍野葛葉子あべのくずはこだ。」
「阿倍野……晴房の家のものか」
 瑠香は思い当たり言う。
「知っているのか?」
 葛葉子は驚いて目を見開く。
「オレは香茂瑠香かもるか。同じ陰陽師の名家の生まれだからな」
 陰陽寮の物は狩衣が仕事着だが今日の瑠香の格好は衛士の装備だ。
「香茂家か……だから不思議な力が使えるのか……」

 葛葉子も香茂家のことは知っている。
 陰陽師の一族で知らないものはいない。
 お互いに同じ家系ということでさらに警戒が解ける。
 本来ならば香茂と阿倍野は千年も前から緊密な関係だからだ。
 血縁になったことも多々ある。
 香茂はお香を操る力を男子が受けつく。
 互いの家を知れば不思議はなくなった。
 阿倍野は狐の巫女の家系であったので、葛葉子が狐に助けられ今の状態なのも納得がいった。
 巫女でなくても阿倍野には、たまにこういう人外な姿ものが生まれるとも聞いたことがあった。
「それにしても…帝の口づけをねだるとは、まるで、『九尾の狐』みたいだな…」
 瑠香は率直に思う。
 葛葉子はムッとする。

「それとは違う。あれは本物の大妖怪だ。神狐と一緒にするな!」
 千年の昔、帝をたぶらかし、封印されたという。

 葛葉子に宿った狐は尻尾は一本だ。

「そういえば阿倍野家はいま陰陽寮に身を置いていないな」
 晴房が生まれてから当主は陰陽寮を辞した。
 
「私しかいないからな。本家のものは……」
 葛葉子は深刻な顔をして考え込む。

 父が宮中を辞した理由は表には出さないが、父は復讐に狂ってしまっている……
 元当主の祖父が懸念するほどに……
 理由はハッキリしている。
 葛葉子の姉、房菊ふさぎくは祝皇御わす宮中の神聖な神殿で、巫女でありながら子供を産み落とし死んだ。
 国を転覆させる一大事だった。
 神殿を汚すことは神々を穢すこと。
 国に最悪な災いをもたらすかも知れなかった。
 神をも恐れないレッドスパイの計画だったらしい。
 けれど、実際に何があったかその場にいたもの、神職しか知らない。
 他言すれば死する神の目が光る。
 世間に知らされず死んだ。
 遺体すら戻ってこなかった……いや、神がその身を浄化させる為に消したのだと、父は言っていた……

 神殿で産み落とされた子供はこの宮中を守る最強の神の化身として生きている。
 それが晴房だった。
 噂には生き神とも言われるほど人離れした力を持っている。
 晴房は穢の罪として生まれたが、ハルの神というアマテラス大神の守護の神と魂の契約をし、許され、いずれ大人になれば陛下をお守りする最強の守護者に成長することだろう。
 父の阿部野威津那は孫の晴房を、真逆の存在に育て上げ、皇室を滅ぼし新たな、神の皇にしようと画策している事をあやかしの身になって知った。
 それ以来、白狐になり皇に誓をたてた葛葉子は阿倍野家に戻っていない。
 いや、この身が白狐になったことを知れば二度も娘を死なせたことを知り尚更憎しみ狂うことになると白狐は警告するのだ。
 ならば分からない……知らない方がまだ良いと判断を白狐に、制されていると葛葉子は感じそれに従っている。
 あまり表に白狐は出ないが、肝心なところに行動範囲が狭ばれてしまう。
 そして、自分自身、親元に帰りたい……と言う気持ちすら曖昧になり、記憶も曖昧になるのだ……
 それが白狐になり生きながらえさせられる状況であった。

 葛葉子は改めて瑠香をじーっと見る。
 そして狐の耳をぴくっ!と立てる。
「んん?思いだした。おまえ、私と一緒に晴房を探したか?」
「やっと思い出したか。」
 思い出されて瑠香は、ほっと微笑む。

 半年前巫女であった葛葉子は神職ではない男と近くにいてはいけないのに必死になって晴房を探した。
 その理由は白狐になって忘れてしまった……
 同じく晴房を探していた瑠香は雨にぬれてもでも一緒に探してくれた。
 袴に躓きそうになった時、瑠香が支えてくれた。
 男に慣れてなくて恥ずかしくて、まともに顔をあまりみていなかったが、
(綺麗な男の子だな……)
 という印象はあった。
 葛葉子はあまりみていなかったが、瑠香は葛葉子を晴房を、探している間ガン見していた。
(出会って一目惚れをしたと言ったらなんて思われるだろうか……)
 と思うと恥ずかしくなる。
 さらには、その巫女の葛葉子を支えた時に、瑠香を依代にする神が気まぐれに、葛葉子と幸せな未来を見せるものだから、この巫女をどうしても妻にしたいとも思わせた。

 別れた後も、いつか必ず逢える….と確信はして色褪せた時間を今まで過ごしてきた。
 だが、再び出会った彼女はあやかしになってしまったなんて……

(それでも運命的な出会いとしか思えない!)

 瑠香はいろいろ神経質でありながらポジティブ思考の持ち主だった。
 そして、腕を組んで考える。
(あやかしと神(依代)と付き合えるなんてきいたこともないけど、神もあやかしも紙一重、悪くない。むしろ良い関係だ!神の化身であるオレは葛葉子以外とは付き合えない!そうに決まってる。)
 もう、瑠香は葛葉子と付き合う気満々だった。
 そして、灰色だった世界は色とりどりの薔薇色の世界に思えて恋というものは素晴らしい!と感動する。
 葛葉子の気持ちも確認しないで一人で妄想してしまっている。
 未来は自分の妻になる女だと思っているから葛葉子の気持ち考えていないのかもしれない。
 
「あ、たぬさん!」
 悶々と妄想繰り広げ考え込む瑠香をよそに、葛葉子は近づいてきた、たぬきを抱き上げて抱擁する。
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