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橘と威津那の陰陽寮のひととき

あだ名のセンス

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(威津那は出会った頃から、私のことを『君』としか呼ばない…なぜかしら?)
 橘と言われたことないことに気がついた。
「なんで、私の名前を呼ばないの?」
 橘は直接聞く。
 疑問に思ったことはすぐに聞く性格なのだ。
「名前は魂を肉体に縛る呪いでもある……だから、君の名前を呼んでしまうと、その時点で君を管狐にして縛ってしまうかもしれないからね。」
 それは単なる使役にしようとは考えていない橘自身を大切に扱おうとしているのだと気がつくと嬉しい。
「私は『威津那』って名前で言ってるわよ?」
 年上に対する敬語も威津那に対して使っていないけれど……
「僕はに名前で呼ばれることは好きだよ」
「じゃ、さん付けしなくていい?」
「うん。いいよ。さん付けされると一線引いた感じでもあるけど、君ならその線はいらないよ」
 威津那は気づいていないだろうけれど、少年のように微笑んで嬉しそうだった。

「あだ名だったらいいの?」
 橘はピコン!と狐耳をたてて良い案を閃いて聞いてみた。
「でも、僕がつけたら同じだよ。
「でも、でも、なんて呼びたい?なんでつけてくれるの?」

「狐の、半妖だから、『コンチャン』?
橘の『た』をとって『ターちゃん?』
 奇をてらって『みかんちゃん』?」
「……………」
 橘は渋い顔をしていた。
「………気に入らない?」
 威津那は橘のいつに無い表情に様子に困惑した。
「『橘』で、お願いします」
「名前はまだ呼べないよ…僕の信念として結婚したら名前で呼ぶって決めているんだ」
 それは自分のものという証。
 とは女性に対して失礼だけど、誰にも触れさせたくないという意味だ。
橘は、また狐耳をピンとたてて、
「じゃ、マイハニーは?」
 橘名前すらない。西の言葉で愛しい人とか妻とかと、高良から聞いたことを思い出し言う。
「横文字嫌い。」
 威津菜は敵国だった欧米の言葉が未だに嫌いだ。
 わざとそっぽを向いてツーンとする。
(威津那って子供ぽいところあるのよね。だから、タメ口になっちゃうのかしら?)
 八歳違うのに精神年齢変わらない気がする…それほど打ち解けていると言うことだけれど……
(恋仲のような打ち解け方をしたい!)
「そんなに僕が考えるあだ名が不服なら君ならなんて僕のことを呼ぶ?」
 名前のことについても不服みたいだ。
「うーん…そうねぇ…」
 橘は少し考えて考えて、威津那の耳もとで、

「….……あなた…」

 こそこそ話をするように囁く。
 威津那の顔が真っ赤になる。
「あ、あなた…?それって、夫婦の呼び名じゃないかい?」
 威津菜は動揺する。
「だって、『君』、『君』言われてたら、『あなた』のほうが対等じゃない?」
 と言うひらめきだった。
「でも、耳元で言われるのは、反則…息かかるし…ドキドキするし…」
 しかも、色っぽく息が多めに囁かれるとあらぬ想像してしまう。
「じゃ。わたしにもやっていいわよ?どんなあだ名でも我慢する」
「がまんて……」
(そんなに名前のセンス悪いかな?)
 と、多少は自覚があるのでむつかる。
 なんとか捻り出した答えを狐耳に手を寄せて、口を寄せる。
(名前呼ばれたらどうしょうでも、ターちゃんとか変なあだ名もやよねー。)
 と考えていると、
「僕のかわいい小狐ちゃん……」
 と、威津那は囁き、
「誘うようなことすると、いたずらしちゃうよ?」
 威津那の声はいい声すぎて橘の体をゾクゾクと快感が襲う。
「うにゃん!」
 つい、変な声が出てしまった。体を無意識に抱く。心臓がドキドキする。
「ネコ科になってるよ?」
 橘の様子に、威津那はクスクス笑う。
 さらに、また耳元に唇を近づけて
のほうが良かった?」
 また、耳で囁く……
「ひゃっ!もっ!耳はだめぇぇ!」
 そう言って、真っ赤になって狐耳をふさぐ仕草はかわいい。
「や、やばい…顔がとろけちゃう、しかも、なに、すけこましみたいなセリフ吐いてんのよ!わざとでしょ!」
「お互い様だよ、君の吐息もやばかったし」
「もうもうもう!威津那さんのいじわるぅぅ!」
 恥ずかしさのあまりポカポカ威津那の背中を叩く。
 周りから見れば、キャッキャ、うふふをしているようにしか見えない。
 だが、ここは陰陽寮長の局の橘の部屋だ。
 その様子をじーっと几帳の隙間から見ていた。
「…….お前ら、イチャイチャするくらいなら孫でも作れ!わしの耳が痒くなるわ!」
 狐耳の耳ならば囁き声でも聞こえていただろう……

 急に橘と威津那は心底恥ずかしくなって黙る。

「あー、流花にあいたくなったわ…ちょっと家に帰って愛しあってくるから留守番してろ。わしが帰ってくる間に孫でも作っとれ?」
 といい、異界を通って愛しいの妻の元が待つ自宅に一時帰宅してしまった。
 二人っきりの局は居た堪れなくなった威津那は几帳で仕切られただけの狭い自分の部屋に帰っていった。




「で、僕の生まれたときからの眷属の烏は、『かーちゃん』て名前なんだよ。」
 かーちゃんと呼ばれた烏はドヤ顔する。
 気に入っているようだ。
「なんでも、『ちゃん』を付ければいいってもんじゃないわよ?」
 橘は威津那の以外な一面に苦笑しか出なかった。
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