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あやかしと神様と男子校

6☆即身仏

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「ぎゃぁあぁぁあ!」
 葛葉子は男の低い声で思いっきり大きく叫び、後ろの壁まで素早く後ずさった。
「ミ、ミイラ!」
 涙目になって指差して怯える。

 それは、昨夜、瑠香と海外のホラービデオを借りて観たミイラそのものだったから本気でびびった。
 あやかしでもあるのに、そんなビデオを観て怖がる葛葉子を瑠香は面白がってからかった。
 でもあまりにも怯える葛葉子を、優しく抱き寄せてくれたことを思い出すとなんとか落ち着いた。

《どんだけノロければ気が済むのだ…》
 魂の中にいる菊は葛葉子の思考を見抜きため息を吐いた。

 本物のミイラで怖いといえど、恐る恐る見つめて観察する。
 いきなり動かれて、襲われないようにある程度の距離をとる。

「ミイラだから…死んでるんだよね……」
《これは、即身仏という、僧侶が行う苦行の死に方だ》
「即身仏…即身成仏とは違うの?」
《即身成仏は生きたまま悟りを開いたものこことだ。即身仏は生きながらミイラになって死んでこの世に留まるのだ》
「なんでミイラになってまで苦しい思いをして死ぬの?」
 神仏の理は巫女修行をしていたので基本はわかるが仏教のことはよく知らない。
 東殿下がいらっしゃたら嬉々として、教えてくださったかもしれないが、菊が代わりに説明する。

《天災とか疫病とかで苦しむ人々を救うために自分一人を犠牲に苦しむから、人々を救ってくださいと願うらしいの…本来ならば…》
 菊は葛葉子の魂から冷めた目でミイラになった紅葉を見る。
 流行り病でなくなる前に、すべての病は自らに降りかかるように願った過去をも見る。
 天狐になった菊は過去も未来も多少は見える。
 だが、自らに仕舞って葛葉子に告げない。
《さらに、悟りの境地、何も執着せず達観して、衆生を救うために、体をミイラ化させてブッタが復活する長い年月までその姿でこの世にとどまるというものよ。》
 紅葉の過去を見る限りそこまでの宗教心は、無かったと菊は分析する。
 そして、どうしても強い信念を持つものを思い出す。

《威津那こそある意味即身成仏よな……御霊を橘とともにこの世に残り祝皇の世を見守る努めを果たしてるのだから。》
「そうだよね…」
 父はあの世に、黄泉に逝かずこの世で陛下の御代を見守ってる。
 祝皇陛下の御代を支え護る神としてこの世にとどまっている。
 だが、この世にあるが異なる次元にあるらしく姿は現さない。
 神や幽霊が一般人に見えない道理と同じだ。
 ジジ様はあやかしを統べる阿倍野殿でもあり審神者で特殊な能力持ちなので特別異界を通って会いに行くことはできるが、この世とあの世はそれほどの隔たりがあるのだ。


「でも、変だよね…異界はあやかしでなくては作れないし…」
 葛葉子はそこが気になっていた紅葉に関する七不思議もあるくらいだ。
《普通なら悟り開いたら執着なくあの世に導かれるものだがの。》
 一度死んで、黄泉に行ったことを思い出す。
 目を閉じて覚めればあの世だった……
 瑠香も東殿下も一度死んだけれど黄泉に行かず蘇った。
 それは、まだ死の宿命ではなかったから……
 今、葛葉子が生きているのは『あやかし』だからだ。
 あやかしとは人の理の輪廻を外れただけで生きているのだ。

「ということは…まだ生きているの?やっぱり『あやかし』なの?」
 じっと、ミイラを見つめる。

『仮にも即身仏を成し遂げた私に向かってあやかしとは失礼な…』

 空間が木霊するように声が響いた。
 葛葉子は身構える。どこから現れるのか神経を菊とともに研ぎ澄ます。

『どうしても約束を守りたくて、即身仏をしてこの世に留まっておるのだ、再び東様に出会うために…』

 ミイラから青い炎が揺らめいて人の形を取ると、薄い朱色の小袖に朱色の袴を着て、髪を高いところに縛り上げた、美しい青年が現れた。
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