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思い募る
2☆明綛と晴綛を想う
しおりを挟む無限に湧き出る瓢箪酒は米で発酵された極上の日和酒だった。
神もあやかしも人も平等に体に適度の酔いを回らせる。
あやかしと神の化身とはいえ人の身の流花とはさしの勝負ができた。
互いに顔が赤い。
「わたくしは、まだまらいけますわよ…ひっく…」
酒豪の八尾比丘尼も酔いが回っている。
「私だって……」
と言って流花は盃を煽る。
流花も酒豪だった。
秘密にしていたが酒盛りには自信があった。
手のひら大きさの盃が畳に広がる。
二人ともへべれけだった。
むしろウカ様は側近に酒の飲み過ぎを咎められずに飲み干しまくっている。
酔っていても、流花の頭は冷静に
(なんで、こんなに必死になってるのかしら……行方不明の夫を帰ってくるのをまっていなくちゃいけないのに……)
酔えば自分の立場を自問してきた。
(明綛を想っているのに……私を懸想してくれる義弟になった晴綛を…取られるのが嫌なんて……)
本心は好きだと言う想いをむしろ嬉しく思って知らぬふりをしてその関係を楽しんでいる……
晴綛の人生…恋愛や結婚など晴綛の勝手なのに……
どうしても他の女が晴綛に近づくことが許せない…それはそんなの単なる独占欲…なのに……
嫉妬が怒りが止まらなくなる……
八尾比丘尼が何か私に悪い事をしたわけではないのに……
喧嘩はふっかけられましたけれど……
「晴綛様を魂から求めているから苦しいのですわ……」
「えっ!なんで私の心の中を…読めるのですか?」
異界は作り出したあやかしに筒抜けと鬼女将に聞いた事を思い出し、しまった!と思う。
流花の心の中は表に出す己と違い、酷いことも普通に考える。
それが人の性というものだが……知られるのはバツが悪い。
「私にはあなたの気持ちが痛いほどわかりますわ……」
八尾比丘尼は仏のように優しく流花の手を取り微笑む。
それは人を試すようなイタズラな笑みではなく本来の仏に帰依した八尾比丘尼の容姿だ。
「ずっと待っているのは辛いこと…私も約束したお方をずっと待っているのですが……ずっと思い続けているのはとても辛い……」
八尾比丘尼はずっと一人の男性の転生を待っている。
その男と添い遂げることが望みだから……
けれど、
「その間に恋の一つや二つしてもいいと思ってしまいますわ。」
「恋….?一つや二つ…」
改めて他人に言われると考え込む。
明綛には互いに好き同士になったのが早かったのでこんなもどかしい気持ちにはならなかった…
一目見た時から魂も心も体も繋がってしまったのだから……
後先考えず、親族、世間的には大変な事をしてしまったけれど……
明綛の事は嫌いになったり、嫌なところを見たりしたことがなかった……
一緒に過ごした時間が情熱的で短すぎた……一生忘れられない短い思い出を刻んで帰ってこない…これないのだ……
比べて晴綛は明綛と真逆だった。
晴綛のことは嫌なところもだらしないところも遠慮ないところも見てきたのに…
家族を大切にしてくれる。
なんでも受け入れてくれる所が好きなのだ。
一緒にいて素の自分を出せるから……
でも….
明綛を裏切れないの……
私を愛しているからこそ、異界を彷徨うことになっているのに…その思いを裏切っていいのか…待ち続けたいと思う…
でも、晴綛のことも好き……とても…もっと受け入れてもらいたいし、受け入れたい…ずっとそばにいたい……
そのことが苦しい……冷静に考えれば感情が溢れてきてしまう。
「うーー……」
ポロポロと流花は子供のようにないてしまった。
「もーーーっ!なんなんですの!
恋敵の小娘が!可愛すぎるじゃありませんか!」
八尾比丘尼は流花をギュッと抱きしめる。
八尾比丘尼は本来母性が強い。
よしよしと大きな柔らかな胸に流花をやさしく閉じ込める。
それはもう抱きしめてもらえない母の温もりを思い出しどうしても子供かえりしてしまう。
「小娘なんかじゃありません!三子の母親ですぅぅ…」
それでも、意地でも抵抗する。
「もう、私にとっては子供に見えてしまいますよ……あなたは私のように永遠の命を持っていないのだから……後悔しないように人生を謳歌しなくてどうします?
神の依代であっても、宮中の巫女ではないのですから…」
「八尾比丘尼…さん……」
流花は初めて八尾比丘尼を尊敬してまともに瞳を合わせて、敬愛まで抱いてしまった。
『だけど、勝負はつけてもらうぞ。さぁ、最後にこの二つの盃をどちらか選べ。一つ一方は酔い潰れて眠る。一つ一方は晴綛を射止める事を約束する盃じゃ』
「じゃ遠慮なく。」
八尾比丘尼は直感で盃を選ぶ。
「残り物には福があると言いますし…」
「残り物といえど二分の一、意味はありません。晴綛の心を射止めるのは正々堂々でスゥー…」
一口飲んでその場に倒れ込み眠る。
「では、私はこちらをいただきます。」
流花は勝利の美酒を飲み干した。
『これで、今宵晴綛は流花のものじゃな』
ウカ様は満足げにニヤニヤ笑う。
『これで宿命の半妖になる子を身籠る準備はできたの……』
「え?」
「恋の告白も通り越して思う存分晴綛様を己がモノに…慰みモノにするのですよ?」
「晴綛をモノ扱いするなと言ったくせに何を……」
八尾比丘尼はすくっと起き上がってウカ様に寄りかかりながらウカ様と同じニヤニヤ顔だ。
「え??」
流花は意味がわからないけれど、体の異変に気づく……
「さらに男に体をどうしても触れさせたくなる薬を持っておきましたのよ」
「な、なんで、そんな事を……⁉︎」
「私が勝ったなら、晴綛様に盛ろうとおもって強いあやかしでも理性が効かないものを用意してましたの。彼の方意志が岩の山のように固く女を受け入れようとしませんからね」
八尾比丘尼は困ったようにため息を吐く。
何度も色気で迫ったのだろう……けれど晴綛はふり向かないのだ。
『恋愛ならもっと情熱的な方がよかろう?恋敵がお前の心を解放するように…』
「すべて演技、だったんですか?」
「半分本気でしたわよ?
けれど、私はもう一度生き別れた男の生まれ変わりを待ちたいのです…そのために永遠の命の呪いをかけられているのですから…」
「同じ気持ちじゃないじゃない……」
「だからこそ、あなたには待つという辛い思いはさせたくないのです…晴綛様も永遠の命を持っているわけではないのですから……」
八尾比丘尼は優しく微笑んで、流花を襖の外に追い出した。
あからさまに布団が敷かれ障子に囲まれた部屋に閉じ込められた。
「う………」
体が火照る感覚が強くなって、息が荒くなるのを感じる….
「んんっ……」
媚薬を盛られて自慰行為をしなくては気が済まないほどの強い薬に怒りと戸惑いを抱くのだった。
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